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腕の中で
「つきました」
そんな運転手への言葉を全て聞かないうちに私は車から飛び出す。
玄関先には、黒の着物を着た男が手を広げて立っている。
「亜瑠!」
「皐月さん」
ふわり、と抱きしめられる。あったかい。
「会いたかった」
甘く甘く、蜜をたっぷりとつけたような声で私の耳元で囁く。
「ふふ、さっきパーティーで会ったじゃない」
くすくす、と。皐月さんの腕の中で私は笑う。
「あれは会ったうちに入らん。亜瑠と触れ合えないのなら、それは会っていない」
「おかしいわね」
くすくす、と。私を全身で愛してくれるこの男の腕の中で。安全な腕の中で私は笑う。
「で、本題は?」
真面目な、キリッとした顔で私を覗き込むいい男。
「まさか俺に会いに、じゃないよな」
まさか、とか自分で言いながらも、少し期待した顔に、申し訳なく、、、ならない。
「あら、ここで?」
私がそう言うと、ハッとした顔になる。
「悪い!部屋に入ろう」




