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ヌコの勇者とギルドオペレーション!!  作者: 笹草 熊猫
1章 ブレーメンの精霊使いと動物恐怖症の青年
7/24

6話「勇者のみに許されし力」

 シズナ草、それはこの街、女神の名前から付けられた『ヴァナディアス』周辺の森にだけ棲息している薬草だ。

 しかし、人間達に刈り取られた今となっては、市場にも出回る事も滅多に無い希少な薬草である。

 

「ヴィマプアーナ、どうすれば見つけられると思う?」


 私は光の精霊ヴィマプアーナに意見を仰ぐ事にした。


「そうね~……森の事なら木の精霊のニーズヘッグちゃんかな? 移動は風の精霊のグリフェルに頼めば良いと思うわよ」

「風の精霊?」

「うん、グリフェルは空を飛ぶ事が出来るの。背中に乗せてもらえばすぐ目的地まで案内してくれるわ」


 そんな便利な精霊が居たのね……素直に背中へ乗せてくれるとは思わないけど……


「分かったわ。 ありがとう」

「ううん、頑張ってね」


 そう言うとブタのヴィマプアーナは姿を消した。


「とりあえず呼び出してみますか……大気を操りし大いなる翼の王者よ。ヴェルデの名において命ずる! 出でよ、グリフェル!」


 私の召喚に応じて、現れた風の聖霊は……顔が鷲なのに身体が……ライオン? 更には翼が生えている。

 でも何なのかしら? 今までの精霊の中で一番頼りになりそうな精霊なのは間違いないわね!


「話は全て聞いていた。さぁ、勇者よ、我の背に乗るが良い」

「……えぇ!? 乗って良いの?!」

「勇者を手助けしろと翠緑様から仰せ使っている。遠慮する事はない」

「それじゃ、遠慮無く……」


 私はグリフェルの背中に乗るとモフモフとした心地良い毛並みが足を包みこんだ。


「それじゃ、森の入口に行ってちょうだい!」

「心得た!」


 グリフェルは走って加速を付けると、翼をはためかせて上空へと飛び上がった。


「ぉぉぉお! 飛んだわ! グリフェルが飛んだわ!?」

「……勇者よ、うるさいぞ」


 グリフェルの背から見上げる世界はまた私に新たな驚きを見せつけた。


「ねぇ、見てグリフェル! 人がゴミの様だわ!?」

「……勇者としてその発言はどうかと思うが……」


 グリフェルは呆れつつも私を森まで運ぶと大気に溶け込むように消えて行った。


「これでかなり時間は短縮出来たわね。お次は……怒りに狂いし大樹の根を貪る蛇蝎だかつよ。ヴェルデの名において命ずる! 出でよ、ニッグヘイラ!」


 颯爽とニッグヘイラは現れるとリボンの付いた尻尾を小さく横に振った。


「なぁ~に~? メイクしている途中だったんですけど~、勇者って本当にKYっつうか――」

「メイクって何!? する必要あるの!?」


 何故か中途半端にお化粧されたニッグヘイラの顔を見ると、申し訳なくなってきた。


「ごめんなさいね、ニッグヘイラ。貴方にしか出来ない事を頼みたいの」

「ヘイラにしか? それって~何だかダルそうな頼みごとみたいな? ヘイラそーゆうの困るんですけど~」


 木の精霊は良く喋るんだけど、何かと話し辛い相手なのよね……。 


「ねぇ、聞いて。シズナ草って知ってる?」

「シズナ草? あ~、それならこの森に住んでいる精霊から聞けばお茶の子さいさいって言うか、マジ楽勝っていうか~」

「本当!? それじゃ早速聞いて貰えない?」

「え~、だるいんですけど~……」

「そこをなんとかお願い!」

「まぁ~? 翠緑様からも言われてるし~、めんどうだけどやってあげなくもないっていうか~、ちょっと待ってて~」


 ニッグヘイラは森に住む精霊とコンタクトを取ると、シズナ草の情報について集め始めた。

 

「分かったわよ~、何でも人間達が考え無しに採りまくるもんだから~、精霊達が奥地に隠したみたいね~」

「なるほど、そうゆう事だったのね。少しだけ分けて貰えないかしら?」

「ん~、まぁ、勇者の頼みなら良いって言ってるし~、良いんじゃない~?」

「ありがとう! それじゃ早速案内をお願いできるかしら?」


 タイムリミットは明日の夕刻! 急げば時間までには間に合うだろう。

 こうして私達はシズナ草を求めて森の奥へと向かった。

 一方ライオットは、日が沈み、暗闇に支配された森の中を当てもなく彷徨っていた。

 片手にはランタンを持ち、猛獣対策に剣らしき物を腰にぶら提げている。


(どこだ? 何処にある……? 残っているとすれば人の手が届かない様な場所か……?)


 ライオットはずっとシズナ草が生えていそうな場所を考えていた。

 恐らく、人目に着く様な場所は粗方刈り尽くされているだろう。

 となれば――


「そうか! 崖の様な場所ならまだあるかもしれない!」


 ライオットは人道から外れると、帰り道が分かる様に木の枝に目印を付けながら木々の中を進む事にした。

 そしてどれくらい歩いただろうか? 

 1日中歩きっぱなしだったライオットは葉っぱの上に少し腰を下ろして休憩する事にした。

 

(しかし、もしこのまま見つからなかったらどうしよう?)


 ライオットは弱気になっていた。

 けれど、同時に生まれてからこれまでの事を思い出してた。

 顔も思い出せないあの日の親父の後ろ姿。

 本当ならもっと好待遇で他のギルドへ行く事も出来たであろうに最後まで残ると言ってくれたゼノン。

 そしてライオットが生まれた、あの家。


(こんな弱音を吐いている様では、幼い頃から僕の面倒を見てくれていたゼノンに合わせる顔が無い。何としてでも見つけ出すんだ!)


 ライオットは新たに決意を固めると立ち上がった。

 そして、それと同時に自分が今置かれている状況にも気付いてしまった。


「狼か……」


 かなりの数に囲まれている。ライオットは爆竹を握りしめた。

 武術はゼノンから教わっていたが、出来ればあまり殺生事はしたくない。

 それにこの腰に携えている剣の用途は殺傷目的では無くもっと他にあった。


「逃げ切れるか……?」


 ライオットは走りだすと、囲んでいた狼達もライオットを確実に仕留める為に距離を狭めてくる。

 狼の習性は分かっている。

 ドジを踏まなければいきなり噛み付かれて致命傷を負う様な事は無いだろう。

 しかし――


「グルルル! ガルゥウウ!!」


 闇夜に紛れて突然、狼が飛びついて来た。


『バチバチバチバチ!!』


 ライオットはそれを爆竹で怯ませると、包囲網を抜けて森の中を突っ走る。

 後ろからは狼達が葉っぱを踏みながら、走ってきている音が聞こえる。

 時折、追いつかれて横から飛び付かれたが、ゼノンから軟な特訓を受けていないライオットにとって避けるのは簡単であった。

 しかし、この狼の群れから抜け出すには森を抜けなくてはならない。

 それまでに体力が持つか?


「このまま体力が無くなるのを待つって魂胆か……」


 正直、自分が今森のどこを彷徨っているのかもハッキリと分かっていないライオットにとってこれは絶望的な状況とも言えた。

 狼達を撃退すれば助かるかもしれないが……。

 そんな考えがふと脳裏に過る。

 しかし、そんな考えに神経を取られていた時であった。


「ガオオォオ!!」

「くっ!?」

 

 ライオットは遂、反射的に狼の攻撃を避けたのだが、暗くてそこが崖のすぐ傍だとは気付かなかった。


「なっ? 地面が――」


 ライオットは足が地面に着かない事に気付き、自分が落ちているのだと認識した。

 しかし、崖の底は暗くて何も見えない……。

 ライオットは胸のざわめきを抑える事も出来ずそのまま奈落の底へ落ちて行くと、何時の間にか気を失った。


「ペロペロ」

「んんっ! んー?」


 次に目が覚めたのは真昼の日が差し込む崖の底であった。

 ライオットは頬を何かに舐められた感触で目が覚めた。


「ここはっ!? つぅ!」


 起き上った痛みでライオットは自分が昨日、この上から落ちてきた事を思い出した。

 そして辺りを見渡すと、白いヌコが傍に居る事に気付いた。


「ニャー」

「どうしてお前がここに……? それにこれは?」


 白いヌコの口には薬草が咥えられている。しかもこれは依頼で探していたナズナ草だ。


「お前、一体何者なんだ? とても普通のヌコとは思えないな……」


 ライオットはその奇行に呆れて立ち上がると、白いヌコからナズナ草を貰った。


「今は昼間か? 急いで戻らないと夕刻までに間に合わないな……北はこっちか」


 ライオットは太陽の角度から方角を確認すると、急いで白いヌコと共に街へ戻る事にした。


「あと1時間ほどで約束の期限になりますね。べリオール卿」

「あぁ、だが今回も無理だろうな……。例え、ナズナ草を手に入れたとしてもあの包囲網は突破できんよ……」


 ベリオール卿とオルフェウスは紅茶を啜りながら、窓から見える街の景色を眺めていた。

 街は夕日で紅く染まり、美しい黄昏を映し出している。


「はぁはぁ…… なんとか街まで帰って来れたな……」


 泥だらけになったライオットと白いヌコはなんとか夕日が落ちる前に街の入口まで戻ってきていた。

 後はこのナズナ草を届ければ任務は完了だ。急ごう!


「おやおや、あの手に握っているのはナズナ草ですか……。念の為に『彼ら』を雇っておいて正解でしたね……クックック」


 陰からライオットを監視していた怪しい男はそう言うと、路地裏の中へと姿を消して行った。

 ……そして闇の中で暗躍せし『彼ら』の腕には死を象徴する死神の紋章が描かれている。


「さぁ、狩りの時間だ……。この男を始末しろ……」


 『彼ら』と呼ばれる者達はその写真に映し出されている男を確認すると各々、街の中へと散らばって行った。


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