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第四十七話



「……疲れた」


 ぼそりと呟いた夏音は、ぐったりとベッドに倒れ込んだ。

 今まで、滞在中にお世話になる侍女の紹介、それと彼女らに簡単な身の回りの世話をされていて、心身ともに休む暇がなかった。主に精神的に疲れた。

 ようやく一人になれたために、気が抜けている。


 夏音は、ベッドに倒れ込んだ体制から仰向けになるためにだけ身体をもそりと動かした。


 ──それなりの階級の人たちには、プライベートがない。というのも、常に彼らは諜報されている場合が多いからだ。

 だから、彼らは『影の者』を置く。それは、スパイしかり個人所有の諜報部隊しかり。

 だから、彼らはいつでも己の言動に気を使う。公の発言はもちろん、私的なものでも細心の注意を払っている。

 ……よほどの大物でない限り。


 理由はおそらく、どこでどんな事をスクープされるか分からないからだ。

 それが意図しない方向にねじ曲げられることだってあるし、大体、スクープされることは都合の悪いことである事が多い。

 だから、相当な権力を持っているとか、後ろ盾がないとそんな発言はできない。

 自分の身に、いつ火の粉が降りかかるか分からないからだ。


 と、前に小説で読んだことを頭の中でボンヤリ思い出しつつ、夏音は呟いた。


「……スイーツ欲しい。アップルパイでもプリンでもケーキでもチョコレートでもバームクーヘンでも何でもいいから、食べたい」


 『独り言でさえも気をつけなければ』というのは、確かに貴族階級の常識かもしれない。

 けれど、夏音はそれほど気にしていなかった。

 …最初っから、聞かれて困ることなど口に出さないのだから。


「食べ物じゃなくても、ココアとかイチゴミルクとかコーヒー牛乳でもいいや」


 体が甘いものを求めているのだろう。無性に糖分が欲しい。

 今なら角砂糖でもいける気がする。氷砂糖は元々好きだから、そういう対象にはしないけど。


「そーいや、砂糖ってサトウキビから採れるんだっけ…」


 日本の中では沖縄、沖縄県といえば南国。…南国果実。


「パイナップルとマンゴーの盛り合わせ食べたい…。あれだって果糖を含んでいるから甘いはずっ」


 そういえば、この国に果物は無いのかな?


 あったらいいなぁ。

 林檎があるなら、アップルパイにして食べたい。そこに、卵で作ったカスタードをプラスできれば、なお良し。シナモンはあってもなくても良いかなー。

 蜜柑があるなら、ここは余計な手を加えずに冷凍みかんを食べたい。冷たくすると甘さはあまり感じないけど、その冷たさが気分リフレッシュに効果的だろうから。…マーマレードはオレンジだったかな?


「(まあ、どっちにしろこの世界には地球と同じものがないのが問題だよね…)」



『もどき』ならあるけど、と夏音は浅い溜め息を一つこぼした。

 それだと、どうもレシピ通りにはいかない気がする。


「……特にお菓子デザートづくりにおいては」


 煮物とかなら、多少分量を違えてもそんなに問題がないだろうけど、お菓子は違う。

 ほんの少しの分量の違いで失敗してしまうし、美味しくなくなる。


「……ものは試しと言うから、一度はしてみようかな…」


 そうと決まれば、魔界に帰ったら、一番簡単なクッキーを作ってみようか。

 魔界にない材料をエルに聞いて、それを明日の『視察』の時にでも買えばいい。

 そうして、魔界に帰ったら王宮の厨房を借りて、作ろう。

 それが良い、と自分の案に頷いた夏音は、これからのお菓子づくり計画に思いを馳せつつ、天井を見上げて笑みを浮かべた。


「……これから楽しくなりそうだねぇ」




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