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滅亡の一族

滅亡の書き直しになります。

ちらほらと読んでいただける方が増えてきてうれしい限りです。

 ハルト達を拘束してから、アルバートはエミリーから現在の情勢や人の中での吸血鬼の扱いについて聞いていた。アルバートが吸血鬼である事や千年前に封印されて今に至る事を説明すると最初は訝しんでいたエミリーだが、尖った犬歯や実際に吸血鬼固有の行動である吸血してみせる事で最終的には納得してくれた。エミリーの首筋に嚙みついたときに漏らした「ひゃう!」という可愛らしい声はアルバートの胸の中にそっとしまわれた。


 エミリー曰く、数百年程前の文献では人と吸血鬼が共存していたらしい事がわかっている事、しかしその後に起こった親人間派の吸血鬼と反人間派の吸血鬼の同族争いで吸血鬼は4体まで数を減らしてしまい、その4体も今は迷宮と呼ばれるダンジョンの最奥に封印されているとの事だ。


「そう、か。吸血鬼は、滅んだのか。」


「ほ、滅んではいませんよ? ダンジョンの最奥に封印されているというだけで……」


 アルバートが同族の結末に多少ならざるショックを覚えているとエミリーがフォローを入れる。しかし、封印されているということは何か封印される理由のあった吸血鬼なのだろう。昔から吸血鬼は罪を裁く方法の一つとして封印を用いてきた。アルバートのような体の時間ごと止める特殊な封印をされない限り、封印中に寿命で死んでしまう。なので、アルバートとしては自分が最後の吸血鬼だという事を嫌でも理解してしまうのだ。迷宮と呼ばれている場所に封印されているらしいが、恐らく成り立った順序は逆で、封印された吸血鬼の強大な魔力に惹かれてモンスターが産み落とされ、迷宮と呼ばれるようになったのだろう。アルバートは頭を振り軽く肩を落とすと、それでも数百年前に我が親友は夢を成し遂げたのだなと空を仰ぎ目頭に涙を浮かべる。


「アルバートさん……」


そんなアルバートの様子に、エミリーが憐憫の念を滲ませる。話によれば、同族の為に千年の眠りについたら、その間に同族が滅んでいたというのだからその悲しみは計り知れないだろう、と。そんなエミリーにアルバートは軽く苦笑を浮かべると、大丈夫だと会話の続きを促した。


「せっかくだから、迷宮の位置を教えてくれないか?」


「迷宮の位置、ですか? 良いですけど……はっ、まさか封印を解こうと!?」


「いや、そうでは無くて……せっかく起きたはいいが、する事が無くなってしまったのでな。せっかくだから、封印されている哀れな同族を見て回ろうかと。」


「そうですか……では、少し待っていてください。ハルトさん達の道具袋の中に、地図がある筈です!」


エミリーが拘束されているハルト達へと駆けて行く。自分を奴隷にしようとしていた奴らとはいえ、躊躇いなくその荷物を漁るのはどうなのかと思ったアルバートであったが、自分も昔は殺した相手の荷物は漁っていたな、と思いなおすと、特に問題が見当たらなかったのでおとなしく待つことにした。ハルト達の道具袋をエミリーがガサゴソと漁ること数秒、その手に長方形の古びた羊皮紙を持って戻ってきた。どうやら今の世界地図のようで、広げられた羊皮紙には見覚えのある形の大陸と、見覚えのない町の名前が書かれていた。


「これがこの大陸の地図です!。って、千年前とたぶん同じでしょうから知ってますよね……うう、地図持ってこなくてもよかったかな。」


「いや、知らない場所に町ができているし、そもそも人間と吸血鬼とでは呼び方が違う場所もあるからな。地図があると助かる。で、肝心の迷宮の場所は何処なんだ?」


広げられた地図をアルバートが覗き込む。小さい地図なので、必然同じ地図を覗き込む二人の顔の距離は近くなりエミリーの頬が赤く染まる。白い頬に朱を差したその表情はまるで恋する乙女のようで……先ほど口を付けられた、噛まれた後のまだ痕が残ってる首筋をそっと手で押さえる。


「……?どうした、まだ噛まれた後が気になるのか?」


「うぅ、気になるに決まってるじゃないですかぁ。……本当に、嚙まれても吸血鬼になったりしないんですよね?」


エミリーは首を抑える手にきゅっと力を込めると、染まった頬を誤魔化すようにぷいっとアルバートから視線を逸らす。


「さっきも説明したが、ただ血を吸っただけでは吸血鬼にはならない。それだけで吸血鬼になるんだったら、千年前からこの世界は吸血鬼だらけだ。」


「うぅ、でもぉ……」


「そんな事より、早く迷宮の位置を教えて欲しいのだが。」


「そんな事って……わかりましたよ、もう。」


顔は逸らしたままでジト目でアルバートを見つめるエミリー。そんなエミリーをアルバートの紅い双眸が見つめると観念したように説明を始める。もともと噛まれた事より、男の人に首元に口をつけられた事や顔が近い事に照れていただけなので、じっと見つめられると本末転倒なのだ。


「ええと、ここと、ここと……あ、何か書くものがあったほうがいいですよね。荷物の中にあったかな……」


すっかりハルト達の荷物を漁る事に抵抗が無くなった、いや最初から抵抗があったかと言われるとそれもまた微妙だが、エミリーはペンを探しに行こうとするが


「ああ、別にペンは無くても大丈夫だ。印をつけるだけだしな。」


アルバートは自身の手を口の前に運ぶと、その鋭い犬歯で指先に傷をつける。たらりと指先から赤い血が流れ、アルバートはそれで地図に二か所、迷宮の場所として教えてもらった場所に丸をつける。


そんなアルバートを見て、エミリーは硬直してしまっていた。冒険者登録の時には自分で傷つけて血をだしたりもしたが、それも鋭いナイフを使ってのことだ。それを、指で噛んでだなんて…と。しかし、アルバートにはどうしてエミリーが固まっているのかがわからないので、とりあえず先を促す事にした。



「で、後二個所は?」


「へ?あ、そうですね。ええと、正確には残り三か所なんですが、ここと、ここと……」


「三か所?吸血鬼が封印されているのは四か所で、その内二箇所がここなら後二箇所じゃないのか?」


アルバートは浮かんだ疑問を口にしながら、さらにエミリーから提示された場所に印をつけていく。


「ええ、吸血鬼が封印されているのはこの四か所なのですが、それとは別に迷宮が一つあるんです。なんでも、そこで一体の吸血鬼が命を引き取ったとか……ここなんですが。」


エミリーは地図の一点を指し示す。それは、偶然なのか、それとも必然なのか。その場所は――


「アルフ大迷宮……」


「あ、ご存じなんですか?……ってことは、千年前からあったんですねこの迷宮。」


「あー、ご存知というか、なんというか。」


アルバートが珍しく歯切れを悪く言葉を濁らせる。というのも、このアルフ大迷宮と呼ばれているものは、若かりし日のアルバートがウィルヘルムと一緒に悪ふざけで作ったモノなのだ。大迷宮といっても、ただ単に洞窟を魔法で削って拡張して作っただけの秘密基地だ。アルバートとしても、たまたま場所が被ったからぽろっと口に出してしまっただけで本当にそれだとは思っていなかった。それが肯定されてしまったのだから、動揺せざるをえない。


「まぁ、だいたい分かった。感謝する。」


「い、いえ、そんな……私こそ、助けて貰ってありがとうございます。で、そのぉ……」


「ああ、そんな心配そうな顔しなくても、あいつらを冒険者ギルドとやらに突き出すまでは、迷宮の情報代と、久しぶりの血液の代金として護衛させてもらう。ここから一番近い町で大丈夫か?」


「えっと、そうなんですけどそうではなくて、その。……はい、ここから一番近い町で大丈夫です。」


エミリーは、そうじゃなくてぇ…と唸っていたが、アルバートの無機質な表情に大丈夫ですと頷いてしまった。

「それでは、行くとしようか」


 アルバートは指を弾くと、詠唱を介していない無属性の魔力を放出しハルト達を包み込むと、浮遊させる。エミリーは、そんな緻密な魔力制御技術に目を丸くしながら二人は輝石が照らす洞窟を後にするのであった。

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