トマトジュース
ふぅ、と小さく息をついて腰を下ろした。何となく、ふらっと立ち寄ってみた初めて入る喫茶店。なんだか埃っぽい店内だった。
腰を下ろしたその椅子は、据わりが悪く背もたれに寄りかかるとガタガタとグラついた。目の前の木目調のテーブルには、小さなビンに入った角砂糖と塩だけが置いてある。僕はメニューを探して店内をぐるりと見渡したが、店内は観葉植物と古ぼけたポスターで埋め尽くされるのみでメニューは見当たらなかった。
ふと気が付くと、やや色の黒い、痩せた中年男が僕の横に立っていた。無言で水の入ったグラスとおしぼりをテーブルに並べた。
「トマトジュースありますか?なかったら、アイスティー下さい。」
僕はコーヒーが嫌いなわけではではないが、わざわざ金を払ってまで飲むべきものとは思えなかった。一方で無類のトマトジュース好きだった。あの酸味とわずかな甘みの虜になってからは、喫茶店でもレストランでもトマトジュース頼むことにしている。といってもトマトジュースがメニューにあることは稀で、今日もだめもとで注文してみた。
「無塩タイプと、塩と少し香辛料が入ったものがございますがどちらになさいますか?」
トマトジュースがあるだけでもめずらしいのに、二種類もあるなんて意外だった。
「じゃあ香辛料が入った方下さい。」
なんだか嬉しくなってきた。