「死禍」
その晩のこと。
夕食を終えて部屋に戻ってきた私たちは、早速着替えてファッションショーとなった。
私は武具に<龍姫理法>と<光真術>をかけながら、のんびりとそれを眺めて過ごした。
普段着や晴れ着などをみんなが着ている中、クレアちゃんは買い換えたインナーを着て、鎧の具合を確かめていた。
先日の戦いで、大きく損傷してしまったからだ。
それを見て、私の心は痛んだが、クレアちゃんに悟られないように黙っていた。
わいわいと騒ぎ疲れたあとで、みんなでその晩もゆっくりと寝た。
リィシィちゃんが熱視線を送ってきていたが、私は気づかないふりをした。
大人数で、とかまだ恥ずかしいし、ここには雫ちゃんもいるのだ。
我慢してもらうことにした。
明けて翌日。
みんなで朝食を摂っているところへ、慌てた風の若い男がお店に飛び込んできた。
軽甲冑にメイスを下げ、背中に弓と盾を背負った、冒険者か傭兵らしき男だ。
彼は店の中を見回すと、私たちの方へ一直線に向かってきた。
「なんでしょう?」
私が声をかけると、
「冒険者ギルドから、急ぎの用件です。みなさんが、パーティ「黒百合」で間違いありませんね?」
と、私たちを名指しする。
「はい。そうですけど?」
「ギルドからの緊急の呼び出しです。えっと、食後すぐに来て頂けますか?」
彼は食事中の私たちを見て、そう言った。
「はい。わかりました。いいよね?」
みんなもうなずく。
「ありがとうございます。では、お待ちしています。詳しい話はギルドで」
そう言うと、彼はすぐに立ち去っていった。
「なんだろう? なにかあったのかな?」
「街中の雰囲気からして、この辺りでなにかあったって感じではないな」
クレアちゃんが冷静に分析しながら言った。
「ボクの力も街中じゃあ、ぜんぜんだしなー」
雫ちゃんがぼやく。
「そこは適材適所ですわ、雫ちゃん。気にすることじゃありませんわよ」
「そうだねー」
「そうだよ」
私もそれには強く賛成だった。
「ふむ。魔導騎士チャンネルでも特に襲撃の情報とかは出ていないようだな」
「ではひとまず、ご飯をいただいてしまいましょう」
沙彩ちゃんの言葉に、みんなは無駄口をやめて朝食に集中した。
そして、食後すぐに私たちは冒険者ギルドへと行った。
宿からはそれほどの距離ではないので、すぐに着く。
中に入ると、ギルド職員が待ち構えていて、こちらに気づくと走り寄ってきた。
「あ、おはようございます。お待ちしておりました!」
「はい、おはようございます」
「こちらへどうぞ」
そう言って、私たちを奥の部屋へと案内した。
中には、ここのギルド長と思しき人物がいた。
混血のおばさんだ。
「ようこそ。あたしはここのギルド長をやっているサマンサってもんだ」
「はじめまして。パーティ「黒百合」です。えっと、私が一応、リーダーの不解塚祝です」
私がぺこりと挨拶すると、
「おやまあ、あんたがリーダーなのかい?」
「ええ、まあ」
「「姫騎士」だそうだけど?」
サマンサさんは、不審げに私を見る。
「嘘はついていません」
沙彩ちゃんが口を挟んできた。
「あたしは「佑杜衆」「杜番」不破沙彩。誓って本当です」
サマンサさんは沙彩ちゃんを見て、軽くうなずいた。
「いや、疑って悪かったよ。まあ、座っておくれ」
私たちは椅子に座る。
「早速だが、本題に入らせてもらうよ。
「杜番」に「魔勁剣」に「聖処女」ときたもんだ。
あんたたちはすごいね」
苦笑気味にサマンサさんが言う。
「あたしも長年ギルド長をやってるが、こんなパーティ初めてだよ」
「だろうな」
クレアちゃんが笑う。
「「姫騎士」がふたりもいるっていうだけで、そうさね」
クレアちゃんは眉を上げておどけてみせた。
「そこでだ。これだけのパーティなんだ、「死禍」鎮圧作戦参加はいいが、こんな辺鄙なところじゃなくて、もっと重要なところに来て欲しいと、作戦司令部からの召喚状だ。これだよ」
サマンサさんが机の上から一枚の書類を私に手渡してきた。
内容は、サマンサさんが言ったとおりのものだった。
加えて、報酬額が跳ね上がることと、「妖術師」討伐が依頼内容に含まれていることが特筆すべきことだった。
私はみんなに書類を渡す。
全員が見終わったところで、
「どうする?」
と聞いた。
一応、この段階ではまだ依頼であって、命令ではない。
選択の余地はあるということだろう。
沙彩ちゃんが、サマンサさんを見て言った。
「この辺りで「死禍」で苦しんでいる民草はいないのですか?」
「そうさねぇ。それはここらの冒険者でも解決できる問題だ。
しかし、「妖術師」はそうはいかない。
「妖術師」討伐実績のあるあんたたちには、是非とも行ってもらいたいね」
「ですが……」
沙彩ちゃんが渋い顔をする。
「ああ、あんたの言いたいことはわかるよ。
「杜番」は、目の前で苦しんでいるひとを見逃せないってんだろ?」
「はい。そうです」
「だったら、それはあたしが責任を持って請け負おうじゃないか」
沙彩ちゃんが首を傾げた。
「このギルド総出で近隣住民を守るって言ってるんさね。
「杜番」の出番なんていらないようにさ」
「沙彩ちゃん、ここは話に乗っておくべきだとボクは思うなー」
雫ちゃんが言う。
「本当に強い敵を倒す力が不足しているなら、「杜番」の力はそこでこそ求められてるってことじゃないのかなー?」
「そうそう、そういうこったね。あんたいいこと言うじゃないか」
サマンサさんが破顔した。
「祝さんも、そう思いますか?」
沙彩ちゃんが聞いてくる。
「うん。私もそう思う」
「それに、直接誰かに助けを求められたってわけでもないんだろ?」
「はい。それは、そうですね」
「「妖術師」が強敵なのはわかるだろ?」
「「死鬼王」、なのですか?」
沙彩ちゃんの言葉に、サマンサさんは顔を曇らせた。
「どうにもそうじゃないかって話だ。なにしろ出てくるアンデッドが強い」
沙彩ちゃんは、一度まぶたを閉じると、サマンサさんを見つめて、
「わかりました。あたしたちが「死鬼王」を討ち取ります」
そう、宣言した。
「ああ。頼むよ」
サマンサさんは、にやりと笑った。
「代わりにこっちは任せとくんな」
「よろしくお願いします」
沙彩ちゃんが、頭を下げた。
それでこの話には決着がつき、リーダーとして私が書類にサインして「妖術師」討伐を請け負うことになった。
私たちは冒険者ギルドを辞して、すぐに旅の準備をすることになった。
善は急げ、である。
国境門からカイレリア市までは、およそ2日の距離である。
ギルドから馬車を貸してもらえることになったので、食料などを購入すると、宿を引き払った。
それから再びギルドに戻り、荷物の積み込みをする。
そして、サマンサさんに見送られて、私たちは出発した。
私たちは、また街道を西へ西へと進む。
ただし、常時警戒態勢をとって、ゆっくりとだ。
行き交うものも増えたが、みな一様に警備を固め、緊張した空気だった。
頻繁に情報交換もおこない、できるかぎり情報を共有する。
やはりアンデッドが多く出没しているようだ。
とはいえ、この辺りでは、それほど強いアンデッドは見かけられていないということもわかる。
沙彩ちゃん的にも、それは幸いなことだろう。
お昼休みを入れて、私たちは街道を往く。
私たちはもうすでにケペク大公領に入っていることになるのだが、隣国ということもあるのか、さほど変わりないように思えた。
厳密に言えば御苑も聖領という独立領なのだが、あそこは聖下がおられる国で「姫騎士」が治めている領地なので、実質的に魔導共和国とおなじようなものだった。
だから、私は少しは違う景色が見れるのかと思っていたのだが、そうでもないらしい。
まだ国境を越えたばかり、ということもあるのかもしれないが。
そして、しばらく歩いたあとのことだった。
雫ちゃんが叫んだ。
「左手、アンデッド来るよ!」
私たちは歩みを止め、杜の中を見据える。
≪索敵≫を発動するが、まだ反応はない。
「複数いるよ!」
雫ちゃんの言葉に、みんなは身構えた。
そして間もなく、アンデッドを捉えた。
「! スケルトンウォーリア-4体、スケルトンメイジ2体、それに、レイス3体!」
私は捕捉したアンデッドの内訳を言った。
「≪調伏≫ ――!? 抵抗された!?」
私は愕然と目を瞠った。
「強いぞ、気をつけろ!」
クレアちゃんが注意を促す。
私は一歩下がって、沙彩ちゃんとセラちゃんの背後に回る。
やがて、スケルトンたちの姿が木々の合間から見えてきた。
スケルトンウォーリア-は剣と盾を構え、甲冑を着込んだ姿だ。
スケルトンメイジはローブに杖を持っている。
半透明で宙に浮き、恨みがましい表情を浮かべているのがレイスだ。
彼らの振りまく恐怖は私たちには効果がないが、ふつうより強い恐怖のオーラを纏っているのがわかる。
馬にはすでに≪鎮静≫をかけてあるので、恐怖で暴れることはない。
スケルトンメイジの杖から、2発の≪魔弾≫が飛んでくる。
それを沙彩ちゃんがひとつは盾で受け止め、もうひとつを剣で振り払った。
そこへ、上空からレイスが飛びかかる。
私はレイス3体に≪打撃≫を放った。
抵抗を打ち破り、レイスは苦悶の叫びを上げる。
飛び上がったセラちゃんが素早く両の拳と蹴りをレイスに叩き込むと、レイスは姿を消した。
本来なら肉体を持たないレイスにはこういった攻撃は効果がない。
しかし、≪打撃≫の攻撃対象を魂力――魂とし、セラちゃんも魂力に対して攻撃をしたことで、レイスは呆気なく滅びたのだ。
これは、アンデッド対策として事前に打ち合わせていたことである。
魔力を持った攻撃ならば有効なばあいもあるが、体力を対象とすることに変わりはないので、レイスなど効果がないものもいる。
そのため、アンデッドに対しては、一貫して魂力を攻撃することとしたのだ。
これも<妖詩勁>の能力のひとつである。
続いてスケルトンウォーリア-が街道に姿を見せた。
沙彩ちゃんとセラちゃんが2体ずつを受け持ち、前に出る。
沙彩ちゃんは一体を盾で抑えつつ、もう一体に剣を振り下ろした。
スケルトンウォーリア-の骨がバラバラと砕けるが、一撃で斃せるほど弱くはないようだ。
セラちゃんは2体の攻撃を躱しながらその手を掴み、ぐるんと2体とも投げると、そのまま抑え込んだ。
そこへ、クレアちゃんとリィシィちゃんがそれぞれ武器を振り下ろす。
雫ちゃんが魔力の矢を放つと、スケルトンメイジ2体に突き立ち、彼らは声なき声をあげた。
私も≪打撃≫でスケルトンメイジに応戦する。
沙彩ちゃんが3度の剣撃でスケルトンウォーリア-の1体をしとめた。
そして、セラちゃんが抑えたままの2体も砕け散る。
スケルトンメイジが再び≪魔弾≫を放つが、雫ちゃんが魔力の矢でそれを撃墜した。
リィシィちゃんも2発の≪魔弾≫を放ち、スケルトンメイジがそれで砕け散った。
最後に残ったスケルトンウォーリア-1体も、沙彩ちゃんたちの攻撃の前に滅ぶ。
念のため≪索敵≫をするも、他に怪魔の反応はなかった。
私たちはその場で一端、休憩をした。
「連携、お見事でしたです」
絢佳ちゃんが、ぱちぱちと手を叩きながら言った。
「うん。うまくいった感じだよね」
私の言葉に、みんなもうなずいた。
「ただ、乱戦になるとこうもうまくは機能しないこともあるから、注意は必要だな」
「きっと数をこなすことになるでしょうから、問題はないのではありませんか?」
クレアちゃんと沙彩ちゃんが分析しあっていた。
「わたくしも沙彩ちゃんに賛成ですわ。経験を重ねれば、もっとうまく機能すると思いますの」
「だねー」
「あたしも、今回はうまくやれたと思う」
「うん。そうだね」
私はみんなの言葉にうなずいた。
成功経験を積むことも大事だというが、それが今はわかる気がした。
私がまだ<新武術>編成途中で、魔法でしか戦闘に参加できなかったことが歯がゆく感じる。
「それにしても、これだけの強さのアンデッドが出るとは……」
沙彩ちゃんが、杜の奥を見ながらきれいな顔を歪めた。
「ふつうのキャラバンやその護衛だと、大きな被害が出ていただろうな」
クレアちゃんの言葉に、沙彩ちゃんはうなずいて返す。
「少し、調べてみませんこと?」
リィシィちゃんが言う。
「一群のアンデッドという感じでしたし、発生源がなにかあるかもしれませんわ」
「そうだな。街も近いところだし、村もあるだろうから、少し調べてみるか?」
「うん。そうしよう」
私は、ふたりの言葉に同意した。
私たちは馬車を街道の脇に寄せると、杜の中に分け入っていった。
すると、小一時間ほどで杜が開けて、畑が広がっていた。
「この距離で農村があるというのは、まずいな」
「そうですね。急ぎましょう」
「ですわね」
私たちはあぜ道を急ぐ。
間もなく、農村の建物からちらほらと人影が見えてきた。
いずれも農民のように見える。
やがて、顔もはっきりとわかるようになる距離に近づくと、
「ああ! 騎士さま!」
農民のひとりが声を上げた。
「どうかわしらをお助けください!」
私たちは顔を見合わせて、急いで彼の下へと走った。
家々から顔を覗かせていたものたちも、通りへと姿を見せ始める。
そして間もなく、私たちは声を上げた農民のところに着いた。
彼は跪くと、
「どうか、この村をお救いくだされ」
と、頭を下げる。
他の農民たちも同様に頭を下げた。
「わかりました。お助けします」
玲瓏と応えたのは、もちろん沙彩ちゃんだ。
「あたしは「佑杜衆」「杜番」不破沙彩といいます。
皆さんの声、確かに聞きました。必ずお助けいたします」
農民たちは、信じられないものを見たという表情で沙彩ちゃんを見た。
「ほ、本当に「杜番」さまなのですか?」
「はい。嘘は言いませんよ」
沙彩ちゃんが柔和な笑みを浮かべながらうなずいて、彼の手を取った。
「さあ、お立ちください。「杜番」に頭を下げる必要などありません」
周囲から、助かった、と漏らす声が聞こえてくる。
「杜番」とは、民草にとっての救いの象徴なのだ。
私は自分のことのようになんだか嬉しくなった。
「詳しいお話を聞かせてもらえますか?」
私たちは、村の広場に案内された。
そこにござを敷いて、座るように言われる。
せめてものもてなしと、お茶が運ばれてきたあとで、この村の村長の老婆がやって来た。
「わたしはこのルドア村の村長をしているダリアと申します」
ダリアさんはそう言って、私たちに頭を下げた。
「まず、なにがあったのかからお話してくださいますか?」
沙彩ちゃんの声は、いつになく優しく響く。
それだけ、この村のひとたちのことを心配しているのだとわかる。
「実は、ルドア村の近くには霊廟があるんです」
その言葉ではじまった、ダリアさんの話を要約するとこうだ。
ルドア村の近くには、古くから霊廟がある。
いつの頃からあるのかわからないぐらい古い。
言い伝えで近寄らないようにしている。
これは近隣の村人も知っていること。
今朝、その方角からアンデッドが出てきた。
かなりの犠牲者が出たが、その後、アンデッドは街道の方へと向かった。
怯えながら様子をうかがっていたところへ、私たちが姿を見せた。
それで、助けを請うた、ということである。
私たちは犠牲者を集めてもらった。
まだアンデッド化しているものはいなかったが、老若男女問わず18人もの村人が亡くなっていた。
涙を流し遺体にすがりつく遺族を見て、沙彩ちゃんが拳をきつく握りしめていた。
眉間には皺が寄り、心から悼んでいることがわかる。
神官としての資格は持っていないが、代表として沙彩ちゃんが祈りを捧げることになった。
その間に、クレアちゃんが魔導騎士チャンネルで通報し、カイレリア市より特務の魔導騎士を派遣してくれるよう手配した。
そして、埋葬などは任せて、私たちは霊廟へと向かうことにした。
案内人として、最初に声を掛けてきたハンスさんが来てくれた。
霊廟は、村から30分ほどのところにある小高い丘の上にあった。
丘を登ること少しして、霊廟が見えてきた。
苔むした古い石材による丸い建造物があった。
その正面に扉があり、そこが開いているのがわかる。
そして、その奥からは、強い死気が溢れていた。
しかし、怪魔の反応は近くからは感じられない。
霊廟の中に入ると、冷んやりとしたよどんだ空気に満たされている。
ハンスさんは、絢佳ちゃんとともに外で待機してもらった。
中には石碑が建っており、壁際には幾つかの魔法陣が刻まれ、上石などが置かれている。
石碑にはリュウミル語で、ここの縁起が刻み込まれていた。
第二紀に生じた「ケペクの大禍」を封じるために、フィアス・プリンセプが封印の儀式をおこない、それを補助し増強するための礎としてここを建てた、とある。
ここは霊廟と呼ばれているが、霊廟ではないことがわかった。
ケペクの大禍は、五色暦32年にケペク平原で起きた大規模な死禍である。
同暦52年にそれを封じて、大禍を鎮めたとされるのが、「神音人」のフィアス・プリンセプだ。
彼女は天神教で「煌印」と祀られる英雄神で、今も広く信仰を集めている。
また、彼女が儀式をおこなったところが、湾になる前の鬼霪であり、周囲には彼女を祀る聖フィアス教会が多く建てられている。
そして鬼霪砦には、聖フィアス教会の総本山がある。
よく見れば、壁の魔法陣には傷がつけられ、この封印が機能しなくなっていることがわかる。
なんらかの信仰魔力の残滓は感じられるが、それが活きていないこともわかった。
とはいえ、それではあのアンデッドはなんだったのか? という疑問が残る。
「どういうことだろうね?」
私は誰となく問いかけた。
「「妖術師」か、その配下のものが封印を解いて、アンデッドを放ったんじゃないか?」
「放つというよりも、ここで抑え込まれていた死気を利用して召喚したのではありませんの?」
「なるほどなぁ。そういうことか」
「かもしれません」
「大禍の再現を目指しているってことー?」
「それはわからないが、こういった場所を利用して「死禍」を広めている可能性は高いな」
「考えていた以上に徹底していますわね」
私たちの間に暗い空気が流れる。
「補修ってできないのかなー?」
「どうだろうな。最低限、<霊天法>の使い手じゃないと無理だろう」
<霊天法>とは、天神教で教えられる<魔術>のことだ。
「ここは特務のひとに任せる?」
私が問うと、
「それしかないかもしれませんね」
暗い表情で沙彩ちゃんが言った。
「できないことを嘆いていても仕方がありませんわ。わたくしたちにできることで最善を尽くしましょう」
リィシィちゃんの言葉に、沙彩ちゃんもうなずく。
「そうですね。前を向いていくしかありませんね」
「そうだな」
私たちは霊廟を出た。
絢佳ちゃんに簡単に説明をしながら、村へと向かう。
すると、魔導騎士数人がすでに村に到着していた。
広場に魔導車両が見えるので、よほど急いで来たのだろう。
私たちは魔導騎士と合流するために村へと急いだ。





