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雪の音



「白い」

 カーテンの向こうをのぞきながら言えば。背中に大きな猫、のような彼女が抱きついてきた。

「ほんとだ」

 ごちゃついた住宅街が白におおわれ雲間からの朝日できらきら反射してる。予報どおりか。休みで良かった。今日であらかたとけてくれりゃいいけど。

「買い出ししといて良かったね」

 大きめなボリュームでやたら強調するように言ってくるのは昨日の散財を正当化しようとの思惑なんだろう。ったく。

 数十年に一度の最強寒波が到来します。

 これにビビった“美衣”は大人ふたりで消費するには努力がいりそうな量の食料品やら(ゲームやトランプなど食べ物ではないものを含むため)を買ってきた。だいたいトランプってえらく前時代的な。久しぶりすぎてババ抜きに熱くなった夕べの自分は、いま記憶から抹消した。

「さむいぃ」

「ふとん戻ってろ。沸いたらもってく」

 さっきまでくるまってたふとんのなかならまだ充分あったかいはず。んーって返事はすれど腹にまわってる腕はほどかれない。待ってみても動きそうにないので抱きつかれたままコーヒーをセッティングした。

 中途半端な二人羽織りみたいだなと思いつつ、熱を持ちはじめたやかんをながめた。くすくす笑う美衣のせいで脇腹あたりがくすぐったい。

 手もとがすこし暗くなった。外はさっきまでより強く降る雪。いつもなら子どもの声や車のエンジン音、鳥の鳴き声がするのに。美衣もおとなしい。肩ごしにうかがえば同じように雪を見ているよう。

「静かだね」

 ぽつりつぶやいただけでも美衣の声はよく聞こえた。

 あ。思い出さなくてもいいモノを思い出した。いまだからこそ思い出せたともいえるけど。やっかいな。しかもあんな大昔の。

 これを言うには勇気がいる。からかわれるとわかっていてネタを提供する必要もない。常日頃から、往年のハリウッド映画なみのロマンスと甘すぎるコーヒーを嗜好する彼女が相手でも。

 やかんが沸いたと知らせてきた。すこし冷たい細い手に湯がかからないようにカバーしながらそそげば、湯気とコーヒーの香りがたちのぼった。

 ――どうして静かなの?

 子どものころは遠い空から落ちてくる雪がフシギでしょうがなかった。はしゃぎまわるガキどもとは違ってため息まじりの大人たち。いまならその理由がよくわかる。

 あのときはココアで。答えてくれたのは母さんだったか。そういやあのひとも家族のまえだろうと映画やテレビで泣くクチだったな。

 背中をぐりぐりされる。もうちょい下だとツボにあたるのに。

「ジャージでよだれ拭くなよ」

「甘えてんの!」

「入ったぞ、コーヒー」

「甘くしてくれた?」

 いや、ひかえめにした。

「なんで静かなのか知ってるか」



 ――雪の降る音に耳をすましているんだよ。




 

 

 

 

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