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雨宿り



 ため息つくのもめんどくさい。

 シャワーで流し落とせなかった疲れはワイシャツでひきしめられる。でも。

 ベランダの室外機を叩く雨音。あれはそうはいかない。

 このふりかただと家族送迎組が増えるから確実に道路は混む。資料諸々のあの荷物抱えて電車はカンベン願いたい。

 車か。電車か。

 どっちにしろ。朝っぱらから忌々しいことこのうえない。

「お味噌汁くらい食べて」

 食べずに出ようとしたのに先手を打たれた。テーブルに置かれた味噌汁。食いもんに罪はない。ないが。ったく。座るのもメンドウで立ったまますすった。

「あっっ!」

 ……汁の熱さに舌がシビレる。なんで。今日にかぎって。

 洗いもの中のだんご頭に文句を言い、たくなるがこらえた。バトる気力が惜しいし言えばこっちの猫舌をからかわれるのは確実。

 食いもんに罪はない。もういちど念じて、とりあえず椀を置いてしぶしぶ座った。こう熱くちゃ、すぐ食えん。

 雨の勢いは変わらないよう。

 さっきドアポストから無理やりぎみにひき抜いたせいでひっかきキズのついた新聞。開いてみても大臣たちの不祥事ばかりで読む気も失せる。お、今夜のロードショーはゾンビか。これは見逃せない。

 おそるおそる口をつける。まだ熱い。

 角切りトマト。なすび。これなに豆だっけか。味噌汁にトマト。初めて出されたときはえらく驚いた。

 今度は椀のかたらにおにぎりが登場し、鎮座。ほおばる。大葉とたっぷりのゴマ。ようやく適温になった汁とよくあう。いつもの味。

 ああ、うまかった。

 いつの間にか雨は小降りになっていた。

 これなら。よし。

「気をつけてね」

 かけられた声に、靴ベラを戻しながら返事がわりに言う。

「行ってきます」

 湿気がまとわりつく。雲間から光がわずかにもれて。今日も暑くなるな。

 シートベルトをはめながら気づいた。熱い味噌汁の理由を。

 時間稼ぎ。雨宿り。

 雨が弱くなったのはたまたまだろうけど。結果は上々。つか、腹がたまってイライラ軽減とかガキかよ。

 ――気をつけてね。

 はい。だんご頭の仰せのとおり、心に余裕をもって。今日も一日、乗りきりましょう。

 苦笑いしながらエンジンをかけた。




 

 


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