第七話
海斗にはこの国──魔界の、王の資格があった。
そして、その資格は海斗しか持っていなかった。
全ては、父さんが後室の女性も取らずに、母さんと駆け落ち同然の事をしたのが原因。
また、魔界《この世界》の王族は世襲制のため、次期魔王はどうしても前魔王の血──父さんの血を受け継いだ男子でなければならなかった。
そんなこんなで、父さんが消えた時には、魔界は騒然としたらしい。
暴動とかは起こらなかったけど、王が居ないことで経済は混乱し、民は不安に苛まれた。
やはり、実際に王が君臨しているのといないのでは違うのだろう。
ましてや、父さんは基本的に良い君主だったらしい。必要以上に国民を威圧することなく。
──まぁ、魔界は皆の仲で非常に良いらしいから、暴君が生まれたことは無かったみたいだけれど。
「……」
「……ねー、海斗」
「ん?」
「魔界の住人って、皆が愛国心ハンパないんだよね?」
「? うん、そうらしいね」
「だったらさ…どうして父さんは日本に行こうと思ったのかな? 愛国心強いなら、自国から離れたくないと思うはずじゃない?」
「……」
「……」
「…そうだね……愛国心よりも、愛情の方が勝ったんじゃないかな?
日本は、人間界の人間たちみたいに魔界と対立していたわけではないし。 それに、周りも積極的には止めなかったみたいだから」
「…いやいやいや、そこは止めようよ当時の人たち!」
どうして誰も引き止めなかったのさ。
自国の王が駆け落ち(しかも周りはそれを容認)ってどう見ても異常だろう!
「それにね、そのことは国民にも広く知れ渡っていたらしいよ」
「……」
いや、だから止めろよ。
むしろ、王がいなくなったのに、王制廃止にならなかったのが不思議だよ…。
「…ちなみに、海斗は、どう思っているの?」
「うん…? 何が?」
「この国全体で駆け落ちに賛成したこと」
まぁ、もうここまでくると駆け落ちじゃないと思うけどね。
「良いと思うよ?」
「え、容認…!?」
「だって、それは個人の勝手だからね。 王とはいえ、自由まで制限されるのはどうかと思うよ」
「──…この国にも、身分制度とかあるの?
王制のところは、身分制度がある場合が多いよね」
「この国はないよ。
この国は、王であっても庶民であっても、身分に関係なく、好きな者と結ばれて良いことになってるんだよ。
…もちろん、相思相愛が大前提だけどね」
「良いところだね。
──ところでさ、私はどうすればいいの?」
「どうするって、僕と一緒に住むよね…?」
そう言って、海斗は端から見れば《・・・・・・》人好きの良い笑顔を浮かべた。
しかも微かに首を傾げるというオプション付きで。
…実際?
黒い笑顔だよ、威圧感半端ないよ!?
まさに魔王だよこの人ー!
「……うん。王宮に住むよ。でも、さすがに部屋は別で! …いや、そういう事じゃなくてね?」
「それ以外は好きにして良いよ。
いくらでも好きなものを買ってあげるし、何処にでも連れて行ってあげるよ。
もちろん、何か要望あったら遠慮せずに言って良いんだからね? それに──」
「ちょ、過保護…! さすがに甘やかしすぎだよ」
というか、こっちにきてからシスコンに磨きがかかってない?
「──そんなに何でもかんでもしてもらわなくて大丈夫だよ。 …もう私は働いているんだよ?」
「働いていたのは日本での話でしょ? それに、夏音はいつまでも僕の可愛い妹なんだから。 困ったことがあったら何でも言ってね?」
「そりゃあ、困ったことがあったら当然海斗に一番に頼るけどさー。
……どうせなら、私も働きたい!」
「どうして?」
「だって、せっかくの魔界だよ? 魔術が使えたらかっこいいじゃんか!」
本で読んでから、魔法使いって良いなーと思ってたんだよ。
まぁ、実際にそんなのあるわけないから、とっくに子供の頃にその夢は諦めてたんだけれど。
(あ、もちろん図書補もなれたときは嬉しかったよ? 中学生からの夢だったし、なにより本が好きだったからね)
──でも、魔術がある世界ならば、使いたいじゃないか!
「……ってことで、魔術を習いたいです!」
「あぁ、夏音の夢だったからね…魔法使いになるんだーって」
「私の名誉のために付け足しておくと、そんなこと言ってたのは昔の話ですけども。…そしてそれ黒歴史だから、今すぐ忘れようか?
──それに、海斗は竜なんでしょう? 竜と魔術師なんて、最強最高じゃんか!」
しかも双子!
タッグを組めば敵なしだと思うんだよ!!
……といった風な力説(必死の説得)をおよそ2時間続けた結果。
「───……くれぐれも、怪我はしないようにね?」
…なんと海斗が折れてくれました!
──やっと第一難関クリアです!




