表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/47

いただきます



「あ!」

「――どした?」

 わたしの声に反応した慎ちゃんが台所へ入って来た。

「刺されたぁ」

「ああ……。こりゃまた見事な」

 妙な感心をする彼と一気に不機嫌になったわたしの視線の先には、真っ赤にぷっくり膨れた吸血の跡。

「かぁゆぅいい!」

「待て待て」

 片手でわたしの手を掴みながら、もう一方は冷蔵庫からなにやら取り出した。

「ひゃ!」

 肩に近い二の腕に氷があてられる。小さな悲鳴に彼は笑いつつ、しばらく我慢しろとその場から離れた。

 冷たさのおかげで痒みは弱くなってきたけど、外から戻ってきたばかりの身体はまだ熱く、氷は見る間に溶けていく。

 途中だった残りの荷物を冷蔵庫へ押しこめ、ぶり返してくる前に二つ目の氷をあてた。

「虫刺され、氷、痒み止め。正しい夏の風物詩だな」

 エアコンが効き始めたリビングのソファに座り、呑気なことを言いながら手招きする人物に軽い殺意を覚えかけた。

 それを感じとった訳ではないだろうけど、隣に腰かけたわたしの腕を取って、タオルで水気を拭ってから薬を塗られた。

 ん〜。独特なスースー感。確かに夏が来たってカンジ。悔しいから口にはしないけど。

「慎ちゃんは腕出してたのに、ズルイ」

 一緒に出かけていた半袖シャツの彼は無傷で、Tシャツに日焼け防止のアームカバーをしてたわたしだけが刺されるなんて。

「男より女の子のが、柔らかくて刺しやすいんだろ」

 む。どうせ二の腕ぷにぷにしてますよ。

「痒くしないんだったら、分けてあげなくもないのに」

「いつの間にか吸われてんの? 気味悪いぞ、それ」

 それもそっか。

「なんかわたしばっか刺されてる気がする」

「旨そうなんだよ。モテるなぁ、美和」

「蚊にモテても嬉しくない!」

 そんな好評価、欲しくないし。

 と、立ち上がったはずが腕を引かれて。

「いただきます」

 慎ちゃんはそう言うとわたしの、蚊に刺されていないほうの二の腕に口づけてきた。

「やぁっ」

 ビックリしすぎて動けないわたしをいいことに、味わうように食まれたあと、強く吸いつかれる。 ――ちゅう。

「……結構なお味でした」

「バカっ!!」

 ニヤッと上目使いの慎ちゃんに、思いっきり罵声を浴びせ掛ける。当の本人は笑うばっかりでちっとも堪えた様子がない。

「ほら、旨そうだから」

「バカっバカっ、バカ!」

「男のことを虫に例えるのもわかるな」

 わかるか!

 側にあったクッションで叩いても意に介さない虫に苛立ちながら、明日は強力な虫避けスプレーを買ってきてやると誓った。

 ちなみに。

 虫刺されの痕は処置が早かったためかすぐに消えた。でも、小憎らしい虫がつけたほうの痕はなかなか消えなくて。おかげでしばらく袖の長い服しか着れなかった。




 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ