表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/71

「死鬼王」 後篇

 そして再び、戦いの火ぶたが切って落とされた。


 最初に飛び出していったのは、もちろん沙彩ちゃんだ。

 今度は真っ直ぐ上位種吸血鬼を目指して駆けていく。

 セラちゃんとリィシィちゃんもそれに続く。


 ミートボールに対峙したのは、私とクレアちゃんと霓ちゃん、そして後衛に雫ちゃんだ。

 ミートボールの火はすでに鎮火していた。

 それはもぞもぞと蠢くと、腕やら脚やらを振り回して、ゆっくりとこちらに向かってきた。


 クレアちゃんが魔導銃を撃つ。

 着弾とともにたくさんの顔が悶え叫ぶ。

 そこへ雫ちゃんの魔矢が突き立つ。


 私も苦無を投げて≪打撃≫を発顕させる。

 苦しみから逃れようとするかのように肉塊が震え、滅茶苦茶に手足を振り回した。


 その腕、脚、頭を、霓ちゃんが刀を振り回して、次々と斬り落としていった。


 そのとき、ミートボールの表面に複数の突起のようなものが見えた。

 骨――おそらくは肋骨だ。


 次の瞬間、肋骨が一斉に発射され、私たちに襲いかかってきた。

 霓ちゃんは至近距離だったにも関わらず、難なく刀で捌き無事だった。

 私とクレアちゃんは盾で防ぎ、雫ちゃんのところへは行かせなかった。




 突撃していった沙彩ちゃんは、再び重装甲冑の上位種吸血鬼に阻まれた。

 しかし、その脇にセラちゃんが突っ込むと、斧を持つ腕を素早く掴んで関節を極めた。

 男はバランスを崩し、力の抜けた右手から斧が落ちる。


 そこへ沙彩ちゃんの剣が振り下ろされ、男の左肩が斬り裂かれた。


「ぐあああっ!」


 男の咆吼が響き渡る。


 セラちゃんはさらに男をねじ伏せ、無防備な背中に沙彩ちゃんの剣が突き立てられた。

 そして、リィシィちゃんの槍が投じられ、エマの胴体に突き刺さった。

 リィシィちゃん自身も吸血鬼を飛び越え、エマに迫る。


 エマは苦悶の表情をしながらも、杖を振り上げた。


「≪播死(デス・オール)≫!」


 その瞬間、私たち全員に≪死≫の波動が襲いかかった。

 しかしそれは、「妖書」と<癒勁>の力で影響を及ぼす間もなく霧散する。


「なんですって!?」


 エマが驚いている間に、リィシィちゃんは槍を引き抜くと、メイスへと変形させる。

 そして、大技の構えを取った。


「≪滅黒撃(めつこくげき)≫」


 エマの杖に向かってメイスを振り下ろす。

 杖はメイスの命中とともに亀裂を走らせ、そして消えた。


「ばかな!」


 「黒書の欠片」であった杖が消えるのを見て、エマが驚愕する。

 リィシィちゃんは、再び≪滅黒撃≫の構えを取る。


「≪滅黒撃≫」


 リィシィちゃんのメイスがエマの頭蓋に当たり、粉砕した。

 同時に、エマ自身の<黒勁>が消える。


「ぎゃああああああ!!!」


 エマが絶叫する。


 それに応じるように、ミートボールが蠢動した。

 吸血鬼の男も、同様に身体を震わせる。


「わ、わたしの「欠片」が……」


 エマが絶望の色を見せた。


 そこへ、沙彩ちゃんが飛びかかった。


「苦しんでいったものたちの思いを知りなさい!」


 沙彩ちゃんの剣がエマの首を飛ばした。


 その瞬間――


 エマの身体がぐねぐねと蠢き、そして、爆ぜた。


 そして、皮膚の一枚下に詰まっていたにしては数が多いどころではない、無数の百足が周囲に飛び散った。


 直撃を食らったのは、リィシィちゃんだ。

 沙彩ちゃんは盾でなんとか防ぎ、セラちゃんもその影に逃げることができた。


 少し距離のあった私たちミートボール組も、クレアちゃんの盾に守ってもらえた。


「いやあああああ!!!」


 リィシィちゃんの絶叫が木霊するなか、上位種吸血鬼の男も、ミートボールもその動きを止めた。


 百足は何百といた気がした。

 なにしろ数が多すぎて、数える暇などなかったのだ。


 百足はその数の暴力でクレアちゃんの≪結界≫をパンクさせると、素早い動きで建物の隙間へと消えていった。


「今の、いったいなに?」


 私が誰ともなしに言うと、


「逃がしました」


 沙彩ちゃんが私の方を振り返りながら言った。


「逃がした? えっ、それって……」


「はい。エマです」


「今のが?」


 沙彩ちゃんが、足許の百足を踏みつぶしながらうなずく。


「「幽王」になるための儀式では、まず小型の生命体に取り憑き、そこから生態系を上って上位の生物を憑り殺していき、最後に人間に至ることで「幽王」となる、という話があります」


 沙彩ちゃんはそこで足許に目をやりながら、


「そしてそれは、「幽王」として倒されたときに、再び「幽王」として復活するときにも適用されるのです」


「つまり、それが百足っていうこと?」


「おそらく」


「だからあんなに百足がいたのか」


 クレアちゃんが毒づいた。


「そうですね」


「くそっ。≪結界≫さえ破られなければ……」


 苦々しげにクレアちゃんが言う。


「でもそれは、仕方ないよ。みんなだって、間に合わなかったんだもん」


 私が言うと、


「ああ、わかってる。わかってはいるんだが、な」


「次は逃がしません」


 沙彩ちゃんが、決意の籠もった言葉を吐いた。


「「聖杜神(・・・)に誓って(・・・・)、次こそは必ず仕留めます」


 それは、「聖騎士」の誓い――「誓命(せいめい)」だった。

 もし誓いが果たされなければ、「聖騎士」としての力を喪うというほどの決意の表れの言葉。


「そうだね。次は、必ず倒そう」


 私が言うと、沙彩ちゃんはうなずいた。


「はい。必ずや」


「「死鬼王」は、いつ復活するか予想できるか?」


 と、クレアちゃん。


「わかりません。ですが、それほど早く復活することはできないと思います」


「そうか」




 私たちは、死体を並べて野良のアンデッドにならないように祈りを捧げた。

 その上で、≪保存≫と≪結界≫を張っておく。

 そして、私は徐さんに≪通信≫を送った。


{不解塚祝です}


{はい。徐です}


{えと、「死鬼王」を倒したんですけど、逃げられました}


{倒したけど逃げられた、とはどういうことでしょうか?}


 私は沙彩ちゃんから聞いた話をした。


{なるほど。わかりました。では、「死鬼王」はいずれ復活するということですか}


{はい。残念ながら、そうなります}


{ですが、一応撃退はできたということですよね?}


{はい}


{わかりました。早速、埜木司令と柘植卿に伝えます。皆さんも、第26駐屯キャンプまでお戻りください}


{了解です}


「第26駐屯キャンプまで、戻ってこいって」


「ま、そうだろうな」


「すぐに戻りましょう」


 沙彩ちゃんの言葉に、みんなはうなずいた。




 外に出ると、私たちは大勢の人たちに迎えられた。

 口々に、大丈夫か、勝ったのか、などと言っている。

 だいぶん混乱しているようだった。


 クレアちゃんと沙彩ちゃんが、私の代わりにみんなに説明をしてくれた。

 「死鬼王」を倒したこと、でも逃げられたこと、現場と死体を保存してあること、などなど。


 こういうとき、私のようにあまり要領を得ず、だらだらと話してはいけない、らしい。

 毅然とした態度で、明確に事実のみを伝えるのが大事なのだそうだ。

 そのため、ふたりが前に出てくれたのである。

 ありがたいことだ。


 それから魔導車両を「魔導騎士」のひとりに預けて第26駐屯キャンプまで乗ってきてくれるように頼むと、私たちは各自のテレポートで、先行して第26駐屯キャンプに跳んだ。


 急に現われた私たちに、キャンプの衛兵は驚いていたが、すぐに人を呼びに行ってくれた。


 程なく、柘植さんと徐さんと篠岡さんが走ってきた。


「こんなに速く、いったいどうやって?」


 徐さんがすかさず尋ねてくるが、私たちはこの問いかけを無視した。

 ふたたびクレアちゃんと沙彩ちゃんが説明をしてくれて、追加で魔導車両が着いたら鬼霪砦まで乗ってくるように依頼する。

 そして、柘植さんが同意したのを見るや、鬼霪砦にテレポートした。




 久しぶりの鬼霪砦は、あいにくの土砂降りだった。

 ざあざあと五月蠅い雨音のなか、私たちはびしょ濡れになりながら門衛に話をした。

 伝令を待つ間、門の中で雨宿りさせてもらう。


「ひどい雨だねー」


「そうだね」


 夏も近く、蒸し暑い。


 門は多くの人が行き交い、門衛も忙しそうに対応していた。

 時々聞こえてくるのが、「死鬼王」討伐という言葉だ。

 早速噂になっているようだった。


 間もなく、伝令が走ってきて、ついてこいと言う。

 私たちは雨の中に飛び出していき、走って作戦司令室に行った。


 埜木司令は、狐につままれたような顔をしていた。

 私は一歩前に出ると、


「閣下、ご報告致します。「死鬼王」討伐はしたものの、取り逃がしてしまいました」


 すかさず、沙彩ちゃんが「幽王」の話を補足する。


「なるほどなあ。でもそういうことなら、まあ、仕方ないんじゃないかなあ」


 頭をかきながら、埜木司令がそうぼやく。


「仕方がない、はどうかと思いますが……。しかし、拠点を構える「幽王」を打ち倒しても、その魂とでも言うべきものを取り逃した、という話は古い書物で読んだことがありますね」


 とは、冒険者ギルド長のガブリエーレさんの弁だ。


「百足を殺して回れって通達するわけにもいかないだろうしなぁ」


「もうすでに、次の生物に移り変わっている可能性もあります」


「だよなぁ。どうします?」


 埜木司令は、聖フィアス教会「祭主」のパールさんに話を振った。


「どうもこうもない。「幽王」を倒したことは事実だ。そう思うがね」


 パールさんは、前に会ったときよりも柔和な表情をしているように見えた。

 私たちのことを認めてくれた、ということなのかもしれない。


「じゃあ、「死鬼王」討伐作戦成功ってことでいいんですかね?」


「それを決めるのは閣下です!」


 ガブリエーレさんが不満げに言う。


「まったくです」


 とは、エッカルトさんだ。


「じゃあ、そういうことで本営発表よろしく」


 直立不動で控えていた「魔導騎士」が、敬礼して部屋を駆けだしていった。


「みんな、ご苦労さん。ひとまず休んでていいよ」


「はい。ありがとうございます」


 私も敬礼し、みんなで司令室を辞した。


 私はようやく肩の荷が下りた気がして、はう、とひとつため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ