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訓練

 私が≪覚悟の指輪≫を作り上げた翌日、私たちは絢佳ちゃんとの模擬戦闘訓練をすることにした。

 より実戦形式で戦闘の経験値を積むためだ。


 これには、クレアちゃんと沙彩ちゃんも参加して、全員の戦力アップと連携の確認なども並行しておこなうことにした。

 絢佳ちゃんはひとり、飛び抜けて強いため、遊兵として自由に動いてみんなのサポート役にまわってもらうことにもなった。

 それもあって、絢佳ちゃんひとりに対して、3人が戦うという形式をとることになったのだった。


 家の庭に、武装を整えて皆が立ち並ぶ。

 向かい立つのは、絢佳ちゃんひとり。距離は5mほど。

 私が中央に立ち、右手に沙彩ちゃん、左手にクレアちゃんという布陣だ。


「では、来るです」


 絢佳ちゃんの言葉に、私たちは一斉に走り出す。

 間合いに捉えた瞬間、左右から剣が振り下ろされていく。


 一拍遅れて、私も剣を振り下ろす。

 絢佳ちゃんはふたりの剣を拳で受け止め、私の剣は軽やかなバックステップで躱した。


 クレアちゃんはそのまま剣を押し込み、沙彩ちゃんは剣を振り抜いてから返す刀で下段から斬り上げる。

 私はさらに踏み込みながら、剣を突き出した。


 絢佳ちゃんはクレアちゃんの剣をつかむと、軽くひねってクレアちゃんの関節を極めて投げた。

 そして沙彩ちゃんの剣を今度は足で止め、同時に空いた手で私の剣をつかむ。


 クレアちゃんが転倒したのを見ていた私は、とっさに剣を放し、絢佳ちゃんの背後にテレポートした。


 沙彩ちゃんは無理せず剣を引き、一度間合いを取る。

 クレアちゃんも即座に立ち上がった。


 私は背後から絢佳ちゃんの腰の辺りに盾で殴りかかる。

 絢佳ちゃんは盾が当たる寸前にくるんと向きを変えると、盾をつかんで受けた。


 クレアちゃんが袈裟懸けに斬りかかるも、絢佳ちゃんは後ろも見ずにそれを躱し、後ろ蹴りでクレアちゃんの胴体を捉えて吹き飛ばした。


 沙彩ちゃんが素早く剣を振り下ろす。

 今度は、絢佳ちゃんは私の盾を引っ張って私のバランスを崩し、サイドステップで沙彩ちゃんの剣を私の盾と交差させた。

 そして、盾を軽くひねると、私の腕関節を極めてそのまま地面に転ばされる。


「そこまでです」


 絢佳ちゃんの声で、みんなは息を吐く。


 ここまでとは――


 それが、3人の共通した思いだっただろう。


「強いな」


 クレアちゃんが言った。


「そうですね」


 沙彩ちゃんも小さく同意した。


「うん」


 私も、立ち上がりながら言う。


「でも、絢佳ちゃんは全然、本気出してないよね?」


 私の言葉に、ふたりの顔が一瞬、引きつった。


「はいです」


「絢佳ちゃんからの攻撃はなかったし、敢えて私たちの攻撃を受けていたよね」


「その通りです。強者に対しての攻撃の勘と戦術、そして連携。これがみなさんの課題ですから」


 事もなげに絢佳ちゃんが言う。


「課題、かぁ」


「それで、今のは絢佳としては何点くらいだったんだ?」


 クレアちゃんが問う。


「そうですね。とっさの判断と動きを考えて、でも、40点くらいです」


「酷い赤点だな」


「ですね」


 苦笑しながらぼやくクレアちゃんに、絢佳ちゃんがうなずく。


「では、今の仕合で、あたしたちがどう動いていれば、60点になりました?」


 沙彩ちゃんが言った。


 絢佳ちゃんは、腕を組んでみんなを見、そして最後に私を見ながら、


「まず、祝ちゃんは最初からテレポート、そして空中からの立体機動での戦闘に持ち込むべきでした。

そして、攻防能力の高い沙彩さんがわたくしの前面に立ち、クレアさんが遊撃、です。

この点で、3人ともがまっすぐ突っ込んできた時点でマイナス点になるです」


 と、採点した。

 さらに絢佳ちゃんの言葉は続く。


「それと、<龍姫理法>の使えるおふたりは、魔法攻撃も織り交ぜるべきでした。手数を多く使うことが有効なのは、言うまでもないです。


さらに言うなら、盾や足、要するに全身を使った攻撃をすることも考えるべきです。

剣のみを攻撃手段とは思わないことです。フェイントも有効です」


「でも、あたしはそういう攻撃はできません」


 沙彩ちゃんが首を振る。


「<天麗剣(てんれいけん)>では、フェイントや卑怯な攻撃をすることができません」


「なるほどです。では、沙彩さんは、そのまっすぐな剣をより極める方向でいくです」


「それでいいのか?」


 クレアちゃんが聞いた。


「できないものは仕方がないです。それに、「聖騎士(せいきし)」は正々堂々と、というような制限があるんじゃないです?」


「はい。そうです」


「それを無理して、戦力そのものがなくなってしまっては元も子もないです」


 「聖騎士」に相応しくない行動を取ることによって、<天麗剣>が喪われる危険性についての話だ。


「それは、その通りだな」


「クレアさんは、魔法で飛ぶことはできるです?」


「やればできる」


「では、空中戦の経験はあるです?」


「ほとんどないな」


 絢佳ちゃんはうなずいて、クレアちゃんと私とを見た。


「では、おふたりには、まずそこから改善していってもらうです。地面という平面のみでの戦いは、敢えて枷を掛けて戦うようなものです。飛べるなら飛ぶです」


「あたしはこのままでいいんですか?」


「沙彩さんも、飛べるなら飛ぶ、そういう戦い方に慣れておくべきですけど」


「あの指輪、」


 私が言う。


「指輪に込めた能力をひとつ変更すれば、飛行能力を得ることもできるよ」


 みんなの視線が集まる。


「それは名案だと思うです」


 絢佳ちゃんがうなずいた。


「相手に飛行能力があったばあい、近接戦を挑むことができる手段を持っておくのはいいことです」


「うーん」


 クレアちゃんが腕を組んで唸った。


「あの中から、どれと入れ替えるかっていうのは任せるけど」


 私が言うと、


「いや、そうじゃなくてな。あんまりそういう風に弄りたくないなって思ってさ。あの指輪は」


「もうひとつなにか作ったらいいんじゃないです?」


「それも手だね」


「というか、質問です」


「なに?」


「<妖詩勁>の力で、おふたりに<武勁>を会得することを可能にすることはできないです?」


 絢佳ちゃんの言葉は、衝撃だった。

 言われてみれば、その通り。それは最初に考慮してもよかったはずだ。


「そんなこと、できるのか?」


 クレアちゃんと、沙彩ちゃんの真剣な視線が集まる。


「うん。できるできないで言えば、できるよ」


 私の言い方に気づいたのか、


「ということは、なにか制限とかがあるってことか?」


「制限というか、疑問なんだけど。ねぇ、絢佳ちゃん、そもそもふたりは<武勁>を会得できるの? 「世界法則」の制限さえなければ」


「できるです。十分にその領域に到達しているです」


 クレアちゃんと沙彩ちゃんが顔を見合わせた。


「じゃあ、「世界法則」の枷を外せば、可能なんだね?」


「そうです」


 私は、クレアちゃんと沙彩ちゃんを交互に見た。


「どうする? 他にも、戦闘補助となる能力はあるよ」


「そういうことでしたら」


 沙彩ちゃんが言う。


「そうだな」


「<武勁>会得の領域に入れば、おふたりはもっともっと強くなれるです」


 ふたりはうなずいた。


「わかった。作るね」


 チートであろうとも、ふたりのためになるならば、私は厭わない。

 これが世界に対する裏切りだとしても。


「どういうものにしようか?」


「もの? ああ、ものって、指輪とかそういう?」


「うん、そう」


「また指輪でいいんじゃないか」


 クレアちゃんが言う。


「沙彩ちゃんは?」


「あたしもなんでもいいですよ。祝さんが選んでくれたものなら」




 ≪戦いの指輪≫/「妖詩の断章」

 所有:「黒百合」のメンバー、譲渡不可

 <妖詩勁1>能力:

 ミラムホームの「世界法則」介入:<武勁>制限無効/会得可能、自身のみ適用可

 <武勁>+1LV

 <武勁>追加能力1個選択可能(上記+1LV分とは別途)

 会得<職業>+1LV、関連技能含、全て

 全能力強要・対抗・矛盾判定の余地なし、矛盾判定ロール:魔力+1

 飛行・水泳能力、移動力増強+1m/ダッシュ+10m、姿勢/三次元ペナルティなし

 ブレス防御、カバー防御、背面60度、ペナルティーなし

 真の視覚

 感気エリア+1m、自動知覚、隠密阻止

 感気エリア内接敵あつかいでの攻防能力、武術の技含めて利用可能、死角/武器限界なし

 魔的攻防、与打撃マルチ、与畢竟現ダメージマルチ、魔法攻防能力/呪詛・奇蹟対抗

 副AP/状態AP自動補填

 感気エリア内治療1LV回復/1能動主行動、治療/回復阻止無効

 魔力の集中、魔力嵐無効/阻止

 魔法の支持数/受容数+1、支持/受容魔法の解除/消滅阻止、同対抗判定値+1

 アンチマジック・同対抗、1以下魔力自動、任意で受容可能

 呪詛対抗/阻止、1以下魔力自動、1日の儀式で魂力+1まで潜伏、1週間の儀式で破棄、枠は空く

 *魔術の効果数/発動魔力+1

 *魔術の並立発動2個、感気エリア内なら目標複数でも可能

 *発動時間変更、儀式個人発動化・協同変更1段階自動、さらに通常の手順可能

 (空白能力:3)



 こういう能力で決定し、形は指輪とした。

 銀色に黒百合を一輪、あしらったシンプルなものだ。

 それぞれ、1時間ずつで作成を終えた。


 *はクレアちゃん用の魔法能力の増強用で、沙彩ちゃん用はその分、空白にしておいた。

 一部、魔法能力の増強が残っているのは、沙彩ちゃんが魔法を受容するばあいを考えてのものだ。




 そして、ふたりは絢佳ちゃんの指導の下、<武勁>開眼のための瞑想に入った。

 ふたりは指輪をはめて、庭に正座している。


「強く、自分の力の源をイメージするです。そして、そこから流れ出る武力の輝きを自らに取り込むです。

呼吸に合わせて、力が身体中に流れ込み、満たされるイメージです。どうです?」


 ふたりは、ゆっくりと目を開けた。


 最初に口を開いたのは、沙彩ちゃんだった。


「なにか、大きな力があたしの中に渦巻いている気がします」


「それを、自分の武力とするです」


 沙彩ちゃんはうなずくと、またまぶたを閉じた。

 それを見て、クレアちゃんも目を閉ざす。


「今まで鍛えてきた<武術>が、真の力を発揮するイメージです。そうですね、流れてくる力が自分の中にある「鍵」を開けるイメージ。

そして、<武勁>が自分の魂の中で花開くです」


 沙彩ちゃんが、ぱっと立ち上がった。

 そして、手刀を構える。


 目を開けたとき、沙彩ちゃんの瞳に確信めいた輝きがあった。

 私は<武勁>での、<武勁>会得者感知をおこなう。

 間違いなく、沙彩ちゃんに<武勁>の力が感じられた。


 そして、目を閉じたままのクレアちゃんからも、おなじ力を感じ取れた。


「ふたりとも、おめでとう」


 私は、静かに言った。

 クレアちゃんは目を開けて、ちょっと不思議そうな顔をした。


「なんだか、簡単なことのような、言われないとできなかったような」


「でも、新たな力が自分の中にあることを感じます」


「そうだな」


「その力で、絢佳ちゃんを見てみて。力の判断ができるようになったはずだよ」


「「――!」」


 ふたりは、瞠目して、身をこわばらせた。


「絢佳、君はそんなに強かったんだな」


「ええ、あたしでは、まるで勝ち目がない(・・・・・・・・・)のがわかります」


 ふたりが言葉をこぼれさせる。


「うん。私にとっても、そうなんだよ」


 ふたりは、私を見た。

 その瞳には、驚きがある。


「祝、君もか。君も、私には届かないところにいるのか」


「ほんとうですね」


「でもね、それは今だけの話だと思うよ。これから<武勁>を成長させていけば、私には追いつくはず」


「そうなのか?」


 クレアちゃんが、絢佳ちゃんを見た。


「祝ちゃんの言うとおりです」


「なら、よかった」


 ほっとしたようにクレアちゃんが言う。


「まるで自分が役立たずの素人にでもなった気分だった」


「<武勁>がない、というのが、いいえ、<技術勁力(ぎじゅつけいりき)>がないという現状が、どれほど抑圧されたものかわかりました」


 沙彩ちゃんが私を見ながら言った。


「これは、確かに是正すべき事案ですね」


「うん。そうだね」


「その通りです。おふたりは、今やっと、<大千世界(メールシュトローム)>での戦士の最低基準に至ったです」


「これで、最低、なのか」


 唸るようにクレアちゃんが言う。


「<武勁>があってはじめて一人前なのです。技量や経験で言えば、最低ということはないです」


「ふむ。なるほど」


「達人は戦わずして彼我の戦力差を計ると言いますが、実際にそれができると言うのは不思議な感じですね」


「ですから、おふたりとも、その達人の領域に足を踏み入れたです。あとは、今までどおりに自分を鍛えていけばいいです。

少なくとも、外来の戦士が来ようとも、そこで後れを取ることはなくなったです」


 言われて私は気づく。


「そうか。その可能性もあったんだ。<黒勁(こくけい)>だけじゃない、<武勁>を会得した敵の可能性」


「それは、恐ろしいな。今までだと、手玉に取られていたかもしれない」


「そうなのです。ミラムホームは、全宇宙に対して無防備だと言ってもいいです」


「揺り籠の中の世界、だっけ」


 かつて絢佳ちゃんが揶揄した言葉を思い出す。


「そうです」


「騎士を自認するやつが、揺り籠の中でのお遊びに終始していたって? とんだお笑いぐさだな」


 自嘲気味にクレアちゃんが吐き捨てる。


「かつての英雄たちは、確かに世界を救ったかもしれないです。でも、その後の世界の行き先の判断については、大きな誤りを犯したです」


「そして、その誤りを守ろうとしているのが、「監視者」とかいうやつらなのか」


「そうなるです」


「うん。私たちが、一番に相手をしないといけない相手」


「なんでそんなことをするんでしょう?」


 沙彩ちゃんが言った。


「明白に誤りなのに、それを守ろうなんて」


「「監視者」がそもそも世界の敵なのかもしれないです」


「なるほど」


「あるいは、悪法と知っていてなお、それを遵守しようとしているか」


 私の言葉に、しかし、ふたりはうなずかなかった。


「いや、確かに可能性として話したことはあったけど、それはないな」


 クレアちゃんが首を振る。


「この力、そしてそれによる技術の発展を阻害することが、いいことだとはとても思えない」


「先人たちは、きっと<黒勁>のような邪悪で強力な(ちから)を阻害したかったんだと思う。ただ、その判断基準が間違っていて、<勁力>ぜんぶを阻害しようと考えてしまった。


挙げ句、その「世界法則」では、肝心の「黒書」の力を防ぐことができなかった。好意的に解釈すれば、こんな感じなのかな」


 私自身も、信じてもいないことを言っているのはわかっていた。

 しかし、ただ、悪法を施行したとは考えたくなかったのだ。


「そういうことなら、わからないでもないですね」


 沙彩ちゃんが言う。


「あり得るかもしれません」


「強い力を丸ごと封じようとしたってことか。そして、それが裏目に出てしまった。なるほどな」


「でも、力を恐れてどうなるというんです?」


 絢佳ちゃんが珍しく不快げに言った。


「よっぽど人間不信に陥っていたのかもしれないな」


 クレアちゃんが寂しそうに呟いた。


「それは、やるせないですね」


 みんなの間に、沈黙が下りる。

 それを打ち消したのは、


「さあ、湿っぽい話はこれくらいにするです」


 という絢佳ちゃんの一言だった。


「また明日、訓練するです。それに備えて、今日はもう休むです」


「そうだな」


「うん」


「はい」




 私たちは家の中に入り、汗を流してから夕食を摂った。

 そして、三々五々自室へと戻っていった。


 私はベッドに横になりながらも、しばらく寝付けないでいた。

 ベッドから下りて、デカンターの水を一杯飲み、それでも落ち着かずに階下に下りた。


 リビングには、クレアちゃんと沙彩ちゃんの姿があった。

 寝間着姿で、ふたり、お酒を呑んでいるようだった。


 ふたりは私に気づくと、私を手招いた。


「呑むか?」


 クレアちゃんが杯を軽く上げながら言った。

 私はうなずいて、席に着いた。


「ふたりも、眠れなかったの?」


「そうですね。今日はちょっと」


「そうだな」


 沙彩ちゃんが私のコップを取ってきて、琥珀色のお酒(ウィスキー)を少し注いでくれた。

 ちろっと舐めるように呑むと、喉を熱いものが流れていく。


「絢佳さんとの戦闘に、<武勁>の覚醒、そして新しい指輪。今日はいろいろありすぎました」


「うん。そうだね」


「正直に言って、私たちはちょっと戸惑っているんだ」


「戸惑う?」


「ああ。この力に、な」


 言ってクレアちゃんが杯を傾ける。


「祝は、生まれたときからこの力を持っていたわけだから、あまり実感はないかもしれないが、なんて言えばいいかな、<武術>を修得する前と後みたいな感じって言えばいいかな」


 迷うように言いながら、クレアちゃんは沙彩ちゃんを見た。


「そうですね。世界が変わった、そんな感じです」


「世界が」


 私が呟くと、ふたりはうなずいた。


「昼間はああ言ったが、これをないものとしようとした気持ちも、わからないでもない。今は、そんな気がしてる」


「それほど、強くて、劇的なものでした。それに、「世界法則」が変えられてから今まで、この世界ではこれが当たり前として成り立っていましたよね?」


「そう、だね」


「だからさ、単純に悪法だ、とも言い切れないのかもしれないってさ」


「そんなことを話していたのです」


「そうなんだ」


 私には、何故か相づちを打つことしかできなかった。


「それで気になったのが、リルハの意向だ。どうして「世界法則」をもう一度変えてまで<勁力>を取り戻そうとしたのか」


「今まで、彼女はなにもしてこなかったんですよね?」


 ふたりの言いたいことが、私にもわかった。

 以前、魔導皇(まどうおう)聖下に拝謁したおりに、聖下が話されていたことだ。


「うん。たぶんだけど、私を送り込むくらいだから、今までは知らなかったか、知っていて見過ごしていたか、どっちかだね」


「じゃあ、どうして今、祝を使ってそんなことを企んだんだ?」


「なにか、裏の――真の目的があるってこと?」


「そう思います」


「<勁力>を解放して、その上でやりたいこと。なんだろうな?」


「あの人は、あの人とその旦那さまって人は、他にも目的と行動があって、その間に私に「世界法則」の再改変をするように言ってた」


「え、旦那? リルハに結婚相手がいるって?」


「そう、本人は言ってたよ」


「それは聞いたことがない。……いや、待てよ」


 クレアちゃんが考え込む。


「リルハは第三紀に天魔(てんま)と手を結んで<龍姫理法>を編み出したという話だ。それも、天魔の中でも最高級の魔術師と手を結んでだ」


「魔導皇聖下が、話してくださったの覚えてる」


「そうだったな。(さかき)という名前のみ知られる、謎の多い人物だ。その二つ名も、ずばり「魔導師」という」


魔導学院(まどうがくいん)の「魔導師」称号もそこから?」


「それは、通説となっているくらいだ」


「ふうん。じゃあ、その線はあり得るね」


「沙彩はなにか知っているか?」


「あたしが知っているのは、<姫流剣術(きりゅうけんじゅつ)>の開祖が、元「聖騎士」だったということくらいですね。裏切り者として、つとに有名です。ナーシュジャーサという名の闇精(あんせい)なんですけど」


「そうだったな」


「「聖騎士」が<姫流剣術>を作ったの?」


「少なくとも、リルハと共に最初に<姫流剣術>を携えて世に出た人物が元「聖騎士」なのは事実です」


「まあ、嘘はついてないだろ。意味がないもんな」


「そのナーシュジャーサって人が旦那さまという可能性は?」


「歴史に嘘がなければ、ナーシュジャーサは死んでいる」


 そう言って、クレアちゃんが首を振った。


「ナーシュジャーサという線はないと思います。聖杜教会でも、それは史実として伝わっていますから」


「そっか」


 ならば、そうなのだろう。

 あまりそこを疑ってみても仕方がない。

 だからと言って、リルハの連れ合いが榊という名の天魔だという保証はないのだが。


 みんなの間に沈黙が下りた。

 とはいえ、さほど重い空気でもない。


「ちょっと疲れたな」


 クレアちゃんが言う。


「そうですね。もう、夜も遅いですし」


「寝るか」


「うん」


 私はうなずいて、立ち上がった。

 そして、ふたりに手を繋いでもらって、2階に上がる。


 ふたりそれぞれとキスをしてから、ふたりと別れ、私は自室に入ると、ベッドに潜り込んだ。

 今度は、すぐに眠気に誘われ、私はようやく眠ったのだった。

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