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おかえりなさい



 なにやらいつもと違う様子に気づいて声をかけたら。

「いきたくない」

 ソファーに長くなった彼は隅っこに顔を埋めた姿勢でそう宣言し、こちらには背中しか見せてくれない。ん? これはもしや。でもいちおうは確認を。

「具合わるい?」

 ぶんぶんと後頭部が揺れた。だよね。さっきご飯お代わりしたもんね。わたしの分の卵焼きまで食べたもんね。

「今日はいかない」

 弱々しい、ふて腐れた声で言うものだから。

「ふーん」

 彼に気づかれないよう必死に笑いをかみころした。

 とりあえず途中だった洗いものを再開させてみる。ゴロゴロしつつ時計を気にする背中を視界の端にいれながら片づけを済ませた。

 マジメな彼には珍しい、いわゆる出勤拒否。原因はおそらく最近ちょっとお疲れ気味なことと……今日はわたしの仕事が休みだから、かな。

 羽交いじめにしてるウサギの抱きまくらはわたしのお気に入りなんだけどなぁ。ぎゅうぎゅうされて、ウサギ苦しそう。

 ごくたまーに、彼は小さなストライキを起こす。

 それは普段ならしないこと。お菓子を大人買いしてみたり。脱いだ服を靴下から上着まで廊下にきれいに並べてみたり。遭遇するたび頭をかしげたくなる現象も、息抜きになってるならそれもアリかなと思ったり、思わなかったり。

 職場では「鬼」でとおしているらしい彼のこのぐだぐださ加減を、ほかのひとはきっと知らない。

「いいよ。休んでも。二度寝する? それか映画でもいく? あ、このまえ見つけたあのケーキ屋さん、いってみよっか」

 彼にとっては最強の誘惑をちらつかせたら案の定、唸り声が上がった。葛藤してるんだろなぁ。

 のそりと起きた彼はウサギをわたしへ預け、洗面所へ向かった。どうやら行くことにしたらしい。最初から本気でサボる気なんてないんだろうけど。

 ちょっとだけ残念だなんてワルいことを思う。正直なことを言えばわたしも彼と休日を過ごしたい。どこかへいかなくたって、このまま部屋でのんびりだっていい。

 ナデナデ。心なしかぐったりしたウサギを労りながらわたしもグチってみる。

 身支度を整えた彼はもうすっかり通常運転モード。この時点で時間はいつもどおり。きちんと計算してぐずってたあたり、らしいというか。

 彼のバツの悪そうな表情に自分が笑っていたと気づいて口もとを隠した。

 ウサギとお見送り。照れくさそうな横顔。うん。大丈夫そう。

「いってきます」

 それにはご褒美の“言葉”があるって知ってた? お迎えのときに言うから。だから。

「早く帰ってきてね」




 

 

 


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