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砦攻略戦――開戦

更新が遅れてしまい、お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。

これからも頑張りますので、応援のほど、よろしくお願いします。

 それは、古式蒼然とした城砦だった。

 蔦の這う石組みの城壁に囲まれ、その奥には無骨な石組みの城楼がそびえ立っている。

 砦自体、小高い丘の上に建てられており、丘の周りには堀が巡らされていた。

 攻めるに難く守りの堅い城砦だと知れる。


 砦の周囲には、既に先行した傭兵隊と冒険者有志が配置されている。

 それぞれ、傭兵隊は120人と冒険者が18人だ。

 そして、到着した特務隊は精鋭の魔導騎士80人に「魔導師」10人。

 それに私たち「黒百合」のパーティメンバーが加わる。

 これだけの数になったのには、相手が「妖術師」だということもあるが、逃走した貴族の私兵や焔蛇の構成員も含まれているからである。


 そして到着早々、特務隊「魔導師」を中心に≪結界≫が張られた。

 転送阻止を目的とした広範囲結界である。

 脱出を許さず、一網打尽にする作戦なのだ。

 作戦司令部が置かれたテントの中に、私たちはいた。

 総司令は、もちろん「姫流総長」イスマイルさま。

 それに、特務隊長のかすみさま。

 傭兵ギルド長のオスカーさんもいる。


「さて、「妖術師」を遂に追いつめた。

逃走されないうちに≪結界≫を張ることにも成功した。

あとは討伐あるのみである」

 イスマイルさまが言う。

「問題は貴族どもだ。

これは、できれば生きて捕縛したい。

私兵については抵抗するものは殺せ。

焔蛇の連中も、幹部は捕縛したいが、これは無理ならば殺しても構わない。

ここまではいいだろうか?」

 みな、一様にうなずいた。


「基本的な作戦としては、「妖術師」には精鋭を当て、その他は魔導騎士を中核とした戦力で叩く。

至ってシンプルなものだ。

その精鋭部隊は、特務隊の転法輪卿指揮の下、不解塚卿のパーティにあたってもらう」

 これは、道中に聞いていたとおりだ。

 「黒百合」のメンバーが今回の作戦の肝なのである。

 責任重大だ。

 自然と気が引き締まる。

「破城鎚による城門突破と同時に転法輪卿麾下は≪飛翔≫により直接、楼閣に取りつき、城内に突入。

地上部隊はこれを援護しつつ、突撃を開始。

中隊長以上のものは≪通信≫により情報を共有して適宜、応戦せよ」


 人と人の戦い――殺し合いが間もなく始まろうとしている。

 私は大丈夫だろうか?

 ちゃんと戦えるだろうか?

 ふと胸中を不安がよぎる。

 私は「黒百合」のみんなをちらっと見た。

 皆、引き締まった表情で、イスマイルさまの言葉に耳を傾けている。

 すると、絢佳ちゃんがそっと手を繋いできた。

 軽く力の込められたそれに、私は勇気をもらった。

 私も、絢佳ちゃんの小さな手を握り返す。

 きっと、大丈夫。

 私は戦える。

 そう思えた――そう思うことにした。



 簡単なミーティングが終わり、私たちは司令部のテントをあとにした。

 外で、私はかすみさまに挨拶をした。

「それではかすみさま、よろしくお願いします」

「ええ。よろしくね。クレアも」

「ああ。任せておいてくれ」

 かすみさまとクレアちゃんが握手を交わす。

 そして、まっすぐ私たちのテントに入った。

 長テーブルの周りの椅子に各々腰掛けていく。

 作戦決行まで約1時間。

 周りからは慌ただしく準備をする騎士たちのざわめきが聞こえてくる。

 しかし、このテントの中は穏やかだった。


 野戦用のカップに淹れたコーヒーを飲みながら、私たちは最後のミーティングをしていた。

 気を抜いているわけではない。

 緊張もしているだろう。

 だが、適度なリラックスは必要なことなのだ。

「私と沙彩が壁を作る。

リィシィはその後ろで魔法援護と攻撃、絢佳も基本はここにいて、必要だと思ったら遊撃に出ていい。

その後ろに祝。全体を見て魔法攻撃と指揮を。

セラは殿について、祝の護衛だ」

 突入後の隊列について、クレアちゃんが言う。


 しかし、私に指揮などできるだろうか。

 その疑問を先取りして、

「祝ちゃんには、今後のことも見据えて指揮を学んで欲しいです」

 と、絢佳ちゃんが言った。

「自信はないけど、やってみる」

「その意気です!」

 絢佳ちゃんがガッツポーズを取った。

「がんばるね」

「わたくしたちもサポートいたしますわ!」

 リィシィちゃんもノリノリだった。

 このふたりはテンションが高い。

「そうです。安心して指示をください」

「ああ」

「あたしも、なにをしたらいいか指示をくれたら、それに従う」


「でも、全体の指揮権はかすみさまにあるから、私の出番はないかもだけど」

「それでもだ。かすみの指示に私たちがどう応えるかを、祝が示してくれればいい」

「それに、≪通信≫による情報共有は祝ちゃんしか受けられないのですから、その点も重要だと思いますわ」

「そうだな」

 その話を聞いて、私はパーティ通信のことを思い出した。

「みんなはパーティ通信、もう大丈夫だよね?」

 みんな、と言っても聞く相手はリィシィちゃんとセラちゃんだ。

 ふたりはうなずいた。


「みんなへの指示はそちらでやる方がいいんだよね?」

 私は軽い気持ちで聞いたのだが、クレアちゃんは首をかしげた。

「ふだんならそうなんだろうけど、今回はどうだろうな?」

「そうですね。あたしたちの行動を転法輪卿が把握できない状況は、まずいかもしれません」

「わたくしも沙彩ちゃんに賛成ですわ。

軍事行動ですから、行動単位内での指示は共有できていないといけませんわ」

「そっか、そういうものなんだ。わかった」

 後で問題になるより、今解決できてよかったと私は思った。


 他にも、立体機動や連携の確認などを話して、あとは自然と雑談になった。

 といっても、まったく関係のない話ではなく、今回の作戦に関する話だ。

「そもそも「妖術師」と焔蛇が繋がっているというのは、裏社会同士珍しい話ではありません。

しかし、今回は国の中枢にまでそれが及んでいるんですよね。

昔ならいざ知らず、大問題でしょう」

 沙彩ちゃんがそう言うと、

「そうでもありませんわよ。

腐敗した権力は裏社会と繋がり、やがて主従が逆転してしまうというのもよくあることですわ。

「妖術師」など、その典型ですもの。

そうして国を背後から操り、戦争を起こしたり、国を転覆させたりしてきたのですわよ」

「なるほどなぁ。言われてみれば、そういうものかもしれない」

「でも、これが大問題であることは間違いありませんわね。

国内外にどう説明するのか、あるいはしないのか、悩ましいものですわね」


 一番の問題は、ここまで大規模な作戦をおこなっている以上、完全に知らぬ存ぜぬはできないということだろう。

 まして、叛乱に対する粛清のさなかなのだ。

 政治的な不安定化は免れまい。

 それは同時に、国外への影響も大きいことを意味する。

 北の大国、大白王国に、中央の大国、死狂皇国の二大国は言うに及ばず、「聖騎士」の本拠地である、聖杜神国も黙ってはいまい。


 魔導共和国にとって、大きな危機が訪れていることは間違いなかった。

 それゆえに、この砦攻略戦は万が一にも失敗できないのだ。

 しかし、私には頼れる仲間たちがいる。

 怖くはなかった。

 やれる限りのことを全力でやるまでだ。


 そうこうしていると、かすみさまがテントにやって来た。

「準備はいい?」

「はい。今すぐにでも出られます」

 私の応えに、かすみさまはにっこりと微笑んだ。

「あなたたちには期待しているわ。

でも、無理はしないでね」

「かすみもな」

 クレアちゃんがにやりとしながら言った。


 かすみさまは片眉を上げて、うなずいた。

「ええ、そうするわ」

 そして、私たちはかすみさまと一緒にテントを出た。

 外では、すでに準備が整えられ、出撃の合図を待つばかりとなっていた。

「いよいよだな」

「うん。がんばろうね」



 陽が高くのぼり始めた頃――

 遂に戦端が開かれた。


 イスマイルさまの号令一下、傭兵隊が破城鎚を抱えて突撃する。

 それを守るように突進する魔導騎士と傭兵隊、やや遅れてそれに続く「魔導師」たち。

 破城鎚の先端が掘に近づいたとき、城壁の上から魔猿(まえん)が数十体飛び出してきた。

 魔導騎士たちが素早く≪光弾≫で迎撃するが、魔猿は数が多い上に素早く、ほとんど撃墜できなかった。

 後方から「魔導師」が≪調伏≫を撃ち、消滅させるのを見て、魔導騎士たちも≪調伏≫に切り替える。


 しかし、その間に魔猿は破城鎚を持つ傭兵隊に取りついていた。

 護衛の傭兵がすかさず反撃するも、すぐにも乱戦状態となった。

 傭兵たちが武器で攻撃するが魔猿は手足を使って受け止め、しがみつき、噛みつく。

 血しぶきが舞い、戦場はあっという間に赤く染まる。

 そして、破城鎚は止められてしまった。


 私はそれを見た瞬間、叫んでいた。

「かすみさま、援護の許可をお願いします!」

 かすみさまは驚いたように私を振り返ると、一瞬の間を置いて、

「魔法援護なら許可します」

 と言ってくれた。

 私はすかさず、目標数35の≪調伏≫を撃った。

 戦場にいた半数以上の魔猿が消滅する。


 戦場が一瞬、停止したが、すぐに傭兵たちは我に返り、反撃を開始した。

 同時に破城鎚も再び動き出し、そのまま勢いをつけて城門にぶつかった。

 地響きと共に城門が砕け、破城鎚が突き立つ。

「行くわよ!」

 かすみさまの声に、私たちは一斉に飛び立った。

 かすみさまを先頭に打ち合わせた隊列で並ぶ。


 上空から戦場を見下ろすと、破城鎚を橋代わりに渡し、門扉を魔法で爆破して傭兵たちが飛び込んで行くところだった。

 魔導騎士もそれに続き、戦場は城内へと移りつつあるようだった。

 砦の中が見える高度になると、中にも魔猿がわらわらといるのが見えた。

 その背後には人間の兵士が見え、矢を射かけている。

 だが、私たちの敵は彼らではない。


 私はかすみさまの後ろについて飛んでいく。

 やがて、私たちに気づいた兵士がこちらに矢を射かけてくるが、高度があって届かないか、届いても威力なく、簡単に盾で弾くことができた。

 かすみさまが剣を抜き、前方を向けて揮った。

 私たちは速度を上げて、砦の楼閣目がけて飛ぶ。


 石造りの堅牢な楼閣が目前に迫ってくる。

 銃眼から矢が飛んでくるのが目に入るが、私たちは盾や武器で弾き、ひたすら前進する。

 そしてすぐにも楼閣の屋上に到達した。

 屋上には弓兵2人と戦士がひとり、そして魔猿が3匹見える。

「突撃!」

 かすみさまが叫ぶ。

 私たちはそのままの速度で屋上に突っ込んだ。


 引き絞られたコンポジットボウから放たれた矢が2本飛来する。

 それをかすみさまとクレアちゃんが盾で止めた。

 かすみさまにクレアちゃん、沙彩ちゃんが着地したところで、魔猿3匹が飛びかかる。

 リィシィちゃんがそのうちの一匹に膝蹴りを食らわせつつ着地した。

 絢佳ちゃんはまっすぐ階下への出入り口に向かい、私とセラちゃんは戦士の前に着地した。


 相対した戦士は、太った大男だった。

 スキンヘッドに上半身には鋲を打った革ベルトをX字に巻き付けているだけで、下半身も革のパンツとブーツといった出で立ちだ。

 手には大きなバトルアックスを持ち、不敵な笑みを浮かべて私たちを睥睨(へいげい)している。

「へへへっ、勇ましいのはいいが、ここがお前らの墓場だ」

 男はそう嗤うと、バトルアックスを両手で構え、踏み込んできた。

 バトルアックスの刃からは、邪悪なオーラが滲み出ている。

 「妖術師」の配下のものという証だ。


 私は盾を構え、バトルアックスの重い一撃を受け止めた。

 火花が散り、がりりと金属同士のぶつかり合う音がする。

「ほう。俺の一撃を受け止めるとはな」

 男が嬉しそうに言った。そして、

「ならば、これならどうだ!

滅殺撃(めっさつげき)≫!」

 と、構えを取った。


 私は警戒して、注意深く盾を構える。

 そこへ、セラちゃんが横から男に殴りかかった。

 男は斧の柄で受けるも、衝撃を殺しきれずにバランスを崩す。

 しかし男は半ば強引に体勢を戻すと、私に斬りかかってきた。

 そして、バトルアックスが盾に当たった瞬間、私の魔力が弾けた。

 その瞬間、魔力の裡に止蔵されていた魔法がすべて消滅する。


 ――これは、リィシィちゃんが前に受けた奥義!?


 私が動揺した隙を逃さず、男は私に追撃をかける。

 そこへ、セラちゃんが割り込んで、バトルアックスの柄を受け止めて握った。

 すかさず柄をひねると、男は大きく体勢を崩し、慌てて手を離した。

 その隙を見逃すセラちゃんではない。

 踏み込んで頭と鳩尾に二発、一瞬のうちに叩き込み、男はくずおれた。

 鮮やかな手並みだ。


「セラちゃん、ありがとう」

「いい。それよりも――」

 セラちゃんの言葉に、私は戦場を見渡す。

 かすみさまたちは互角の戦いを繰り広げているようだった。

 一方、階下への出入り口に立つ絢佳ちゃんは、増援を相手に孤軍奮闘していた。

 私は迷わず、絢佳ちゃんの方へ向かった。

「セラちゃんはみんなの援護をお願い!」

 それを聞いて、セラちゃんはかすみさまたちの方へ向かう。


 まだ戦いは、始まったばかりだ。

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