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恋ヶ窪絢佳 [改稿] [再改稿]

[再改稿]しました。

「さて、なにから話し合うです?」


 そう言って、こてん、と首を傾げるさまがとても可愛らしい。


「えっと、私はよくわからないままにここに飛ばされてきたの。それで、詳しいことの説明もしてもらえなくて……」


 私は目覚めてからのリルハとの会話を思い出しつつ、絢佳ちゃんに説明した。

 全部だ。


 これは、危険なことなのかもしれない。

 しかし私はそうしたかったのだ。

 そうせずにいられなかった、と言うべきか。


 自分がなにかの目的のために創られて、その使命を果たすべく気軽に送り込まれたこと。

 呪いまでかけられて、それがまだ(うず)くこと。

 そんなことがすごく惨めで、やり場のない気持ちが胸とかお腹の辺りでとぐろを巻いている感じだったのだ。


 私のことを何らかの手段で知っているらしい絢佳ちゃんと、その気持ちを共有したかったのかもしれない。

 それはもちろん、単なる幻想だし勝手な気持ちの押しつけに他ならないだろう。

 しかし、私にはそうすること以外、思いつかなかった。


 私の話を黙って聞いていた絢佳ちゃんは、最後にゆっくりとうなずいた。


「なるほどです。まさかリルハの名前が出てくるとは思ってもみなかったですけど、お話はわかったです」


 そうか、リルハのことも知っているんだ。

 しかし不思議とそこに驚きはなかった。


「いくつか質問したいことがあるですけど、いいです?」


「う、うん。私にわかることなら」


「まず「第五写本」についての確認ですけど、リルハに植え付けられたということで間違いないです?」


「うん。というか私はそもそも造られた存在だから、スキルも含めて全部与えられたものだよ」


「驚嘆すべき技術です」


「そうなの?」


「はいです。ホムンクルスなどにある程度のスキルを≪付与(エンチャント)≫すること自体はふつうの技術です。でも、「写本」ほどの力を≪付与≫することができるなんて、聞いたことがないです」


「そうなんだ」


「「黒書」に匹敵する「魔導書」を生み出すなんてことは、大言壮語にしか聞こえないです」


「でも、私には確かに「妖書」っていうのがあるよ。それはわかる」


「あなたが嘘をついていないことはわかるです。だから驚いているです」


 そう言う絢佳ちゃんは、難しい顔をしている。

 そういう様も可愛らしいのだが。

 だからつい、私は言ってしまった。


「祝、だよ」


 絢佳ちゃんが小首を傾げる。


「あなた、じゃなくて祝」


 絢佳ちゃんは得心がいった風で、破顔してうなずいてくれた。


「祝ちゃん、ですね」


「うん、そうだよ。絢佳ちゃん」


 絢佳ちゃんが私のそれよりももっと小っちゃな手を差し出してきた。

 私は迷うことなく手を取った。

 柔らかく、暖かな手だった。


「よろしくです」


「こちらこそだよ」


 そして私たちは、くすっと笑いあった。


「次はリルハについて聞きたいです」


「でも、ちょっとの間話しただけでよく知らないんだよね」


「ではリルハが、あの「魔女」が、「第十二写本」だということはご存知です?」


「――!?」


 リルハが?

 あのひとも「黒書」の所有者だったの!?

 ああ、でも確かにリルハは「黒書」を模倣して改良して「妖書」を造り出したとか言っていた。ならばリルハが「黒書」を所有しているのはむしろ、道理かもしれない。


「その顔は知らなかったみたいですね」


 私はうなずいた。

 というか、十二?


「「黒書」の「写本」っていっぱいあるんだね?」


「知られている限りでは、「第十二写本」が最終ナンバーですけど」


「そうなんだ」


「敢えて隠していたのか、それとも?」


 うむむ、と考え込み始めた絢佳ちゃんに、私は言った。


「あのひとは必要最低限のことも言ってくれなかったから」


 そして、私はあとで「妖書」で確認するように言われてたことを思い出した。

 私がそう気づいた瞬間、「妖書」にあったらしきメモが手許に出現していた。それは封書だったが、自然とあのひとが言っていたものがこれであるとわかった。


「それはなんです?」


 目ざとく絢佳ちゃんが聞いてくる。


「リルハが言っていたの。「妖書」を見ろって。そのことを思い出したら、ここにあった」


「中身はなんです?」


 私は封を切って手紙を取り出した。

 そこには、丁寧な文字で色々と書き込まれていた。

 私は順番に目を通していく。


「私の任務について書いてあった」


 私は読み終えて、手紙を絢佳ちゃんに見せた。


「読めないです」


 絢佳ちゃんが首を振る。


「そっか。じゃあ私が読むね」


 私は手紙の内容を読み始めた。


「まず、<勁力(けいりき)>スキルが<世界>の中心(コア)である「仙境(せんきょう)」で会得できなくなっている。そのため<世界>とそこに住む人間は成長できず停滞し、やがてエントロピーが増大して拡散死してしまう、だって。書いてあることわかる?」


 私にはよくわからなかった。


「書いてあるのはそれだけです?」


「えっと、もうひとつあるよ。何者かが「世界法則」を改変し、その(のり)によって引き起こされた事態である。故に、同等以上の力を以て「世界法則」を再改変すること」


「ふむふむです。事情はわかったです」


 絢佳ちゃんは腕を組んでうんうんとうなずいた。


「わかったの!?」


「だいたいのところはですけど」


「どういうことか説明してくれる?」


「どこがわからないです?」


「<勁力>スキルとか「世界法則」とか」


「<勁力>スキルというのは言ってみれば上位スキルです。

 例えば<武術(ぶじゅつ)>スキルには<武勁(ぶけい)>スキルがあって、<武術>スキルを窮めることで会得できるようになるです。

 それとは別に真龍(しんりゅう)が生まれつき会得している<龍勁(りゅうけい)>や、火属性魔力の<火勁(かけい)>スキルと言った<魔力勁力>などもあるです」


「ふつうのスキルより強いスキルっていうこと?」


「そんな感じです。「世界法則」は、<世界>固有の「物理法則」や「魔術法則」などの総称です」


「それは、なんとなくわかるかな……」


「たたし、です。「世界法則」を個人が弄るというのは相当に強大な力がないとできないことです」


「例えばどれくらい?」


「「運命」の力とか、神々の力――<神勁(じんけい)>スキルなど<勁力>スキルの中でも特に強力なもの、とかです」


「それは強そうだね。あっ、あと<勁力>スキルがないと<世界>が停滞してどうこういうのもわかんない」


「それはそのままの意味です。

 例えば知識や技術――<武術>スキルにせよ<工芸>スキルにせよ、そういうものを発展、改良していくには対応した<勁力>スキル、今の例で言うなら<武勁>スキルや<匠勁(しょうけい)>スキルが必要です。

 それがないとなにひとつアップデートされることはなく、結果として停滞するです。

 その停滞とは即ち、<世界>の死を意味するのです」


「うーん。じゃあなんでそんなことをしたんだろう?」


「そこはわたくしも是非聞きたいところです」


「絢佳ちゃんにもわからないんだ?」


「むしろそこがまったくわからないです。理解不能です」


「それが起きたときのことを調べたりする必要があるんだね」


「そうなるです」


「それに、私も「世界法則」を改変する力が必要ってことだよね?」


「それが「黒書」や「妖書」でしたか? それなのではないです?」


「なるほど。ってことは、「妖書」ってそんなに強いものなの?」


「本当に「黒書」に匹敵するならそれくらい強いことになるです」


 私は考え込んでしまう。

 リルハって何者なんだろう?

 私なんかにそんな強い力を持たせてどうしろって言うんだろう?

 自分でやればいいのに。

 そう言えば、自分たちにはやることがあるって言ってたっけ。


「祝ちゃん」


 不意に名を呼ばれて顔を上げると、絢佳ちゃんが唇の前に指を立てていた。

 すぐにも、男たちの声が聞こえてきた。

 なにを言っているかまでは聞き取れないが、なにやら話し込んでいるのはわかる。

 さっきの男たちだろう。


「どうするです?」


 絢佳ちゃんが小声で聞いてきた。


「やり過ごせないかな?」


「あくまでも戦うつもりはないんです?」


「うん。争いごとはできるだけ避けたいな」


「でもわたくしたちは顔を見られていますし、この街で調査をするなら先に禍根を残すことにもなるです」


「それは、困るね」


「この先も、争いごとを避けては通れなくなっていくと思うです」


 そう言った絢佳ちゃんの表情は真剣なものだった。


「そっか、そうだよね」


「好戦的すぎるのも考えものですけど、大きなことを成そうと言うなら、闘争から逃げては駄目だと思うです」


「逃げ、なのかな?」


「わたくしはそう思うです」


「でも、あの人たちを殺す必要、ほんとにあるのかな?」


「では殺さないで、無力化して気絶させておけばいいんじゃないです?」


「余計に問題が大きくならない?」


「可能性はあるです。でも見た感じ彼らはさして強くもなく、権力もない傭兵みたいなものだったです。こういう貧民街で無様にやられたということを上司なりに素直に報告するとは思えないです。きっと見つからなかった、ということにしてやり過ごそうとすると思うです。

 どうするです?」


「どっちも可能性、かぁ。うーん」


 できるだけ穏便に済ませたいが、ここで逃げれば逃げたという情報が出回るかもしれない。もちろん、見失ったという不備を誤魔化す可能性はあるだろう。

 しかし、女の子ふたりに倒されたということは報告しない可能性が高い気がする。

 殺さなくて済むのなら、その方がいいのかな?


「ちなみにですけど、祝ちゃんはどの程度戦えるです?」


「えっ、私? うーん、<武術>スキルや<魔術>スキルはいくつか持たされているけど、使ってみたことがないからどの程度戦えるかは、わかんないかな」


「じゃあ今回はその試運転も兼ねてみたらどうです?」


「なるほど。いきなり実戦で殺し合わなきゃならなくなると、大変だもんね」


「そうです。いざとなればわたくしもいますし、雑魚っぽい彼らでレッスンするです」


 そこまで言い切られてしまう男のひとたちが多少哀れではあったが、私はいい案だと思った。

 私はうなずいて見せた。


「では、レッツゴーです」


 私たちは、廃屋の中から飛び出していった。

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