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第四十八話



 しばらくそこでゴロゴロして過ごした夏音は、やがてむくりと起き上がった。

 くしゃりと乱れた髪を梳き、ドアの方を見る。

 そうしていると、やがてドアをノックする音が聞こえてきた。


「起きてるよー。海斗だよね」

「うん。…入るよ?」


 夏音は、扉の前に誰が居るのかを確認する前に入室の許可を出した。確認の問いかけというより、どちらかというと断定口調だったけど。

 それから聞こえてきた声は、想像したとおりの人物のものだった。


「どうぞどうぞ! 遠慮なくお入りください」


 ドアを開けて入ってきた海斗が着用しているパジャマは、黒一色のもの。

 寝るときに着るものだからだろう。王といえども昼間着用していたもののように堅苦しくも煌びやかでもなく、割とゆったりとしていて、着心地が重視されたデザインだった。

 そこまで分析して、ふと気がつく。


「……ん? それ、魔界から持ってきたやつ?」

「うん、そうだよ。夏音のものもだよね?」

「ご名答です」


 ちなみに、今日私が着ているのはパジャマだ。浴衣類は、全て魔界に置いてきた。

 今日のパジャマはピンク色の花柄。自分の身長よりも若干でかいので、生地がだぶついてる。

 …ほら。袖なんて、手のひらが隠れるくらいあるもの。


「そうそう。そういえば、何の用?」

「寝る前に、挨拶をしておこうかと思っただけだよ」

「座る?」


 ここに、とベッドを叩く夏音は、首を傾げてそう問うた。

 対する海斗は微苦笑を浮かべて、首を横に振った。


「今日は遠慮しておくよ」


 海斗はやんわりと断りをいれ、閉じられたドアの近くから動かない。

 こちらへ寄ってこないところを見ると、本当に寝る前の挨拶をしにきただけのようだ。

 …ゆっくりお話していけば良いのに、と思う。

 「今日は遠慮しておくよ」と言ったのだって、私が疲れただろうと思ったか、もしくは私の明日の体調を心配したんだろうし。


「…私は一向に構わないけど? だって海斗だし」


 海斗の意をくみ取って(何で分かるかって? 双子だからね、多少なら相手の考えることが分かるんだよ。だって、こういうときの海斗の考え方とか思考は、私と同じようなものだし)、こんなんで具合悪くならないから大丈夫だよ、と言外に伝えてみる。

 …何度も言うけど、そんなにヤワじゃあないんですよ。これを海斗に言ってもあまり効果ないだろうけど。海斗は心配症だからなあ…。


「でも、海斗にしたら居心地が悪いかもね」


 ここは魔界の王宮ではないから、事情を知らない者が多い。その人たちに、これを『男女の逢瀬』と勘違いされるかもしれない。

 入っていって十分ほどで出てくるのであればまだしも、語り合うのは極力避けるべきだろう。

 私たち双子のコミュニケーションは、一度開催されると大体において長引くものだから。


「……そうだね」


 同じ事を考えているであろう、海斗が苦笑を浮かべる。

 自覚があって、大変良いことだと思う。無自覚だったらどうしようかと一瞬考えたよ。

 私の貧相なボキャブラリーで、海斗なんかを納得させることができるのかなー、とか。


 …私としては海斗とたくさん話したいんだけど、今日や明日はそうも言ってられないだろうなぁ。

 先ほど述べた理由もあるけど、精神的な疲労が溜まっているだろう海斗に、夜中まで起きててもらうのはさすがに心苦しい。

 慣れるまでは常に気を張っていないといけないから疲れる、というのは魔界でも同じ条件だけど…。

 人間界と違うところは、魔界では強制的に休ませることができる、という点だ。

 魔界の住人たちは(恐らく)そういう事情を考慮してくれるだろうけど、ここではそうもいかないからね。



「海斗、何か相談あったらいつでも言ってね?」


 相談くらいならいつでも乗るから! 愚痴も聞くよ。海斗が人の悪口を言っているのはあまり聞かないけどね。

 …うんうん、やっぱり海斗は性格が良いんだよ! 人の悪口を言わないように心がけるというのは、人として誇れることだからね。これは持論だけど。


「ありがとう、夏音」

「これくらいおやすいご用だよ」


 海斗の嬉しげに微笑んだ表情に誘発され、夏音も笑顔で応えた。



「──じゃあ、おやすみ。いい夢を」

「good night! 海斗もね」




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