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お仕事とお食事

 私たちは、依頼書の張り出されている掲示板に向かう。

 依頼書の上には依頼ランクが大きく書かれていて、Fランクである私たちはDランクまでしか受けられない。なので、D以下のものを探して目を通していく。

 絢佳ちゃんは文字が読めないので、なんとなく眺めている風だ。


「うーん。どれがいいのかわかんないなぁ」


「一番、報酬額の大きいのにするです」


「それもどうなんだろう」


 私たちが相談していると、


「君たち、新米冒険者かな?」


 と、声をかけられた。

 見ると、ローブを着た若い男が私たちを見下ろしていた。


「僕はスペンサー・タルボット。在野の「魔導師」をやってる。よろしく」


「あ、よろしくお願いします」


「よろしくです」


「なにか困ったことでも?」


「いえ、どの依頼を受けたらいいのか、ちょっとわからなくて」


「ふむ。君たちはなにができるんだい?」


「私は、えと、<龍姫理法>が使えます。この子は戦えます」


「へぇ、その年でねぇ。在野かな?」


「はい」


「なるほど」


 スペンサーさんは、ざっと掲示板を見回す。


「君たちふたりだけ?」


「はい」


「じゃあ、今、ここにあるのではちょっと難しいんじゃないかな?」


「いいお仕事ないです?」


「そうだな……どうだろう、僕が日銭を稼ぐのに世話になっている仕事、やってみるかい?」


「どんなお仕事なんですか?」


「魔導武具を創る仕事だよ」


 魔導武具とは、武器・防具を<龍姫理法>で強化した武具のことである。この国の特産品でもあり、売れ筋商品のためすぐに品薄になるのだという。<姫流剣術>で戦うには魔導武具が必要なこともそれに拍車をかけている。


 ちなみに、先ほど私が絢佳ちゃんと戦ったときに創ったのも魔導武具だが、あれは魔術のみで創り出した装備で、この仕事とは目的が異なる。それにふつうに作った武具に魔法の効果を乗せた方がより強い武具になるのは当然である。


 聞けば、任官拒否や退役をした在野の「魔導騎士」も少なくないのだという。だったら正直に書いておけばよかったとも思ったが、冒険者カードの更新はいつでもできるので、それは今後のことでいいだろう。


 強化の効果は高いほど高値がつくが、最低限のものでも十分に付加価値がつくので、仕事になるのだそうだ。

 絢佳ちゃんのすることがなくなるが、本人は構わないとのことだったので、私たちはその仕事を受けることにした。


 ちなみに、スペンサーさんが親切にしてくれたのは、彼がおなじように駆け出しのときに、先輩冒険者に親切にしてもらったから、その恩返しをいつもしているのだという。

 こういう「正の連鎖」を心がける人がいるというのは、この国が豊かな証拠なのかもしれない。




 大通りから少し中に入って、鍛冶ギルドが多く存在する街区に来た。

 あちこちから鍛造の音と熱気が伝わってくる。


 武器屋の看板を掲げたお店の一軒に、スペンサーさんに伴われて入った。

 各種武器・防具がところ狭しと並べられた店内の奥に、店の主人らしき、がたいのいい男がいた。客らしき人物も数人いて、店舗の規模からして賑わっていると言えるのではないだろうか。


「おう、スペンサーの。……なんでぇ、そいつらは」


 彼が鋭い視線をこちらに投げかけてくる。

 私は硬直してしまった。


「クレイグさん、こんにちは。いやね、この子が<龍姫理法>使えるニュービーなんですけど、いつもの仕事やらせてやってもらえないかと思いまして」


「はぁん。いつものかい。しかし、まだガキじゃねぇか。ちゃんとやれんのか?」


「そこは僕が指導してみますから、大丈夫ですよ」


 クレイグさんは、破顔して、


「ま、いいぜ。好きなようにやんな。よろしくな、嬢ちゃん」


「あ、よ、よろしくお願いします。不解塚祝です」


「よろしくです。恋ヶ窪絢佳です」


 ふたり揃って頭を下げる。


「奥に行きな」


 顎で奥への扉を示す。




 扉の先には、店内より多くの武具が乱雑に積み上げられていた。


「すごい量ですね」


「人気店だからね、ここは」


「そうなんですか」


「でも、店内のお客さんの姿は少なかったです」


 数人を多いと見るか、少ないと見るかは個人で異なるらしい。


「ああ、ここは専ら傭兵ギルドに卸売りするお店なんだよ。小売りもやってるけどね」


 簡素な丸椅子を奥から出してきたスペンサーさんが、私たちに座るようにうながした。


「さて。仕事なんだけど、祝ちゃんだったね。どれくらいの効果が安定して出せる?」


 効果とは、もちろん魔法の効果の話だ。安定してというのは、失敗なく出せる効果がどの程度のものかということ。要するに実力を聞いてきたのだ。


「えっと。そうですね。単一効果でなら、4効果増強できます」


 4効果増強できる、というのは、元々の効果に4足せるということ、つまり5効果だ。


「えっ、そんなに!?」


 スペンサーさんが驚くが、チート能力を使わなければその程度ということである。でも予想外だったらしい。本気の効果を言わなくて正解だったと内心、ほっとした。


「だったら、……そうだな、≪打撃増強≫に4、それに≪持続≫という割り振りで武器をやってくれるかい?」


 <龍姫理法>は汎用魔術であり、その用法に関しても、合理的に調整がおこなえるように作られている。そのため、今のように効果数を好みで割り振ることで、様々な用途に対応できるのだ。


 ≪打撃増強≫に4とは、武器の打撃力ボーナスに4効果ということ。

 ≪持続≫とは、効果を持続させるようにする、ということだ。<龍姫理法>は、基本では「瞬間」効果しか持たない。そのため、効果が発顕されたらすぐに消えてしまう。それを≪持続≫させれば、今度は効果は「永続」するようになる。


 瞬間と永続。ずいぶんと極端ではあるが、これも合理的判断というものなのだろう。

 私はうなずいた。


「出来高制で、武器ひとつごとに1金貨でどうかな?」


「そんなにいただけるんですか?」


 今度は私が驚く番だった。


「これでもお店には利益が十分出るよ。僕が直接請け負うときは、金貨1.5でやってもらってるくらいだ」


「魔法って高いんですね」


「そうだね。特に<龍姫理法>はこの国の根幹技術でもあるから、広く取引されてて、これでも安いくらいだよ。他の国で魔法サービスを請け負うなら、どんなに低くても3倍以上は稼げるよ」


「そうなんですか」


 これは、いい職場を見つけたかもしれない。

 <情報理法>情報によれば、1金貨あれば上等の食事3食にお酒もついてくるくらい。宿代で考えるなら、ふたりで5日から1週間くらいは泊まれる。魔導武具を5個も作れば、数日は過ごせる計算だろうか。


「わたくしができることはなにかないです?」


 絢佳ちゃんが言った。ひとりなにもせずを良しとしていない感じだった。


「そうだね。布で武具を磨くことはできるかい? 布に油を染みこませて、丁寧に塗り込んでいくんだ。革鎧はこっちの油を使う。金属部分は武器のと一緒だ」


「はいです」


「これは、出来高だとひとつ1銅貨くらいかな?」


「ずいぶん安いですけど、仕方ないです」


「ははは。じゃあ、とりあえずクレイグさんに話してくるよ。休憩なんかは適宜、取ってくれて構わない。夕方にまた顔を出すから。がんばって」


「はい。ありがとうございます」


「がんばるです」




 私は効果の発動のために2時間をわざわざ費やすのはどうかと考えた。もちろん、それで生産数を上げれば、出来高制なのだから相当稼げるだろう。しかしそれは、逆算してあり得ない数だとすぐにばれてしまう。


 そこで、今日は4個作ると決めた。

 <情報理法>と<龍姫理法>の同時発動能力を使って、1時間働く。そして休憩がてら、絢佳ちゃんの仕事も手伝う。という寸法だ。

 先ほど絢佳ちゃんと戦ったときよりも、自分のチート能力の恩恵が大きかったかもしれない。




 昼過ぎになって、クレイグさんが顔を出した。

 ちょうどふたりで武具磨きをしているところだった。


「おう、やってるな。そろそろ、飯食ってきたらどうだい?」


 親切で言ってくれているのはわかる。しかし、私たちにはお金がないのだ。

 私たちが顔を見合わせていると、


「あ、そうか。お前ら、金ねぇんだな?」


 私が正直にうなずくと、クレイグさんはこちらにやってきて、出来上がった武器や磨いた武具を見た。


「うん。仕事っぷりは確かなようだな。俺はきちんと仕事のできるやつは認めてやるんだ」


 そう言って私たちに笑顔を向ける。

 そして、腰につけた財布から1銀貨取り出すと、私に放ってきた。


「それでうまいもんでも食ってきな。そんで午後からも仕事に精出してくんな。あ、そいつは奢りだよ」


「え、あ、ありがとうございます!」


「ありがとうです!」


 私たちはお礼を言うと、笑いあった。




 クレイグさんが教えてくれた美味しい定食屋さんにつくと、中は職人さんでごった返していた。

 周りのひとの注文の様子を見ながら、日替わりランチをふたり分頼み、カウンターでお金を払って、お釣りをもらい、トレーに載った食事を受け取って壁際のカウンターに持っていった。


 今日のランチは、野菜入りのコーンスープとライ麦パン、厚切りベーコンとじゃがいも、それにコップ一杯の水だ。とても美味しそうで、お腹がなった。


 考えてみれば、私は生まれてからこの方、なにも食べても飲んでもいなかった。これが人生初の食事ということになる。そう思うと、ちょっと感慨深かった。

 絢佳ちゃんにそのことを小声で伝えると、彼女はびっくりしたようだった。


「わたくしはてっきり、修業の成果的なもので飲まず食わずなのかと思ってたです。少なくともわたくしはそうだったです」


 絢佳ちゃん的には、人間、修業を積めば、飲まず食わずで3日間くらいなら、休まず戦い続けることも苦ではなくなるらしい。本当だろうか?


 でも実情は、私が人造の魔力生命体であるため、魔力が枯渇しないかぎり寝食はほとんどいらなくなるからのようだ。「妖書」――<妖詩勁>の力もあるみたいだが、そういう検証は後でいいだろう。今は、ご飯を美味しくいただくのを優先する。


「じゃあ、いただきます」


「いただきます」


 人生初のお食事は、ほっぺたが落ちるほど美味しかった。一口ひとくち、じっくりと味わって、残さず食べた。いい初体験だった。クレイグさんのお勧めに間違いはなかった。




 お店に戻ってから、午後の作業にかかる。

 私の分は、午後に2個。あとは適当に絢佳ちゃんを手伝ってひたすら磨く。


 夕方には約束どおりスペンサーさんが顔を出してくれた。

 私の魔法効果を見て満足そうにうなずくと、今度はふたりの合作である、磨いた武具を軽くチェックした。


「クレイグさん、ちょっといいかな!」


 その声にすぐにクレイグさんも顔を出す。


「仕事の成果見てやってくださいよ。立派なもんだ」


「ああ、昼飯のときに見たが、きっちりやってくれてる。いい子紹介してくれたな、おい」


 クレイグさんは磨いた武具の方を丹念に見ると、ふたつほど横によけた。どちらもラメラーアーマーの胴鎧だ。


「このタイプは、ちょっとコツと工夫がいるんだ。こいつはあとで俺がやっとくが、他は満点だ」


 絢佳ちゃんが笑顔でうなずいた。

 他方、男ふたりも、にやけ合っていた。


「お給金、弾んでやってくださいよ」


「おうともよ」


 クレイグさんは腰の財布から、5金貨を出して手渡してくれた。かなりはずんでくれたのがわかる。


「ありがとうございます!」


「ありがとうです!」


 遠慮なくいただいて、明日の仕事の約束も取り付けてから、私たちは店をあとにした。




 そして、スペンサーさんおすすめの宿屋にやってきた。クレイグさんのお店からはずいぶんと歩いたが、お勧めなら仕方がない。

 そこは宿屋街の一画にある、表からは見過ごしそうなお店だった。


 扉を開けて中に入ると、そこは酒場になっていて、冒険者や旅人といった風体の客でいっぱいだった。

 まずは、部屋を取らなくてはならない。

 カウンターにいる、店の主人らしき男に向かっていった。


「あの、泊まりたいんですけど」


 主人は私たちを見て、一瞬、怪訝そうにしたが、


「食事別の、ふたり部屋でいいかい?」


 と、ややかすれた声で聞いてきた。


「はい。それでお願いします」


「何泊だい?」


 私は絢佳ちゃんに視線で尋ねる。


「一泊いくらです?」


「一泊なら2銀貨、1週間なら1金貨と2銀貨だ」


 貨幣は共和国造幣のもので、1金貨が10銀貨、1銀貨が10銅貨になる。


「じゃあ1週間で」


 私がお金を渡すと、交換に鍵を手渡ししてくれた。


「階段上がって右側の3番目だ」




 部屋につくと、階下の喧噪が遠くに聞こえて、なんだかほっとした。

 ベッドに腰掛けると、向いのベッドに絢佳ちゃんも腰掛けた。


「今日はお疲れさまです」


「絢佳ちゃんこそ」


 ふたりで笑い合う。

 私はそのままベッドに身体を投げ出すと、落ちるように眠りについた。

 こうして激動の一日が、ようやく終わった。




          ***




「ついに来てしまったな」

「そうですね」

「なんで来るのかしら。わざわざこんな世界に」

「これでも利用価値はあるってことじゃないですか?」

「で、どーすんのよ」

「各自、配下のものに伝達、監視員を貼り付けさせる。それ以外、なにができるというんだ」

「そりゃ、そーだけど」

「それが私たちの仕事ですからね」

「どうせなら、ほっといて滅ぼしちゃえばいいのよ」

「そうすると、契約不履行でお前も死ぬぞ」

「あー、そーだっけ?」

「そんな大事なこと忘れないでくださいよ」

「そんなこと言ったって、契約とか決めたのいつの昔の話だと思ってんのよ」

「軽く二千年は経ってますよね」

「覚えてられるかっつーの」

「ぼやいていても仕方がない。それに、正体不明のもうひとりの方も気がかりだ」

「邪神信徒の反応は出てるんですけどね。それ以外がさっぱりですからね、不気味です」

「ほんとよー。この世界、邪神に狙われすぎじゃないの?」

「まったくですね」

「ともあれだ。そのふたりが一緒に行動している以上、そのまま監視するいい機会と捉えよう。では、各自、行動を開始せよ」

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