第五話
今回は少し多めです。
後で改正するかも知れません。
そして、二日連続投稿です。
「……」
何が何だか分からなかったが、大人しく海斗の後に着いて行くと、一際大きな扉の前に着いた。
その扉の両面には、向かい合うように、金色でよく分からない生物が描かれていた。
全てが蛇のような鱗に囲まれていて、背中からは一対の大きな翼みたいなものが生えている。
翼は鱗に覆われてはいないが、翼の骨組みのようなものの先端には、牙のような棘が生えていた。
また、前足と後ろ足には鋭そうな爪もある。
…これだけで人を殺せそうだなー。
そして、その竜の周りは赤い炎に覆われていた。
──これと似たものを前にみたことがある。本の押し絵でだ。
あの本は、西洋の神話について書かれた本だった。書いてあった名前は、たしか──
「それは竜だよ」
夏音が立ち止まったことによって、彼女がこの絵に興味を示していると感じ取った海斗は、扉に一旦手をかけたものの、すぐに扉から離れると、夏音の隣に並んだ。
「…よく爬虫類の形で表される、東洋では龍や竜と呼ばれる空想上の生物。
一般的には暴力や悪の象徴とされ、人間から嫌われる。
ただし、良いものとして扱われる場合もあり、その場合は宝物や女性を護るとされる……だっけ」
「この竜はどちらでも無いけどね」
「…どちらでもない?」
「うん。別に暴れたりはしないよ。…妹に危害が加わらないならね」
「え、この竜妹いるんだ」
…ああいう強い生き物って、たしかあまり兄弟産まれないんじゃなかったっけ?
…でもここ地球じゃないし、それは常識じゃないのかも──
「──何をなさっていらっしゃるのですか、あなた達は」
「ひゃ…っ!?」
後ろから急にかけられた声に、思わず変な声が漏れた。
…最近後ろから声かけるのが流行ってるの?そうなの?
「夏音、その声かわいかったよ」
「嬉しくないから!」
…なんで海斗はそんな平然としているわけ。
「……もしかして、気付いてた?」
「うん、もちろん」
笑顔で言うな。
「──ゴホンっ」
「……あ、すみません」
「夏音が気にすることではないよ」
「お前はもっと気にしろよ」
何でそんなに楽しそうなの。
「そうだね、夏音がそう言うなら努力しようかな?
──まあ、とにかく今は入ろうか」
***
扉を開けると、そこには──
高級そうな生地で出来たお揃いの服装を着て、右手に剣を持った(剣は道の上で交差されてる。西洋の軍を思い出した)人達が、一本道を造るかのように向かい合わせで並んでいた。
そこから一歩ほど離れた彼らの後ろには、メイドさんらしい女性たちや、燕尾服の執事らしき男性達がきっちりと並んでいる。
「……え、何これ…?」
「──夏音、僕の後からついてきて」
海斗に小声で問うが返答は返ってこなかった。
かわりに、彼は私の耳元でそう囁くと、颯爽とその剣で造られた道を進んでいってしまった。
立ち止まっていても仕方がないので、海斗に言われたとおり、私もそれに続く。
実際、頭上に剣があるのは怖い。
いつ下ろされるかも分からないから、尚更だ。
まだ彼らが信用できればましなのだろうけれど、あいにく、私は海斗から何の説明もされていない。
だからこの状況の意味が分からない。
混乱する私とは反対に、海斗はこの剣の道を通り過ぎると、迷うことなく、中央にある玉座に座った。
私も剣の道をようやく抜け出して……『玉座』?
私はそこで思考停止した。
──あれは間違いなく、王様しか座れない豪華な椅子だよね。
ということは、海斗が王様なの?…え?
「──カノン様、前にお進み下さいませ」
「…………あ、はい」
ただし、前に進むと、間違いなく海斗にぶつかりますがよろしいですね?
「……」
「どうかしたの、夏音?」
「いや、どこにいれば良いのかと…」
言われたとおりに進んだ結果。
当然、座っている海斗の目の前で立ち止まらざるを得ないわけで。
「…ここにくれば?」
そう言って、彼は自分の膝を軽く叩いた。
「……あんたの膝の上に座れと?」
「うん。僕は構わないから」
「私が気にするんだけど!?」
この公衆の面前で、同い年の兄に抱えられろと? どんな羞恥プレイだ!
───抵抗したけれど、結局…
「もっと早く座れば良かったのに」
「その事実を突きつけるなーっ!」
……どうなったかって?
分かるでしょう、この発言聞いたら!
…言わせないでよ、ただでさえすごく恥ずかしいんだから!!
「赤面してる夏音も可愛いよ」
「…うっさい!」
だから逐一言わなくて良いから!
どうしてこうなったかって?
……。
兄の無言の笑顔と、周りの無言のプレッシャーに負けましたとも。
…味方はいたよ?
若いメイドさん達ね。
私が海斗の膝の上に座った後、彼女らのに、憐れみと同情と『諦めろ』って言いたげな視線を送られましたとも。
…あれ?これ味方じゃなくない?
……。
と、とりあえず!
そんなこんなだったけど、無事に継承式(海斗がこれだけ説明してくれた。何の継承式かは分からないけど)は幕を閉じたのだった。
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