White
リアルっぽい小説です。
ある時、俺は故郷に向かった。
そこはダムの底に埋まっている。嘗ての故郷を眺められる所に足を運んだ。
村長であった俺の父は、ダム建設計画を推進して、多くの村民が反対する中総スカンを食らい俺達、家族全員引っ越すことになった。
ここは俺にとって嫌な思い出でもあり、恋人のことを思い出す地でもある。
当時、俺には付き合っていた彼女が居た。俺の父がたとえ総スカンを食らっても、俺の事を愛してくれていた。
「翔ちゃんは、悪くないよ。お父さんは確かに強硬派かもしれないけど、私は翔くんのことが好きだから。だから此処に居てよ。」俺の彼女…由香利はあの時、俺にそう言った。
だけど、俺はあの時こう言ってしまった。
「悪いけど、俺はもうこの村に収まるつもりはねぇんだ。だから、これ以上俺に近づくんじゃねぇ。」
すぐ様、俺はそう言って家まで走り去った。
きっと都会には可愛い女がいっぱい居るから。そう思って、走り去った。俺達が住んでいた土地が沈む前の日だった。
そして、移転地に住むことなく俺達は都会に移住した。
都会じゃダムの件で色々言われることもないが、相手にされることも無くなった。
都会の女の子は皆、お洒落にこだわり、陰口も酷くとても好きになれるようなもんじゃなかった。
日増しに募る由香利への思い。そしてあの事を言ってしまった悔恨の思い。
由香利に会いたい。しかしながら、俺に会う資格なんてない。
でも、諦められない。
そんなことを思いながら、高校生活を送った。
そして、大学に進学してキャンパスライフを送っていたそんなある日の事だった。
由香利から手紙が届いた。俺の住所なんて知らないはずなのに。
『大好きな翔君へ。お久し振りです。私は翔君と会えて幸せでした。もう一度翔君に会いたいと思います。あの日、私は寂しかったです。でも翔君も辛かったんだよね。だから許すよ。 由香利より』
文字は綺麗であったが震えていた。今、入院しているという彼女の居る病院に向かった。こんな時には何かあると思って。
病院に行き、由香利の病室を尋ねた。
すると看護婦さんは、「退院されましたよ。」そう言った。
俺は胸を撫で下ろしたが、それがどういう意味が分かっていなかった。
由香利は臨終を迎えたようであった。その事が分からなかった。
ニュアンスで分かった気がしたが、信じたくなかったのだ。
帰りのタクシーで偶然通りかかった葬儀場で見かけた由香利の通夜を見て涙が溢れ出た。
彼女の死に喪失感を覚え、一年が経って彼女の家に行こう。そう思った。
そして、移転地にある彼女の実家を尋ね、線香をあげた。
俺は彼女の遺影に涙を抑えながら、別れを告げた。
彼女の実家には、瓜二つの妹が居た。
「先輩。私、あなたの事が好きです。」由香利によく似たその少女は不意に俺に告白してきた。
由香利の妹である友梨と付き合うことにした。由香利に対する罪滅ぼしもあるが、何より本当に彼女が好きになったのだ。