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ヌコの勇者とギルドオペレーション!!  作者: 笹草 熊猫
1章 ブレーメンの精霊使いと動物恐怖症の青年
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3話「希望への道標」

「ってぇ! 何でいきなり私達、追われてるの!?」


 泉の外から森に出た私達は、いきなり3匹の狼達に見つかり追われる身になっていた。


「ヴェルちゃん! 動物は本能的に火を怖れるわ! フィニクスを呼び出して!」


 そう言うとヴィマプアーナは消えた。

 同時に2体の精霊を召喚するにはまだ私が未熟な為だ。


「えーと……生命の象徴にして死の象徴を併せ持つ矛盾なる炎の化身よ。ヴェルデの名において命ずる! 出でよ、フィニクス!」


 私の召喚に応じて現れたのは……火の鳥!? 

 これは予想以上に期待できそうである!


「フィニクス! あの狼達を追い払って!」

「はぁ~? それはできねぇ相談だな」

「えぇ!? なんでよ!?」


 フィニクスは思っていたよりもチャラい喋り方をする鳥であった。


「お宅、ここどこだか分かってる? 森だよ、森。こんな所で火何か放ったら火事になるでしょうが。そんな事も分からないわけ?」


 確かにその通りだが、自棄に嫌味な言い方をする鳥である……。


「じゃあ、どうすれば良いのよ!?」

「さぁ? 自分で考えれば?」


 そう言うとフィニクスは消え去った。


「え? え? ちょっと!?」


 私はフィニクスに呆然としていると遂に狼達に追いつかれてしまい、急いで草木が生い茂る場所に身を潜めた。


(どうする!? 何を呼び出せば良い?)


 必死に思考を巡らせるが、まだ精霊達を把握しきれていない私には有効な策が浮かばなかった。

 そして狼達は私に狙いを定めると飛びかかってきた。


(もう駄目!!)


 私は目を閉じて、身体を強張らせた。


『バチバチバチバチ!!』


 その時である、狼達の前に爆竹の様な物が破裂して鳴り響いた。

 

「きゃんきゃん!!」


 狼達は爆竹の音に驚くと急いで逃げて行った。


「こんな所まで狼が来るなんて珍しいな。狼除けに爆竹を持ち歩いていて正解だったよ」


 私は思わず声がする方に振り向いた。草木が生い茂っている場所に居る為、視界は悪いが青年の顔だけはハッキリと見て取れた。


(――似てる!?)


 男の子よりもかなり年上だが、何処となく男の子の面影が見て取れる。

 短い黒髪に凛とした顔立ち。


(きっと男の子が成長したらこんな風になったんだろうな……)


 その青年は狼達が見えなくなるのを確認すると、山菜が摘まれた藁の入れ物を持ち上げて歩いて行った。

 私も青年が何処に行くのか気になって後を付ける事にした。

 そして青年の後を付けて森を抜けると、ある景色が私の目の前に飛び込んできた。


「わぁ……大きな街! 上から見上げると街ってこんな風に見えるものなのね!」


 室内暮らしだったヴェルに取って、外の世界というのは全てが新鮮だった。

 ここから見える街はとても広大で大勢の人々が行き交っているのが見えた。

 その景色に見惚れていると、青年が山道を降りて行くのが目に入り急いで追いかける。

 そのまま青年に付いて行くと青年は街の中へと入り、とある古ぼけた大きな建物に入って行くのが見えた。

 私はその建物の中が見える様に、窓のある場所を探すと樽の上に登って中を覗きこんで言葉を失った。

 建物の中には灯りが無く、外装に負けない程、床も壁もボロボロで穴が空いている場所もあったのだ。


「何よこれ……酷いなんて物じゃないわね」

「おや? そこのお嬢さん。見ない顔でやんすな」

「ん? 誰?」


 私に声を掛けてきたのは1匹のアメリカンショートヘアの毛並みをした猫だった。


「あっしは、この街の情報屋をしているヌコのポロンと申す者でやんす。以後お見知りおきを」


 ヌコ? この世界では少し訛った言い方をするのだろうか?


「私はみ……いや、ヴェルよ。情報屋って言ったわね? この建物の事も分かるのかしら?」

「えぇ、そりゃあもう。但し、報酬は頂きやすよ?」

「報酬? えーと……魚で良いかしら?」

「魚!? そんな御馳走をして頂けるんでやんすか!? 分かりやした! 知ってる事を何でもお話しやすでやんす!」


 魚と聞いただけでこの喜び様……。こちらでも野良は大変そうね。


「この建物はギルド『ペルペトゥオ』が構えているギルドホームでやんす」

「ギルド?」

「えぇ、そのギルドに所属している冒険者の相互扶助や情報収集などを行うための拠点でやんすね。冒険者の中には腕の立つ人間も集って居やすから街の自警団では対応しきれない事案を主に請け負っているでやんす」

「へぇ~、要は何でも屋みたいな組織の集まりなのね」

「まぁ、そう取ってもらって相違は無いでやんす」

「で、何で此処はこんなにボロボロなの?」

「それはでやんすね……」


 ポロンは声のトーンを落とすと、ペルペトゥオについて語り始めた。


「ペルペトゥオはかつてこの街で一番名を馳せたギルドでありやした。しかしその時、就任していた先代のギルドマスターがとある事故で他界したんでやんす。そして代わりにギルドを引き継いだのが、今のギルドマスターである息子のライオット=フェルームなんでやんすが、幼かった息子のライオットは当然ギルドを仕切る事など出来ず、当時のギルドメンバーは殆ど去って行きやした。今では先代の代から居る武術の達人であるドワーフのゼノン=ヴォルフラムしか残って居ないと聞きやすね」


 ということは先程の青年がギルドマスターのライオットなのであろうか? 

「なるほどね。大体の事情は分かったわ。でも今もここの景気は悪そうね」

「そうでやんすね~。何せギルドマスターのライオットは――」

『ガシャーン!』


 突然、窓の割れた音で二匹はビクンっとなった。


「分かるでしょう? ライオットさん。このギルドはもう終わったんですよ……。大人しくこの土地を引き渡してくれませんかね?」


 中ではライオットと呼ばれる青年と、中年太りの男性が話していた。周りにはその男性の護衛と思われる冒険者が二人付いている。


「お断りします。誰にも親父の家を譲るつもりはありませんので」

「貴方も強情ですね……。ここは人通りも多く、商売には持って来いの場所だ……。誰からも必要とされないぼろっちぃギルドを置いておくには勿体無い」


 中年太りの男性は露骨な態度で、如何にこの場所がお店を出すのにメリットがあるかを説いてくる。


「ねぇ、あれは誰なの?」

「あれは商人ギルドのスモロフでやんす。最近この土地に目を付けて嫌がらせしてくるんでやんすよ」

「この建物無くなっちゃうの?」

「そうでやんすねぇ……今はゼノンの旦那のお陰で生きながらえていやすが、この建物も好い加減建て直さないと限界でやんすし……」


 確かにこの建物の老朽化は酷い。いつ崩れても可笑しくないだろう。


「随分、荒っぽい客人じゃな。どれ? わしが相手になろう」


 奥の部屋から小さな背丈をした白髪のお爺さんが現れた。長い髪は後ろで結ばれて纏められている。

 スモロフの護衛をしている二人は白髪のお爺さんに向かって構えた。


「やめておけ……」


 スモロフは手で護衛を制止させた。


「今日はこれくらいにしておきましょう。また来ますよ」


 悪人面を浮かべたスモロフはそう言い残すと、護衛を連れてギルドホームから出て行った。


「帰っておったんじゃな、ライオット」

「あぁ、今日も山菜が一杯取れたんだ。ゼノン」

(あれが、ゼノン……)

「ところで依頼は何かあった?」

「いいや、今日も依頼は来てないのう」

「そうか……。まぁ、たまに来ても迷子の猫探しとかばかりだけどね……」


 ライオットはギルドの経営難に頭を痛めていた。

 このままではどっち道、倒産してしまだろう。


「はぁ……。何とかしなきゃなぁ……」

「ニャー」

「おわっ!?」


 ライオットはギルドホームに入ってきた白ヌコを見て驚いた。

 しかも驚き方が尋常じゃ無い。


「ライオット。相変わらずお主の動物恐怖症は重症じゃのう……」


 動物恐怖症? この青年は動物が苦手なのであろうか?


「いやだって! 動物が近くに来ると震えが止まらないんだ……」

「ふむ……しかし、見慣れないヌコじゃな。それに白いヌコとは珍しい」


 ゼノンは顎髭に手を当てて、私を見てきた。


「ニャアー」

「それに人懐っこくて愛らしいヌコじゃなぁ」

「……ゼノン。ヌコばかり見ててもお腹は膨れない――」

「見て、ママ! ほらっ! 白ヌコだよ!?」

「あら、本当ね。珍しい色をしているわ」


 白いヌコを見かけて来た親子だろうか? 


「此処は……何屋さんなのかしら?」

「これはこれは、此処はどんな依頼でも受け持つ冒険者ギルドに御座いますぞ」

「まぁ! ここはギルドだったのですね。ずっと何のお店なのか気になっていたんですよ……ちょうど良いわ、此処で依頼しましょう?」

「うん! 此処ならシェリーを探してくれるかも!」

「シェリーとな?」

「えぇ、この子ったらお人形を何処かで落としちゃったみたいで……でも、どのギルドでもこんな依頼を受けてくれる所なんて無いでしょう……?」

「なるほど。お任せ下さい。必ずやそのシェリーというお人形を探し出してみせましょう」

「まぁ、本当ですか!? そうしてもらえると助かりますわ」


 ゼノンは慣れた手付きで、依頼を請け負う。


「人形かぁ……この街で見つけ出すというのはなかなか骨が折れるな……」

「ライオット、愚痴を言っていても仕方があるまい。折角舞い込んできた依頼なのじゃから」

「分かってるよ。それじゃ探しに行ってくる」


 ライオットはそう言うとギルドホームを出て街の中へと消えて行った。

 私もギルドホームを出ると、ポロンの所へと戻った。


「ねぇ? ポロン、さっきの女の子の人形とかも分かる?」

「えぇ、あっちの情報網を使えば見つけ出すのは容易いでやんす。でもその前に……」


 ポロンが何かを求める様に手を出して来るまで、私もすっかりさっき言われた事を忘れていた。


「あぁ、報酬ね? 良いわ、先に魚を採りに行きましょうか。私もお腹が減ったわ」

「やったでやんす! 早く魚を食べたいでやんすなぁ」


 こうして私とポロンは腹ごしらえをする為に魚が棲息している川へと向かった。

 そしてこれを切っ掛けに私は心強い味方を手に入れる事になる。

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