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創世神話

長らく更新できず、申し訳ありませんでした。

リアルでの事情と、執筆に苦労したことが重なって遅くなってしまいました。

今後もがんばっていきますので、どうぞ応援のほど、よろしくお願いします。


「じゃあ、ボクが聞いたお話をするねー」

 そう言って雫ちゃんが「聖処女」たちに伝わる、ダラフォ教団の創世神話を話してくれた。




 そもそもこの世界は、虚空に浮かぶ「大いなる魂」が始まりだという。

 大いなる魂は、やがてこの世界を形作る諸々の要素となり、そして空や大地や海となった。

 それが今、仙境と呼ばれる中核となる世界である。

 その後、大地はひとつの種子を育み、芽吹いて一本の大樹となった。

 それがダラフォである。


 大樹(ダラフォ)はやがて森となり、そこに「始原の神々」が産まれた。

 始原の神々は己の眷属を生み、眷属たちは空と大地と海とに広まっていった。

 「人」の祖先たる、「大いなる四祖(しそ)」が産まれたのもこのときである。

 大いなる四祖は、それぞれ龍族と魔族と鬼族と精族(せいぞく)の始祖となった。

 それら四族は増えていき、大地を満たし、繁栄した。


 しかし平穏なときは長く続かなかった。

 四族同士の間で争いが生じるようになり、やがて凄惨な殺し合いに発展するのにさほど時間はかからなかった。

 神々はこれを憂い、ダラフォに調停を頼んだ。

 そして巨人族が遣わされ、戦争は停められた。

 巨人はそれぞれの種族に別の境で暮らすように言い、魔族に魔境(まきょう)を、鬼族に冥境を、精族に瑤境(ようきょう)を作った。


 しかし、魔族は魔境へ行くことを拒否した。

 一方、龍族には仙境を与えられることになったのだが、彼らはそれをよしとせずに、代わりに人の姿を捨て獣の姿となって散っていった。

 かくして仙境は魔族のものとなり、その中で最も優れた天魔が仙境の主となった。

 その天魔が、現在で言う天魔王統である。


 巨人族もまた、役割は終わったと「地の果て」に去っていった。

 天魔王統は魔帝国を興し、また人間を作った。

 世界が安定したことをよしとして、神々は神境に去っていった。

 こうして神代(かみよ)の時代は終わった。




 次いで、沙彩ちゃんに、聖杜教会の創世神話を話してもらった。




 世界は虚無の海に漂う一柱(ひとはしら)神霊(しんれい)から生まれた。

 神霊は多くの御霊(みたま)に分かれ、天地自然と「上古(じょうこ)の神々」を生み出した。

 上古の神々は交わり合って多くの動植物神や人神(ひとがみ)を生んだ。

 そのうちの一柱が聖杜神である。

 聖杜神は生命の木であり、数多くの生命の源でもある。

 多くの神々がその力を借りて眷属たる生命を生んだのだ。


 人神は魔族や妖精族、鬼族の先祖となって、それらの人族が地上を満たした。

 やがて魔族は魔帝国を建国し世界を治めたが、時代を経るにつれて政権は腐敗し、世は乱れた。

 聖杜神は人神の子らを眷属として「聖騎士」に任じ、治世に当たらせたが、人心の乱れはそれ以上に酷く、世界は分かたれた。

 そうして仙境と冥境、瑤境、神境が創られた。


 聖杜神は他の神々と共に神境に移ったが、己の身体たる聖なる(もり)は地上に残し、眷属らをその護り手とした。

 それが今ある聖杜と「杜番」のはじまりである。

 神境に於ける聖杜神は、生命の木として神々に崇められているという。

 後に、魔族の生み出した人間が世界中にあふれ、魔帝国も人間の長が治める時代となった。

 かくして神代は終わった。




 参考までに、魔導学院で教えられている神代の時代について、以下に簡潔に記す。




 「神代」は、世界が神々の手にあり、上古の種族の手で治められていた時代のことである。

 それがいつ、いかなる形で始まり、或いは始められたのかは、誰ひとり知るものはない。

 神々の語る神話よりうかがい知ることしかできない。

 しかも、異なる神話は異なる世界創造と異なる神々の物語を伝え、それらを統合・整理することなどできぬほど、その違いは大きい。

 別の神話に同じ名の神が語られることがあったとしても、混乱を深める役にしか立っていない。


 そのため、その上古の代は歴史とは区別し、歴史としては扱わないこととする。

 また、共通する事件も因果関係や背景が異なるばあいがほとんどである。

 歴史に記すのは、「神々」(それがいたとして、の話であるが)の時代が終わった後、天魔王統によって世界が治められた時代以後の、歴史と呼べる事跡である。

 各種の伝承に共通し、信憑性の高いものを記す。



 天魔王統は、「大いなる始祖族」より世界を任され、最古王国(さいこおうこく)(魔帝国最古王朝)を築いてこの世の王族となった。

 はじめ世界はひとつだったが、妖精族のために瑤境が、鬼族のために冥境が与えられ、棲み分けられることになった。

 その後、どれくらいを経てか、王統は天魔平衆を生んだ。

 平衆は王統より王国を受け継いだが、かつての平安と調和は失われ、かわりに死と暴力が天神(てんしん)とともにもたらされた。

 或いは、天神、ないし「黄金」と「玄」が世界に侵入してきたため、王統が姿を消したとも言われる。


 ともあれ、平衆は魔帝国平衆朝を建て、世界を支配しようとした。

 妖精はこれに抵抗し、また鬼族と冥境とは、魔族と相容れぬ力の故にこれを退けた。

 しかし天女(てんにょ)しかいない妖精に抵抗の余地などあろうはずもなく、戦精(せんせい)の誕生によって辛うじて瑤境を守ることに成功したのであった。

 しかし平衆は、堕落した妖精、闇精(あんせい)より「血の鍵」を手に入れる。

 そしてそれを以て戦精を「血の鎖」にかけ、支配した。

 秘大母神(ひだいぼしん)は、これにさらに死乙女(しおとめ)を生むことで抵抗、撃破した。


 その後、長い争乱の時代の果て、「人間」が生み出される。

 それは平衆が奴隷として使役するために創造したものだったが、それ以上の効果を仙境にもたらした。

 神代の終焉である。

 それによる世界の変革や変事については諸説紛々としており、定かではない。

 否、ここでの神代の終焉(と伝説代の開闢(かいびゃく))の区切りがなされていることそのものに疑問を抱く史家は多い。

 しかし、上古の種族は口を揃えて、神代とその終焉を語っているのである。

 したがって、ここでもその重要性を考慮して、従うものとする。




 繰り返しになるが、この世界にはたくさんの宗教があるため、神話もそれぞれで異なっている。

 そのため、どれかが唯一無二のものではなく、無論どれかが正史というわけではない。

 この場合、史実かどうかよりも、ダラフォ教団がどう認識しているかが重要なのである。

 つまり、雫ちゃんの認識が大事ということだ。


 そもそもダラフォという神が神話に登場すること自体、他の宗教にはない。

 また、巨人族という謎の多い種族について触れているのもダラフォ神話のみである。

 他にも細かな差違はあるが、今重要なのはこの2点ではないかと思う。

 ということを、みんなに聞いてみた。


「確かに、祝の言うとおりかもしれないな」

「あたしもそう思います」

「わたくしは神話には疎いので、保留しますわ」

「あたしは難しいことはわからない」

「わたくしもこの世界の神話はわからないです」


「それにしても、案外全然違うものなんだな」

「そうですね」

「しかし、魔境に龍族とは、そんなの聞いたことがないぞ」

「わたくしもありませんわ。

でも、魔族が封じられた「魔界」というのが、そもそもどういう世界なのかよくわかっておりませんでしたけど、これが真実だったのかもしれませんわね」

「そうかもなぁ」


「それに、巨人が異境を作ったというのも面白いというか、意味深というか」

「祝さんの言うとおり、ここは大事なところでしょうね」

「巨人が去って行った「地の果て」というのも、暗喩的ですわね」

「かもしれないな」

「雫ちゃんはどう思う?」

 私は本人に聞いてみることにした。


「うーん、ボクも他の神話は知らないからはっきりしたことは言えないかなー、でも、」

「でも?」

「巨人のひとは確かに「緑の地」にいたよー」

「ほんと!?」

「うん。ひとりだけだけどねー」


「どうして巨人がいるのかとか聞いたことない?」

「なんかね、「ダラフォの怪」っていう事件以来、いるみたいだよ」

「そうなんだ」

 その事件については以前、ラーディックさまから聞いたとおりだ。

「でも、詳しいことはわかんないなー。

話したこともないし、誰とも関わらないようにひっそりと暮らしてるって話だし」

「じゃあ、世界の中心だとか、「約束の地」というような言葉は聞いたことない?」

 こちらの方が、核心かもしれない。


「ああ、それもあるよー。でもこっちも聞いたことがあるだけで、どういう意味かとかはわかんないなー」

「なにか教わっていたりもしない?」

「そうだねー。そういうのもないなー」

 これは正直に言って、当てが外れた。

 もっとなにか、詳しいことがわかると思っていたのだ。

「そっかぁ……」

 でもとりあえず、私たちの意見を共有できたことでよしとする。

 なんだったら、後で聞きに行けばいいのだから。


 それで私は、本題に入ることにした。

「えっとね、それじゃあ雫ちゃんの意見、いや、意志かな? を聞きたいの」

「うん」

 雫ちゃんは、神妙な顔をしてうなずいた。

「もし、もしもだよ。「聖処女」の先輩と対立して、どうしても戦わなきゃならなくなったら、雫ちゃんはどうする?」

「唐突だねー」

「うん。でも結局、ここが一番大事なところだと思うの」


「そうだねー。殺し合わなきゃならないのは、ちょっときついかなー。実力的にもね。

でも、祝ちゃんを守るためっていうんなら、ボクは弓を引くよ」

 素敵な笑顔で雫ちゃんがそう言ってくれて、私は嬉しかった。

「ありがとう、雫ちゃん。

それじゃあ、順を追って説明していくね」

 そう言って私は、自分の出自と目的、そして「世界法則」と「監視者」について、雫ちゃんに話していった。


「予想以上に壮大な話なんだねー。なるほどー、それで対立かー」

「雫は、今の話を聞いて、意見が変わったか?」

 と、クレアちゃんが合いの手を入れてくれる。

「ううん。変わらないよー。むしろそういうことなら、喜んで祝ちゃんのお手伝いをするよー」

「雫ちゃん、ありがとう」

「どういたしましてー」

 私はうなずいて、さらに話をした。

 今度は、「黒書」と「妖書」についての話だ。


「まさか、さらに話がおっきくなるとは思わなかったよー。びっくりだよー」

 驚いてはいるようだが、雫ちゃんはあくまでもマイペースだった。

「でもねー、その話を聞いてもボクの意見は変わらないよー」

 雫ちゃんが続けて言った言葉に、思わず胸が詰まる。

「――っ、ありがとう」

「お話はこれで全部?」

 雫ちゃんが小首をかしげて聞いてきた。

 私は首を振った。


「ここからは、さっきの話以上に、秘密のお話になるの」

「おっけー。誰にも言わないよー」

 私はうなずくと、≪守護の指輪≫と≪戦いの指輪≫について話した。

「みんなそれをもらってるってことは、ボクにももらえるってこと?」

 私は、なにか言いたそうなクレアちゃんにうなずいて見せてから、

「うん。もちろんだよ」

 と答えた。

 そして、その場でふたつの指輪を作った。


「はえー、すごいねー」

 感嘆する雫ちゃんに、私は指輪を手渡す。

 ≪戦いの指輪≫は、魔法能力増強効果のある方にした。

「ほんとにこれ、もらっちゃっていいの?」

「うん」

 雫ちゃんは、満開の笑顔を見せると指輪を受け取った。

「えへへー、ありがとー」

 そして、躊躇うことなく左手の薬指にはめた。


「――!?」

 その瞬間、指輪の効果を認識したのだろう、雫ちゃんは目を瞠った。

「驚いた?」

 雫ちゃんは、こくこくとうなずく。

「聞くのと、実感するのとじゃ、天と地くらい違うねー」

 雫ちゃんは、指輪を見つめながら呟いた。

「それが、私の力――そして、私たちの力(・・・・・)だよ、雫ちゃん」

 私の言葉に、雫ちゃんは顔を上げる。

 その顔からは、真剣な眼差しがうかがえた。


「リルハってひとは、すごいんだねー。こんな力を創っちゃうなんて」

「うん、そうだね。だから苦労してるの」

「なるほどー」

「助かっていることもあるけど、やっぱり過ぎる力は苦労の方が多い気がする」

 雫ちゃんは笑顔を取り戻すと、

「そうかもしれないねー」

 と言った。

 雫ちゃんは、切り替えが早いようだ。


「さて、これで雫も正式に私たちの仲間になったわけだが、」

 とクレアちゃんが言いかけたところで、

「やったー!」

 雫ちゃんが私に飛びついてきた。

 いい匂いがして、どきりとしてしまう。

 クレアちゃんが、わざとらしく咳払いをすると、雫ちゃんは素直に離れた。

「その力を使いこなせるようになってもらいたいんだ」


「さっそくだねー」

「まずは、<武勁>の会得だ」

「おおー、夢の領域だねー!」

 雫ちゃんが目を輝かせる。

「ボクも会得できるかなー?」

「大丈夫だと思うです」

 雫ちゃんの疑問に、絢佳ちゃんが答えた。


「どうして?」

「雫ちゃんは、わたくしの見るかぎり、<武術>極意に到達しているみたいですから」

「そんなことわかるんだー?」

「わかるです」

「絢佳ちゃんはすごいんだねー」

「えへへー」

 照れる絢佳ちゃんがむやみにかわいい。

 このふたりのやりとりは、なんだか見ていてほっこりする。


「それから、魔力飛翔による立体機動戦闘の訓練かな?」

 と、クレアちゃん。

 いろいろあって、私も中途半端なところで終わっているので、これはきちんと身につけたいところだ。

「ですです」

 絢佳ちゃんがうなずいている。

「ほかになにかあるかな?」

 そう言って、みんなを見回してみるが、特にないようだった。

「ボクもがんばらないとねー」

 雫ちゃんは、そう言ってできもしない力こぶを作ってみせた。

 そんな様子もまた、愛らしい。



 その後、庭に場所を移して、みんなで立体機動戦闘の訓練をおこなった。

 それで私もようやく、絢佳ちゃんに合格点をもらえたが、雫ちゃんも一緒だったので、少し落ち込みそうになった。

 私はやっぱり、あんまり近接戦闘向きではないみたいだ。

「ねぇ、絢佳ちゃん。私思ったんだけど、私は魔法をメインに据えて、近接戦闘はその補助のような位置づけでいこうかなって、どうかな?」

「そう決めつけるのはまだ早いと思うです。

でも、とりあえずその方向で鍛えてもいいとも思うですね。

このパーティには前衛がたくさんいますから」

 とは、絢佳ちゃんの弁だ。


 確かに、パーティ「黒百合」には前衛が揃っている。

 逆に魔法メインの――いわゆる後衛職がいないとも言える。

 だから私は、全体のバランスも含めて、遊撃もできる魔法職という位置づけでいこうと思った。

 クレアちゃんなどもそれでいいと言ってくれた。

 みんなで相談した結果、パーティ編成としては、


 最前列に魔法の使えない近接職、セラちゃんと沙彩ちゃん。

 二列目に魔法も使える近接職、クレアちゃんとリィシィちゃん。

 魔法とサポート、状況によって遊撃に雫ちゃんと私。

 殿(しんがり)と遊撃に絢佳ちゃん。


 という形に落ち着いた。

 雫ちゃんは、近接、遠隔、魔法とどれも使えるのでとても優秀だ。

 絢佳ちゃんについては、戦場全体を見て、適宜動いてもらうことになった。

 あとはこの編成での連携訓練などをしていけばいいだろうということで今日のところは落ち着いた。

 雫ちゃんの歓迎会をやって、その日は眠りについた。




          ***




「これで派遣した人物は全員、接触したのだな? ひとり予想外がいるようだが」

「私のところの人物は、動きませんでしたので、動いた人物はこれで全員かと」

「そいつはなにやってんだよ」

「そこまではわかりません」

「いい加減なことで」

「そう言われましても」

「それを言うなら、あたしのとこのやつも大概だけどねー」

「神の介入があったなら、致し方あるまい」

「そんなことよりさ、他の手段はないわけ?」

「そうですね。これからの対策が重要だとわたくしも考えます」

「同意」

「さて……どうしたものかな」

「ねぇ、なにか()えないのかい?」

「そうですね、視てみましょう……。ああ、彼女たちは、魔導共和国を巡る旅に出るようですね」

「それで?」

「なるほど、そう繋がっていくのですね……」

「いや、わかるように言ってよ」

「ええ、もちろんです。彼女たちは――」

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