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カイレリア市

2018年1月27日追記:

内容の改稿をおこないました

お手数ですが、再読していただけると幸いです

 街道からルドア村への道が、私たちが分け入った少し先にあり、クレアちゃんと沙彩ちゃん、リィシィちゃんが魔導騎士と話をしている間に、残りのメンバーで馬車を取りに行った。

 戻ったときには、大方の話は終わっていた。

 <光真術>を修得している魔導騎士が2名と「魔導師」が1名、村に残ることになった。

 また、他にも霊廟――実際には霊廟ではないのだが――か、それに相当する遺跡などが荒らされていないか確認を取ることを、特務と冒険者ギルドで共有したという。


 その後、私たちは広場にテントを広げて野営した。

 見張りを交代で立てたが、その晩はなにごともなく明けた。

 アンデッドの脅威がなくなったものと見て、沙彩ちゃんも出発に同意してくれる。

 朝食後すぐに、私たちはカイレリア市に向けて出発した。

 道中、ルドア村への増援と思われる軍の馬車などとすれ違いつつ、昼過ぎには、カイレリア市に到着することができた。


 街壁は高く、分厚く作られており、壁楼の数も多い。

 歩哨が油断なく警邏に回っており、警戒が厳重に保たれているのがわかる。

 無骨な城塞都市、それがカイレリア市の第一印象だった。

 建物の合間から、船の帆が覗き見えて、ここが港町だと実感できる。

 門をくぐると、街は開けており、活気がみられた。

 しかし、傭兵や冒険者らしき姿が多く見受けられる。

 作戦のための特需、とでも言うべき活気なのだろう。


 私たちはまっすぐこの街の冒険者ギルドへと向かった。

 そして馬車を返却して、昨日の「死禍」について窓口で報告した。

 同時に、昨日倒したアンデッドの討伐報酬を受け取った。

 全部で4金貨と2銀貨だ。レイスが1体につき1金貨、残りは2銀貨という内訳である。

 それから召喚状をみせて、窓口で船を紹介してもらった。

 この街から碧河を下り、ケペク市へ向かう高速船だ。

 運賃は作戦司令部持ちなのでただである。


 ギルド内は冒険者で混雑しており、私が窓口から離れると、多くのものたちから注目を集めていた。

 私が窓口で手続きをしている間に、みんなが手分けして話を聞いて回ることになっていたのだ。

 残っていた絢佳ちゃんが笑顔で迎えてくれる。

 私たち子どもふたり組には声を掛けづらいのか、話しかけてくる冒険者はいなかった。

 そして、みんなが戻ってくると、ギルドを出て船着き場に向かった。

 道中、集めてくれた話を聞くと、鬼霪周辺がやはり強いアンデッドの報告が多く、この辺りではまだ聞いたことがないということだった。

 昨日の情報はこの街でも話題となり、また衝撃をもたらしていた。


 「死禍」が広まっている。

 それが端的な結論だと思われた。

 ケペク平原は、古来より土葬はおこなわれず、必ず火葬して荼毘に付す慣習が広まっているほどの土地だ。

 ゆえに、埋葬された遺骨がアンデッド化することはほぼないのだが、強いアンデッドに倒されるとすぐにその配下のアンデッドとして復活することもある。

 そのため、低ランクの冒険者は、身の振り方について悩んでいたという。


 昨日のアンデッドが強い抵抗力を持っていたことも、アンデッドの配下ゆえだろうと思われる。

 「死」ヒエラルキーという力は、新しい世界法則で消えているものの、それと同様の支配力はまだ活きている。

 直接の配下に対して、絶対の命令権を持つと同時に、支配者の抵抗力などをそのまま配下に与えることもできるのだ。

 私たちは、「妖術師」とニアミスしていた可能性が高い。

 或いは、同等の強さをもつアンデッドと、かもしれないが。

 しかし、ギルドで集めた情報、そして特務で共有されている情報のどちらにも、この辺りでの強いアンデッドとの遭遇報告は他にない。

 もちろん、「妖術師」もだ。


 沙彩ちゃんとしては、近隣を捜索したいことだろう。

 しかし、既にこの辺りにはいない可能性もある。

 レイスなどは強いアンデッドに入るものの、その脅威は「妖術師」の比ではない。

 それもわかっているからだろう、沙彩ちゃんはなにも言わずについてきていた。

「沙彩ちゃん」

 私は、見ていられずに声を掛けた。

「なんですか?」

「あまり思い詰めないで」


 私の言葉に、沙彩ちゃんは視線を下げた。

「すべてのひとを助けることはできないんだもの。それに、一度決めたんだよね?」

 沙彩ちゃんは黙ってうなずいた。

「昨日みたいに、道中で遭遇したら倒す、そういうことでいいんじゃないかなって私は思うよ」

「ボクもだよー、沙彩ちゃん」

「わたくしもですわ」

「ええ、わかってはいるんです。ただ、どうしても心の整理がつけられなくて……」

 沙彩ちゃんが、ぼそりとこぼした。


「話を、あたしの話を聞いてくれますか?」

 そのとき、沙彩ちゃんが真剣な表情で言った。

「あたしに少し、お時間をください。

どうしても聞いてもらいたいお話があるんです」

 私たちはうなずき合って、手近なカフェに入った。

 各々の注文が運ばれてきた後で、沙彩ちゃんが口を開いた。


「あたしの過去の話です。聞いてください」

 そして、沙彩ちゃんがゆっくりと語り出した。

 それは沙彩ちゃんの半生の物語。

 今の沙彩ちゃんを形作る、これまでの人生のお話だった。



 沙彩ちゃんは、海王領の、とある貧しい村の生まれだった。

 王渦人が多く住み、漁業を営む村で、沙彩ちゃんの父親も漁師だったという。

 それが、死禍で不漁となり困窮していたところをアンデッドに襲われて、村は壊滅した。

 そのとき沙彩ちゃんを救ってくれたのが、ひとりの「杜番」だったらしい。

 彼の名は、エルヴィン・ヴィーヒェル。

 生き残った数人の村の子どもたちとともに、沙彩ちゃんは聖杜教会の孤児院に身を寄せた。


 そして、報恩すべく自らも聖騎士を目指して、アビガイル・ムルシアという聖騎士の従士(じゅうし)となった。

 アビガイルさんは聖杜神国出身で「祐杜衆」に属しており、沙彩ちゃんもまた、「祐杜衆」の一員となった。

 それから聖杜神国と海王領を行き来しながら、民草を救う旅が始まった。

 その旅で、沙彩ちゃんはいろいろなものをアビガイルさんから、そして人々から学んだという。

 その旅こそが、沙彩ちゃんの原点なのだ。

 やがて沙彩ちゃんも聖騎士に叙され、独立した。


 「祐杜衆」は、その性質から、多くは冒険者になるらしく、アビガイルさんもそうだった。

 沙彩ちゃんもアビガイルさんとともに冒険者登録をしており、聖騎士になってからもそれは続いた。

 いろんなパーティを渡り歩きながら、様々な活動を積んできたという。

 そして、沙彩ちゃんは師を越え、「杜番」となった。

 アビガイルさんは、涙を流して喜んでくれたということだった。

 しかし、アビガイルさんはそれを機に聖騎士としての活動を引退して、孤児院の運営をおこなうことにしたのだ。


 沙彩ちゃんにとって、それはとても複雑な気分にさせられることだった。

 しかし、沙彩ちゃんは前を向いて歩み続けた。

 そして、例の夢を見て、私の下へと来ることになったのだ。

 そのとき、沙彩ちゃんは今までの人生がこのときのためにあったのだという確信を抱いたという。

 それまで無縁だった恋愛感情を初めて抱いたのも、そのときだったらしい。


 沙彩ちゃんらしい、真っ直ぐな人生だと、私は思った。



「あたしの家族も、友だちのほとんども、あのときに喪いました。

そして、あのときのアンデッドの恐怖は、今でも忘れることはできません。

だからこそ、あたしは見捨てることができないのです」

 みんなの間を、重い沈黙が覆った。


「沙彩ちゃん、わたくしは思うです」

 絢佳ちゃんが、その沈黙を破った。

「神の使徒としての誓い、それは神聖にして侵すべからざるものです。

ですが、今の沙彩ちゃんにとっての第一義はなんです?」

 沙彩ちゃんは顔を上げて、絢佳ちゃんを見た。

「それは、祝ちゃんじゃないです?」

 沙彩ちゃんが、はっとしたように目を瞠った。

「その時点で、沙彩ちゃんは無辜の民草を救って回る道とは違う道を歩んでいるんだと、わたくしは思うです」


「違う、道……ですか?」

「そうです。そして、沙彩ちゃんは自ら、「死鬼王」を討つと宣言したです。

それは新たな誓いだと思うです。

ならばその誓いにこそ、沙彩ちゃんは邁進すべきなのではないです?」

 絢佳ちゃんの言葉に、沙彩ちゃんの瞳から、迷いが消えた。

「ありがとうございます。その通りですね」

 絢佳ちゃんは、にっこりと笑って応えた。

 さすが絢佳ちゃんだな、と私は思った。


 私のつたない言葉、いや、ないに等しい人生経験では、その言葉は出てこないし、沙彩ちゃんの心を動かす言葉も出せない。

 それに、神に仕えるという立ち場からの言葉も、私には出せないだろう。

 とはいえ、私がそのことで落ち込んだわけではない。

 頼りになるのは、仲間だということだ。

 私には、こんなに頼りになる仲間がいてくれる。

 みんなで助け合い、補い合っていける。

 私には、そのことが誇らしく、そして嬉しかった。


「しかし……このタイミングか」

 クレアちゃんがふと漏らした。

 私には、クレアちゃんのぼやきの意味がわからず、首を傾げた。

「沙彩、リィシィ、どう思う?」

「タイミング、ですか?」

「それは、」

 リィシィちゃんは、ちらっと私の方を見て、言った。

「国内の争乱と、この「死禍」の、という意味ですわよね?」

 私はそこまで聞いて、やっとクレアちゃんの言っていた意味を理解した。


「そうだ。果たして偶然か、これは?」

「えっ、じゃあこれは、狙って起こっているっていうこと?」

 私が言うと、クレアちゃんはうなずいた。

「私にはそう思えてならないんだ」

「そうですわね。内乱に「死禍」とくれば、魔導共和国の国力減衰は必至ですもの」

「背後に、どこかの国があると?」

 沙彩ちゃんが問いかける。

「いや、国家かどうかは疑問だな。単純に「妖術師」が一連の争乱を起こして、共和国に災いをもたらそうということかもしれないし」


「邪神の信徒なら、そういうこともあるかもです」

 絢佳ちゃんがそう言った。

「そういうものたちの思考の根源は、驚くほど単純明快なものだったりするです」

「不幸を舞い散らせればそれでいい、みたいな?」

 私が聞くと、

「そうです」

 絢佳ちゃんがうなずく。

「あるいは、「黒書教団」か」

 クレアちゃんの一言が、胸に突き刺さる。

 冷や水を浴びせかけられたかのように、私は身震いをした。


「「妖術師」を影で操っているのが、「黒書教団」ってこと?」

 言葉にすると、それがいかに恐ろしいことかと、戦慄せずにいられなかった。

「あり得ないとは言い切れませんわね」

「でも、最初から「黒書の欠片」を投入してきていないのはどうしてでしょうか?」

 沙彩ちゃんが言う。

「機を見ていた、とも考えられるな」

 答えたクレアちゃんの視線の先にいるのは、私だった。

「もしかして、私を狙って……?」


 自分で自分の言葉に怯えて、私は目眩を覚えた。

 そんなこと、あり得るのだろうか?

 それはいったい、いつから始まった計画だというのか。

 そこまでの長期的な計画が実を結ぶ、などということがあり得るのか。

 そう、理性で否定してみても、「黒書」の力ならあり得る、と心の底の方で納得している自分がいた。


 でも、でももし、それがほんとうだとしたら――


 内乱で死んでいったものたちも。

 「死禍」で命を落としたひとたちも。

 すべて、私のせいということになるのではないのか。

 あまりの命の重みに、私は(おのの)いた。

 そして視界が歪み、よろめいてしまう。


「わたくしたちの力が思っていた以上に大きくて、この前になってはじめて「欠片」を投入した、ということですの?」

「その可能性は高いんじゃないかと、私は思っている。絢佳はどう思う?」

「そうですね……」

 絢佳ちゃんは、少し考え込んだ。

「やっぱり、機をうかがっていたんじゃないかと思うです。

わたくしたちを監視して、手頃な手駒を手に入れたので実行に移した、とかです。

内乱など全部のことに関わっているかどうかまでは、わからないです」

「内乱には関わってないと?」


「いえ。そう断ずるのも早計かと思うです。

黒書教団員はいつのまにか増殖してるものですから、ないとは言い切れないです」

「国の中枢にまで食い込んでいる可能性もあるということですの?」

「否定はできないです。彼らはそういうことも好きです」

「やっかいですね」

「そうだな」

「じゃあ、あたしの元飼い主も黒書教団員だったかもしれないってことか?」

 セラちゃんが慌てたように聞いた。


「可能性は捨てきれないです」

「ということは、あたしも黒書教団員になってたかもしれないのか。それは、怖いな」

 私もそう思った。

 自分がどれほど大きなものと戦おうとしているか、想像もつかなかったからだ。

 私には、みんながいてくれるし、頼りにもなる。

 でも、相手がそれ以上だったら?

 またあんなことが起こらないとも限らない。


 私には、それが一番怖かった。

 もちろん、≪蘇生≫はできるようになった。

 しかし、だからといって、みんなが死ぬところを見たいとは、絶対に思えない。

 それとこれとは話が別である。

 それに、死ぬばかりが危険とは限らないだろう。

 呪詛や封印、その他、未知の攻撃なども考えられ得る。

 みんなを守るためには、どうしていったらいいのか。


 私は、まるでとてつもなく大きな暗闇に包まれたかのように感じてしまい、足を止めた。

 身体を震えが走り、私は両腕で自らの身体を抱きしめた。

 怖い。

 どうしたらいいのかわからない。

 そして、おそらくはもう逃げ出せないという直感めいたものもあった。

 私がどうしていいかわからずに震えていると、そっと抱きしめられた。


 見れば、リィシィちゃんが私を抱きしめてくれていた。

 緩いカーブを描くふわふわな金髪が頰にくすぐったい。

 そして、とてもいい香りがして、ふっと心が緩んだ。

 端整な顔立ちの翠の目が、優しく私を見つめていた。

 ローブに包まれた、暖かく柔らかな身体に包まれていると、自然と力が抜けていくのを感じた。

「祝ちゃん、心配しないでくださいまし。

わたくしたちみんなが、ついていますのよ」


 リィシィちゃんの言葉が、すっと心に沁みこんでくる。

 守られている、という強い実感が私の震えを止めた。

 私は、リィシィちゃんにうなずいてみせた。

「そうだな。祝は私たちが守ってみせる」

「そうだよー」

「あたしたちに任せてください」

「そうだな」

 みんなの声があたたかくて、私は胸の奥に光明を見いだした気がした。


「うん。ありがとう、みんな」

 みんなの笑顔を見回す。

「でもね、私もみんなを守りたい」

「それは簡単なことです。みんなで守り合う、ただそれだけのことです」

 絢佳ちゃんが、なんでもないことのように言った。

 しかし、それが正解なのかもしれない。

 私たちはこれまでも、そうやってきたのだから。

「そうだね。うん」

 私はこぼれ落ちたうれし涙を袖で拭うと、みんなに笑ってみせた。

 みんなの間に、ほっとした空気が流れた。



 その後、私たちは港で船の予約を取った。

 出港は二日後ということだったので、次に宿を取りに行った。

 そして夕食後、ティータイムを楽しんでいるときだった。

 クレアちゃんが私を見て、黙り込んだ。

 ≪通信≫が来たのだと私が察したとき、私にも≪通信≫が来た。

{不解塚卿か? ラトエンだ}

{はい。祝です}

{クレア卿については決着がついた。詳しくは彼女から聞いてくれ}

{は、はい。ありがとうございます}

 私は、それを聞いてほっとした。


{それから、聖下と「妖書」について研究をしているが……これほど恐ろしい力だとは思わなかったぞ。

聖下もたいそう驚かれていた}

{あう、す、すみません}

{いや、謝ることではない。

ただ、研究にはさらに時間がかかるだろう。

他の「魔王」にも声を掛けて、総力で当たっているところだ}

{そ、そうなんですか?}

 また私のせいで、なにか大ごとになってしまっているようで、私は焦った。

{リルハのことだ。卿が認識している以上のなにかがあるかもしれないからな}


{そうですね}

 ありそうなことだと私も思った。

{そういうわけなので、こちらから卿に情報を送るのには時間がかかるだろう。

そのことだけ、ひとまず伝えておこうと思ってな}

{わかりました。よろしくお願いします}

 ≪通信≫が終わると、まずは私からみんなに話をした。

 そして、クレアちゃんが言った。

「私は「姫騎士」としてのみの貴族となることになった。祝とおなじだな」


 一拍を置いて、

「実家の方だが、これ以上私への圧力はないだろう、とのことだった。

だがひとつだけ、みんなにも言っておかなければならないことがある。

父は、失脚した元老院の後釜に入ることが内定した」

 それって――

 私たちが驚きに包まれていると、

「まあ、私たちが政治に首を突っ込まないかぎりは、大丈夫だろうさ」

 クレアちゃんがそう言って苦笑いを浮かべた。

「私はもう、キング家の人間ではなくなったからな、これ以上の干渉は、聖下への干渉と取られることになる。

父、いや、もう私の父ではないか――ジェイコブ・キング侯爵は、そんな愚かなことをする男ではないよ」


「わかったよ」

 私は、クレアちゃんにうなずいてみせる。

 みんなも、同様にうなずいた。

「それから、私にかけられていた制約も、私がキング家のものじゃなくなったことで、今度こそ完全に消えた」

「それはよかったね」

「ああ、そうだな」


「では、クレアちゃんの再出発に乾杯ですわね!」

 リィシィちゃんの華々しい声がして、グラスが持ち上げられた。

 私たちはリィシィちゃんの声に乗り、乾杯をした。

 クレアちゃんも、嬉しそうに杯を捧げていた。

 がんばろう、私は、そう思った。

≪通信≫による会話は、すべて{}で囲うことにしました

以前の投稿分も、余裕を見て直していこうと思います

以後、よろしくお願いします

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