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擾乱の終わり

 その後の数日間は、とにかく忙しかった。

 詳細な報告書の作成から、関係各所への口頭による報告・連絡や祝勝会への参加など、慣れない仕事がどんどんやってきたのだ。

 その間に、魔導皇聖下とラトエンさまにも報告したりして、目が回りそうだった。


 とはいっても、頼れるクレアちゃんと沙彩ちゃんに、リィシィちゃんが主導してくれたお陰で、だいぶん助かっていたのだが。

 人の前に立つ、更に言えば人の上に立つことを生業としてきた人は、こういうときとても強いな、と思ったのだった。

 思うだけじゃなくて、私もそうならないといけないので、一生懸命側で勉強させてもらった。


 最も重要度の高い、公的なお仕事が終わった後で呼び出されたのは、冒険者ギルドだった。

 今回の功績で、冒険者ランクが上がったのだ。


 私、絢佳ちゃん、クレアちゃん、セラちゃんが、それぞれ冒険者ランクBになった。

 そして、リィシィちゃん、雫ちゃん、霓ちゃんは、それぞれ冒険者ランクAに上がった。

 元々Aランクだった沙彩ちゃんは変わりない。


 これで、パーティ「黒百合」は(事実上の)最高ランク冒険者を4名抱える、名実ともに最高ランクと言えるパーティになったのである。

 パーティにランク付け自体はないのだが。




 そうして一通りのことが片付いた後で、私たちは再び魔導車両に乗り込んだ。

 みんなで話し合って、ハウエン大公領の死禍の後始末をすることにしたのだ。

 未だ残存するアンデッドは多いし、地方各地がどうなっているのかの把握もできていない。


 とりわけ、神殿跡地周辺はそうである。

 そのため、私たちがその周辺域を回って、アンデッドがいれば掃討し、救援を求めていれば手を貸そう、というのだ。


 もちろんこれは、沙彩ちゃんの願い、そして誓いのためでもある。


 しかし、誰が言い出したわけでもなく、みんなでそうしようと話し合って決めたのだ。

 パーティ「黒百合」みんなの意志が、おなじ方向を向いていたということだ。

 とはいえ、私たちには目的がある。だから、3ヶ月だけ、と期限を切った。


 それでも、沙彩ちゃんはみんなに深くお辞儀をしてお礼を言ってくれた。


「ありがとうございます」


 沙彩ちゃんは律儀な人なのだ。




 出発してからも、暇な時間は送らなかった。

 間に合わなかった、アーティファクト作成や≪技≫の完成などを急いだのだ。

 ひな形はできていたし、実戦でも試してみた。


 その結果をフィードバックしつつ、みんなで話し合いながらひとつひとつ作り上げていった。

 およそ1ヶ月で、みんな完成を見た。


 まずはクレアちゃんの≪縛鎖結界≫。

 ≪結界≫の範囲が広がり、鎖の本数も増え、鎖に絡め取られた敵に≪デバフ≫をかける形になった。

 ≪結界≫自体の強度も上げて、「黒書の欠片」の力でも破壊されないようにしたものだ。


 次いで沙彩ちゃんの武装のアーティファクト。

 「黒書」や<死勁>に対抗し、それを滅ぼすための力が込められている。

 剣、盾、鎧の3点セットで、普段は腕輪に収めておき、瞬時に装備することができるようにした。

 それぞれが強化されただけではなく、再生可能な力を入れた。これによって、万が一破壊されても作り直さなくても復活させられるようにしたのだ。

 また、剣だけ、剣と盾だけ、といった風に一部だけ装備することもできる。


 それから、リィシィちゃんの≪呪文≫と≪奥義≫。

 ≪滅黒撃≫はほぼそのまま。これは一応の完成をみていたからだ。

 そして、「黒書の欠片」を≪封印≫する、≪封黒紋(ふうこくもん)≫。

 ≪虚無装備作成(きょむそうびさくせい)≫では、「妖書」と「虚無」を練り上げた武装を創り出すもの。

 武器は全部変形可能で、鎧……と言っていいのかどうかわからないが、全身スーツ状のものを纏うものだ。

 リィシィちゃんの身体のラインが丸見えで、ちょっとえっちだ。


 セラちゃんの<新武術>は、<妖気拳(ようきけん)>。

 ≪気≫を纏い、攻防に使い、さらには≪気≫を射出することもできる<格闘術>である。

 なかなかよくできていると思うのは、絢佳ちゃん全面監修のもとで創ったからだろうか。

 あとは、実戦のなかで微調整していく、とのことだった。


 雫ちゃんは≪治癒陣≫に加えて、≪強化陣(バフ・エリア)≫を創った。

 いずれも、クレアちゃんの≪縛鎖結界≫と連動させられるし、独立して出現させることもできるものだ。

 ≪強化陣≫は文字通り、雫ちゃんが味方と指定したものとパーティ「黒百合」のメンバーに、各種≪バフ≫をかけるもの。

 また、いずれも破壊対策が取られて、「黒書の欠片」の力でも消されないようにしてある。


 霓ちゃんは、各種アーティファクトである。

 まず、<陰陽術>に必須の≪祭祀≫がおこなえる、小さな「祭壇」。

 そして、≪式神(しきがみ)≫のアーティファクトである、白い(・・)八咫烏(やたがらす)。人語を喋ることもでき、すぐにパーティのマスコットと化した可愛い子である。名前はやっちーだ。

 最後に、刀と脇差の2本をアーティファクトとして創った。

 仕様は沙彩ちゃんのそれにほぼおなじだ。違うのは、「黒書」と<陰陽術>の「魔」、即ち「(けが)れ」に対抗する力であるというところだ。


 絢佳ちゃんは特になく、みんなの相談役に徹していた。

 私も、みんなが必要とする力を<妖詩勁>や<姫詩勁>で用意したくらいである。

 アーティファクトの武装のひとつでも創ったらどうか、という声もないではなかったが、私は「世界法則」そのものに対して力を使う必要があるのだ。

 いざというときにそれに割く力が足りない、などということが万が一にもないように、空けておくことを選んだ。


 また、「黒書」以外でも、<死勁>のように対抗手段を要する敵が出てこないともかぎらない。

 そのためにも、枠は空けておきたかった。

 慎重すぎるのかもしれないが、私の選択にみんなも納得してくれたので、そのままでいくことにする。




 そうしている間にも、私たちは各地を周り、徘徊するアンデッドを倒したり、生存者のいる孤立した村落を見かけたら≪通信≫で位置情報などを連絡し、死体を見かけたら懇ろに埋葬した。

 生存者はほとんどおらず、アンデッドと死体と「死んだ土地」ばかりの光景に、私たちが決して気楽でいられなかったのは、言うまでもないだろう。


 だんだんと意気が消沈していく中でも、私たちは慰め合い、励まし合って各地を回った。

 助けを求める人がいるかもしれないのなら、私たちは歩みを止められないのだ。

 それはもはや、沙彩ちゃん個人の想いに留まらず、全員の意志となっていた。


 こんなにも酷く、無慈悲な仕打ちをおこなった「死鬼王」エマが赦せなかった。

 また、神話の時代から続く、この土地の「死気」の害もどうにかできないものか、と移動中などに何度も何度も話し合った。

 だが、今の私たちの手に負えるものではない、ということを思い知らされるだけに終わった。


 「世界法則」の件が片付いたら、なにかできることがないか探してみようと、私たちは誓ったのだった。




 そうして一月半ほどが過ぎたある日のことだった。

 イスマイル・フィッシャー「総長」から、≪通信≫が届いた。


{不解塚卿かね。イスマイルだ}


{そ、「総長」閣下! ご無沙汰しております}


{ああ。卿らの活躍も聞いている。ご苦労だったな}


{いえ、もったいないお言葉。「姫騎士」として精一杯のことをしたまでです}


{うむ。今回、≪通信≫を送ったのは他でもない。政変が片付いたことを卿らに伝えるためだ}


{政変が、片付いた、のでありますか?}


{そうだ。主犯格の極刑が遂行され、その他のものたちの拘置も済んだ。そして新しい人事のもと、その就任式も無事に終わった}


{そう、ですか}


{新体制は、親魔導皇派が中心となっている。これからは、卿らも動きやすくなることだろう}


{は、はい}


{入れ替わった人事について送る。私からは以上だ}


{はっ、ありがとうございました}


 ≪通信≫が切れると同時に、「人事メモ」なるファイルが送られてきた。

 そこには、3人の名前があった。


 「執政官」に能嶋(のしま)(みん)子爵、「法務官」に佐羽(さわ)崇憲(たかのり)伯爵、そして、「元老院」議員として、ジェイコブ・キング侯爵の名前だ。


 私はみんなに話をして、クレアちゃんにファイルを送った。

 クレアちゃんはなにも言わず、静かにうなずいた。


 こうして、「姫騎士擾乱」は終わり、国内は表向き、平安を取り戻した。


 さらにその晩、ラトエンさまからねぎらいの言葉をもらった。

 同時に、魔導皇聖下より、今回の働きに対する特赦として、セラちゃんの身代金10万金貨を免除するという書面が送られてきた。


 私を含めてみんなは一様に驚いていた。

 とりわけセラちゃんは、どうしたらいいのかわからないといった風に困惑した様子だった。


「こんな形で借金が消えてしまって、ほんとにいいのか?」


 だが、クレアちゃんが言った。


「考えてもみろ。あの「死鬼王」と肉塊、あれに対抗できる人間が今のこの世界に他にいるか?」


 しばしの沈黙の後、セラちゃんは、


「いいや。いないな。あれは無理だ」


「だろう? だから、いいんだ。私たちがいなければ、あれがあの後、どれだけの惨劇をもたらしていたか。それを防げただけで、10万の価値はあったんだ」


「少なくとも、聖下はそう判断された、っていうことだよね?」


 私の言葉に、クレアちゃんはうなずいた。


「そうだな。じゃあ、そういうことにしておくか」


 セラちゃんもうなずく。


「でも、ありがとうな」


 そう言って、セラちゃんはみんなを見回した。

 私たちも、セラちゃんにうなずいて返す。




 そうして夏が終わり、秋が近づいてきた頃。

 私たちはハウエン大公領の見回りを終え、隣の海王領に向かった。


 不確かな情報ながらも、海王領の理京(りけい)という街で「死鬼王」の噂が出たと連絡が入ったからだ。

 あれから3ヶ月、復活していてもおかしくない時期ではある。

 理京は神殿跡地からは1000km以上離れた、山奥にある。


 噂が噂でしかないとしても、私たちに行かないという選択肢はなかったのである。

今回で第三章は終わりです。

次回から第四章に入ります。


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