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決断

 私が自分の殻に閉じこもっている間に、クレアちゃんたちが、事件の事後処理をすべてしてくれていた。

 「焔蛇」が「姫騎士」を襲ったということで、事件は新たな局面を迎えていた。


 彼らは、共和国そのものを明確に敵に回してしまったのだ。

 全「魔導騎士」、「魔導師」、傭兵隊に声がかけられ、「焔蛇」掃討の一大作戦が発布されたのである。


 それから、「魔妖剣」を討ち取ったということで、私と絢佳ちゃん、クレアちゃんの冒険者ランクがDになった。

 飛び級である。


 「魔妖剣」を討ち取れるというのは、それだけでBランクに相当するということと、前回の新種怪魔発見の功績と併せての判断なのだそうだ。


 こういうのは、地道にやっていければいいと思っていたので、個人的には驚きだった。

 しかし、断る理由もないだろう。


 また、新種怪魔および「妖術師」に関する新情報はないそうだ。

 とはいえ、襲撃メンバーに「魔妖剣」がいたことから、「妖術師」がいることは確実視され、そちらの捜索も本腰を入れることとなった。


 「焔蛇」と「妖術師」、それが手を組んでいたことが発覚したのだ。

 どちらも並行して作戦の対象となったのは言うまでもない。


 私とクレアちゃんは「姫騎士」である上に当事者なので、「焔蛇」掃討作戦に参加することになる。

 しかし、絢佳ちゃんと沙彩ちゃん、リィシィさんは強制ではない。


 一番の問題は、セラさんの身柄だ。

 彼女を保護するのは当然としても、みんなが出払ってしまっては守ることもできない。

 かと言って、連れ回すのも問題がある。


 また、こちらの自宅を知られている以上、オルガちゃんたち使用人のことも心配だ。

 先ほどまで、それをどうするかを話し合っていたのだという。

 二手に分かれる案と、みんなで行動する案とに絞られたものの、結局、どちらにするか、決められなかったらしい。


「私は、二手に分かれる案に賛成」


 それは、私の鶴の一声で、そう決まった。

 私が言うのなら、リーダーが言うのなら、といったところだ。


 私がその案を推した理由は、ただひとつ。

 セラさんのことだ。


 奴隷気質の抜けないセラさんをなんとかしてあげたい、そう、私が願ったからだ。

 あるいはこれは、余計なお世話なのかもしれない。


 しかし、セラさんには、本当の自由人として、生きて欲しかったのだ。

 自分の意志で生き、自分の行き先を自分で決められる人間になって欲しい。


 そういうわけで、私とセラさん、そして絢佳ちゃんが家に残り、クレアちゃんと沙彩ちゃんとリィシィさんが捜索隊に加わることとなった。

 絢佳ちゃんとリィシィさんは、それぞれの希望を叶えた形だ。




 翌朝、捜索組が出かけた後で、私たちは食堂に集まっていた。

 セラさんにも席に座ってもらい、オルガちゃんの淹れてくれたコーヒーを飲んでいる。


 私は、なんて切り出したらいいのか迷っていた。

 ちらちらとセラさんを伺うものの、彼女は黙ってコーヒーをすすっているのみだ。


 私の視線に気づいていないはずはないと思うのだけど、反応はまるでなし。

 まあ、話しかけたい相手になにも言わずにわかってくれというのは虫がよすぎるだろう。


 私は何度目かのため息をつくと、ままよ、とばかりに口を開いた。


「あの、セラさん」


「なに?」


 セラさんがこちらを見る。

 見るというより、私を射抜くような鋭い視線だ。

 私は怯みつつ、言葉を探した。


「ええとね、なんて言ったらいいかのな……」


 私の言葉に、セラさんは不思議そうに首を傾げた。


「なにかあたしに言いたいことがあったんじゃないのか」


「いや、あるんだけど、ええと、うまく言えないっていうか」


 私も首を傾げて、腕を組む。


「あたしは頭よくないから、率直に言ってくれないとわからない」


 セラさんが言う。

 私も、あれこれ考えるよりも、率直に言うのがいいのかもしれないと思った。


「そうだね。じゃあ、率直に言うね。セラさんには、自由な身分の人間として生きて欲しいの」


「またそれか」


 セラさんはため息を漏らした。


「あたしを買ったのはご主人だ。だからあたしはご主人の奴隷。それは変わらない」


 セラさんの意志は固い。


「うん。そうなんだけど、私はセラさんを解放するつもりだから」


 とはいえ、私もこの意志は固いのだ。


「あたしは、闘技場以外の生き方を知らない」


 セラさんは首を振りながら言った。


「だから、ここで放り出されても、夜盗崩れにしかなれないだろう。抜けたときはそのつもりだったが、ご主人に買われたことで、それもどうかと思うんだ」


「セラさん……」


 セラさんなりに、私のことを気遣ってくれていることに、私はようやく気づいた。


「だったらね、セラさん。私たちと一緒に、冒険者やろうよ」


「冒険者?」


 セラさんが鸚鵡返しに聞き返す。


「そう、冒険者。どう、かな?」


「戦闘力には自信があるけど、闘奴のあたしが冒険者なんかになれるのか?」


「だから! セラさんには自由身分を保証する。

それに、私たちが全力でサポートするから! 家だってここに住めばいいし、みんなと一緒に行動すれば問題ないよ!」


 私は拳を握って言った。


 しかし、セラさんは黙り込んでしまった。

 私には、セラさんの悩みがわからなかった。


 セラさんなりに葛藤があるのだろうとは思うが、果たしてなにが引っかかっているのか。

 ふたりで黙り込んでいると、


「セラさん」


 絢佳ちゃんが口を開いた。


 セラさんが絢佳ちゃんの方を見る。


「セラさんは、奴隷身分のままでいたいんです?」


「いたい、いたくない、じゃなくて、」


 しかし、セラさんの反論を絢佳ちゃんが封じる。


「いたいんです、それは」


 セラさんは口を閉じた。


「セラさんは、自由人として生きることが怖いんです」


「――!!」


 セラさんが目を見開く。

 そうか、そういうことだったのか。


 私は理解した。

 セラさんの葛藤を。


「だいじょうぶ、怖くないよ」


 私は言った。


 セラさんは私を見て、それからうつむいた。


「奴隷というのは、自分の生き方や信条を自分で決めなくてもいいです。それは、ある意味、楽な生き方なのです」


「奴隷が楽って」


 私は思わず口を挟んでいた。

 しかし、絢佳ちゃんは首を振りながら、


「楽なのです、祝ちゃん。セラさんのように、闘奴として優秀で、主人から優遇されていればなおさらです。

しかしこれは、なにも奴隷身分に限った話でもないです。自分の生き方を完全に他人に依存すること、それは総じて楽な生き方なのです」


「依存……」


「そうです。言い換えれば、それは奴隷根性というやつです。宗教にせよ、なにかのシンパにせよ、よくある話なのです」


 それは、わかる気がした。


「セラさんは、自分で決めて自分で生きる。その自決が、決断が、怖いんじゃないです?」


 セラさんは、身を震わせた。


「自決とは、自ら責任を負うということ。自分のすべてに対して、自分が責任を果たさなければならないということ。それは、勇気のいる生き方です」


 キツかった絢佳ちゃんの言葉が、優しいものに変わりつつあった。


「でもです。考えてみて欲しいです。

祝ちゃんがいて、他のみんなもいて、みんながセラさんを助けてくれるです。もちろん、わたくしも全力でサポートするです。

こんないい条件で生きられるなんて、セラさんは幸運なのです」


 セラさんが顔を上げた。


「あたしが、幸運?」


「そうです」


「そうだね」


 それには、私も賛同した。


「そもそも奴隷身分から解放してもらえる時点で奇跡的なことです」


「それは、そうだけど」


「その幸運を受け取る義務があるとわたくしは思うです。そして、その幸運を生かす権利も、あるのです。権利は遂行すべきものです」


 セラさんは、黙って絢佳ちゃんを見つめる。


「セラさんの、今までの罪を喩えるなら、それは、怠慢(・・)です。決断を怠った怠慢の罪です。それを贖いたいのならば、決断するのです! 今、ここで!」


 絢佳ちゃんが叫ぶように言った。


「決断か。確かにあたしは、決断をしてこなかった。ご主人の言うとおりに生きて、殺してきた。そうか、そういうことか」


 セラさんは私を見た。


「自分の意志で殺す。それは、恐ろしいことだ」


 私はうなずく。


「あたしはこれから、そういう生き方をしていかなければならないのだな」


「そうです」


 セラさんは、ひと息吐いた。


「わかった。あんたたちの言うとおりにするよ。自分で生きるというのが、正しい生き方なんだろ?」


 絢佳ちゃんがにっこりと笑った。


「そのとおりです」


「よろしく頼む」


 セラさんが、私たちに向かって、軽く頭を下げた。

 私は嬉しくなって、席を立ち、セラさんに抱きついた。


「――!?」


 セラさんが驚いて硬直したが、私はそのまま、セラさんを抱きしめた。




 夕方になって、捜索組が帰ってきた。

 私は今日のことを、みんなに報告した。


「さっそく、明日にでも冒険者登録してこようと思うの」


 私はセラちゃんを見て言う。


「いいよね、セラちゃん? セラ、ちゃん?」


 なんだか恥ずかしそうなセラちゃんを無視して、私はさらに畳みかける。


「いいよね、セラちゃん?」


 セラちゃんは、ぎこちなくうなずいた。


「い、いいけど」


 私は満足してにっこりと笑った。


「それなんだが、祝」


 クレアちゃんが言った。


「先に仕事がある」


「なに?」


「セラの元主人が、「焔蛇」の一味だとわかった。それで、事情聴取があるんだ」


 セラちゃんがうなずく。


「あいつのところには、「焔蛇」の連中が出入りしてたし、よく連絡を取り合ってた」


「そのことを騎士団で話してくれ」


「わかった」


 クレアちゃんが私の方を向いた。


「それから、「魔妖剣」との戦闘について、詳しく話して欲しいとのことだった。祝と絢佳は、その点についてよろしく頼む」


「どういうこと話せばいいのかな?」


「強さについて、だな」


「強さかぁ。絢佳ちゃんはどう?」


「確かに手強かったです。戦いにくいというか、そういう感じだったです」


「絢佳が手こずるほどの強さだったのか?」


 クレアちゃんが不思議そうに言う。


「いえ、強さ自体はそうでもないです。わたくしが本気を出せば、一撃で斃せるです。でも、この家も一緒に吹き飛んでしまうです」


「なんだそりゃ」


 クレアちゃんが言う。


「なんて言いますか。わたくしの専門は、超大型生物(・・・・・)なのです」


「超大型生物って?」


 私が聞くと、


「神性生物のことなんですが、そうですね、喩えるなら、ドラゴンとかそういうのです」


 絢佳ちゃんが、考えながらそう答えた。


「ドラゴンが専門なの?」


「いえ、ドラゴンが専門というのではなく、それくらいか、それ以上の大きさの敵、ということです」


「ああ、なるほど」


「わたくしの≪奥義≫的なものは、全部そういうのを相手にするようにできているのです」


「まったく、絢佳はいちいち規格外だな」


 クレアちゃんが苦笑しながら言った。


「そうだね」


 私もつられて笑う。


「そこは、笑うところじゃないです」


 絢佳ちゃんが口をとがらせた。

 それがさらにおかしくて、私たちは笑った。




 夕食後のコーヒータイムに、私はみんなに言った。


「あのね、セラちゃんとリィシィさんにも、≪加護の指輪≫と≪戦いの指輪≫を作ろうと思うの」


「指輪、ですの?」


 リィシィさんが不思議そうに聞き返した。

 それに、クレアちゃんと沙彩ちゃんが左手を見せる。


「まぁ」


 驚いたように、リィシィさんが言う。

 それは、また違った意味の驚きに思えた。


「えと、あの、そういう意味(・・・・・・)じゃなくて、魔力を込めた指輪という意味なの」


「魔力ですの?」


「うん、そう。私の力の源、<妖詩勁>の力を込めた指輪」


 私は、改めて「妖書」と<妖詩勁>について、そしてそれを元にしたふたつの指輪について説明した。

 セラちゃんは首を傾げていたが、リィシィさんは驚きに目を瞠っていた。


「それほどの力を……」


「うん。隠してて、ごめんなさい」


 私は頭を下げる。


「いいえ、それはいいのですわ。それほどの力ならば、安易に語れないというのもわかりますもの。でも、それが祝さんのお力だったのですのね。とても強いとは、感じておりましたけれど」


「<武勁>と、言ったな」


 セラちゃんが言う。


「うん」


「伝説に謳われる力だ。あたしも聞いたことがある。それを、あたしも会得できるのか?」


「うん、そう。セラちゃんにも、リィシィさんにも、<武勁>は会得しておいてもらいたいの」


「わたくしも、いいんですの?」


「いいよ。パーティメンバーだもの」


 私はリィシィさんに笑いかける。


 そこで、リィシィさんが、じっと私を見つめ返してきた。


「な、なにかな、リィシィさん?」


 私がどぎまぎしながら言うと、


それ(・・)ですわ」


 リィシィさんが、ちょっと頰を膨らませるようにして言った。


「それ?」


 しかし、私には言いたいことがわからなかった。


「リィシィさんっていうののことですわ」


 視線を逸らして、頰を染めながら、リィシィさんがぼそっと言った。

 ようやく私にも得心がいった。


「えと、えと、それじゃあ、リィシィちゃん」


 私が言うと、リィシィちゃんは、得たり、とばかりに笑った。


「なんですの、祝ちゃん?」


 今度は私が赤くなる番だった。


「えっと、その、よろしくね」


「こちらこそよろしくお願いいたしますわ、祝ちゃん」


 私はこのとき、ようやくにして、リィシィちゃんの想いに気づいたのだった。


 しかし、それは――


 いいのだろうか?

 疑念が私の心に湧き起こる。


 しかし、ちらっとみんなを見ると、セラちゃんを除いて、一様に微笑んでいた。

 どうも、歓迎しているようだ。


 絢佳ちゃんなんかは、また例のにやにや笑いをしている。

 私はうつむいて、コーヒーをすすった。


「祝ちゃん」


 リィシィちゃんの言葉に、私はびくっとした。


 おずおずとリィシィちゃんを見ると、


「わたくし、祝ちゃんのことをお慕い申しあげておりましたの」


 顔を真っ赤にしながら、しかし、私の目をしっかりと見て、リィシィちゃんが言った。

 告白してくれた。

 私は身体を震わせながら、うなずいて答える。


「ありがとう、リィシィちゃん。私も、リィシィちゃんは、とてもきれいで、ほんとにお姫さまみたいで、はじめて会ったときから、好きだったよ」


「嬉しいですわ!」


 リィシィちゃんが、両手を胸の前で組みながら、立ち上がって言った。


「わたくしたち、両想いですわね!」


「う、うん」


 私はぎこちなくうなずいた。

 しかし、身体をくねくねさせているリィシィちゃんが、なんか微笑ましくて、私も確かに嬉しかったので、胸の奥が暖かくなるのを感じた。


 そうなれば、私のすることはひとつだ。

 私は、セラちゃんの方を向いた。


「セラちゃん」


 セラちゃんは、さすがに察したのか、頰を赤らめつつ、若干引いていた。


「私、セラちゃんのことが、好き」


「え、いや、待って」


 セラちゃんは、明らかに動揺していた。


「好きなの」


 私が重ねて言うと、


「でも、あたしは、そんな」


「セラちゃんは、私のこと、嫌い?」


「いや、そうじゃないけど、そういうんじゃなくてさ!」


「むふふふ。セラさん、諦めるです」


 絢佳ちゃんが、悪巧みでもしているような顔をして言った。


「祝ちゃんとその周りは、レズっ子でいっぱいなのです」


「レズっ子って……」


 私が厭そうに言うと、絢佳ちゃんは、また、むふふと笑った。


「周りってことは、つまり……?」


 セラちゃんがみんなを見回しながら言いよどむ。


「そのとおりなのです。あ、でも、わたくしは違いますので、お気遣いなく、です」


 絢佳ちゃんの言葉に、私の胸がちくりと痛む。


「え、いや、あの」


 セラちゃんは、あたふたとしていた。


「あのね、セラちゃん」


 私はセラちゃんに言う。


「返事は、いつでもいいから。その代わり、きちんと聞かせて欲しいな」


「わ、わかった」


 セラちゃんは、こくこく、とうなずいた。




 その晩のこと。

 私が寝付けないでいると、ノックの音がした。


 私はベッドから下りて、ドアを開いた。

 そこには、寝間着姿のリィシィちゃんと、セラちゃんの姿があった。


「こんばんはですわ」


 小声でリィシィちゃんが言う。


「こんばんは」


「わたくしが祝ちゃんの部屋に行こうとしましたところ、セラちゃんがドアの前にいたのですわ」


 リィシィちゃんの説明に、セラちゃんは黙然とうつむいていた。


「入って」


 私の招きに、ふたりがおずおずと入ってくる。

 後ろ手でドアを閉めると、リィシィちゃんが私に抱きついてきた。


 身長差がかなりあるので、私の顔がリィシィちゃんの胸に埋まる。

 リィシィちゃんの、とても心地よい匂いがした。


「ああ、祝ちゃん、好きですわ」


 そう言って、リィシィちゃんは私を抱きしめる。


「愛してますの」


 感極まったようにそう言うと、リィシィちゃんは私に口づけてきた。


 リィシィちゃんの綺麗な唇が私のそれと重なる。


「ん、んん」


 私はまぶたを閉じ、キスに身を委ねる。

 しばらくして、リィシィちゃんが唇を離した。


 リィシィちゃんの翠色の瞳は潤んで、きらきらと輝いていた。

 ひとつうなずくと、リィシィちゃんは私から身体を離し、セラちゃんを引っ張った。

 抵抗なくセラちゃんが私の目の前に立つ。


 セラちゃんはちらちらと視線を彷徨わせた後で、私の瞳を覗き込んだ。

 セラちゃんの瞳もまた、潤んでいた。


「あの、祝、さっきの返事」


「うん」


「あたしは、今まで恋愛とか縁がなかったから、よくわかんないんだけど、でも、きっと、あたしは祝のことが、好きだ」


「うん」


 私はセラちゃんに抱きついた。

 セラちゃんの身体が硬直する。


 背が高く、胸も大きいセラちゃんに抱きつくと、文字通り私の顔がセラちゃんのおっぱいの間に埋もれてしまう。

 筋肉質で、でも柔らかく温かな胸の谷間で、私はその感触を堪能した。

 そして、顔を上げると、どぎまぎしているセラちゃんの顔を両手で包み込み、かかとを上げてセラちゃんに口づけした。




 三人で迎えた夜は、熱く、燃え上がった。

 その後、私は指輪を作ると、ふたりの左手の薬指にはめたのだった。




 翌朝早く――


 私は、魔王チャンネルで呼びかけられて飛び起きた。


{おはよう、不解塚卿}


 しかも、相手はラトエンさまだった。


{あ、お、おはようございます、ラトエンさま}


{今、起きたところかな?}


 ラトエンさまの苦笑が恥ずかしくて、汗が噴き出てきた。


{あの、えと、すみません}


{構わんとも。こちらこそ、朝早く済まなかった}


{いえ、とんでもありません。それで、なにかご用でしょうか?}


{うむ。聖下が聖務を終えられて、祝からの言づてを承けて、御苑の魔導書庫を使うようおっしゃられた。そして、祝に直接、伝えたいこともあるとの仰せだ。すぐに来られるかな?}


{は、はい! テレポート能力で、すぐにも伺います}


{わかった。こちらはいつでも構わない。待っているぞ}


{了解しました}


 私は飛び起きて、両脇で寝ているふたりを起こした。

 そして、他のみんなの部屋を回って起こし、事の次第を告げた。


 そうして部屋に戻り、リィシィちゃんに手伝ってもらいながら正装を調えた。

 その後、みんなの集まる食堂に行き、コーヒーだけをひとくちすする。


「じゃあ、行ってくるね」


「気をつけてです」


「しっかりな」


「こちらのことはお任せください」


「行ってらっしゃいませ」


「行ってらっしゃい」


 みんなの言葉を背に、私は御苑の自室へとテレポートした。

今回で第二章終わりです。

次回から第三章が始まります。

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