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第四十五話




「──…夏音」

「……んぅ?」

「起きて、着いたよ」


 いつの間にか寝てしまっていたようだ。気が付いたら馬車は止まっていた。


 いつから夢の中だったのだろうかと首を傾げつつも、眠たい目を擦りながら背もたれから身体を起こして大きく伸びをする夏音。

 

「んーっ……あれ、早いね?」

「夏音は途中から寝ていたからね」


 海斗は、やや苦笑気味にそう返答した。


「いやー、馬車の揺れがちょうどよく眠りを誘ったといいますか…」


 ね、寝るつもりはさらっさら無かったんだけどなー。

 運転手…じゃなかった、御者さん?の腕が良すぎるんだよ。道路もそれなりに整備されてはいるんだろうけど、それにしても快適な移動時間だったな。

 相乗りは海斗だけだから、変に気を張らなくても良かったし。



 もうお城の敷地内であるということと、周りに部外者がいないことを確認して、馬車から降りる。

 なんでこんなに細心の注意を払うのかって? …だって、ここで一般人に顔を見られたら、明日の計画が台無しじゃないか!

 海斗がこちらに滞在している間、ずっとお城の中で過ごすだなんて嫌だよ?

 その国の街並みとか、風情溢れる風景をこの目で見るのが好きなんだからさ。

 …もちろん、散策しながらお店をみたり、食べ歩きをしたり、特産品をいただく方が断然好きだけどね!



「──それにしても、ここが王宮?」


 思ってたのと違う、と言外に述べると、海斗が肩をすくめた。


「どちらかというと宮殿って感じだよね」

「うん、たしかにそうだね」


 魔界の王宮みたいな『いかにもお城』を想像していたけど、それとは違った。

 魔界のお城は、ヨーロッパ城のようにひっそりと佇んで幻想的な雰囲気なのに対して、人間界のお城はなんというか……。


「煌びやかだねぇ」


 お城の一番上には、この国のシンボルである(らしい)鳥があって、日の光を受けて金色に輝いている。

 関心事ながら観察していると、お城の屋根?が金色だということに気付いた。見たところ、塗料みたいなものではないみたいだ。…うーん。あれは石で装飾されてるのかな? そんなに目がいいわけじゃないから、そこまでは特定できない。

 もしかしたら、金色じゃなくて黄色やオレンジなのかもしれないけど、太陽の光のおかげでよく分からなかった。

 イメージとしては、石油国の宮殿かな…。


「あ!」


 いかにも『重大なことに気が付きました』な表情と声音で、夏音はそう声を発した。

 海斗はそのことに若干驚きつつも(まさか、妹が急に奇声を発するとは想像しないだろう)、夏音へと「どうかしたの?」と訊ねた。


「た、太陽が一つしかないよ!?」

「……あぁ、言われてみればそうだね」

「なんでそんなに反応薄いの!?」

「地球では一つなのが普通だったからね。僕からしてみれば、そんなに驚く事じゃないよ。

 …それに、僕はこちらにきてからのほとんどの時間を執務室で過ごしていたから、そんなに外に目を向ける機会というものが無かったしね。…現に、今も夏音に指摘されるまで気が付かなかったよ」

「! …執務だったね、そうだったね。(私は、毎日王宮と王宮図書館を行ったり来たりの生活を過ごしてエンジョイしてたけど、海斗は……)」


 シュン、とうなだれた夏音に、海斗は微苦笑を向けた。


「夏音が反省する事じゃないし、罪悪感を感じる必要性もないよ。…僕自身がそうと決めてしていることなんだから、全然気にしなくて良いんだよ。

 それに、今のはそういう意味で言ったわけではないからね…?」

「………う、ん」


 海斗は、そんな夏音に優しげな表情で微笑みかける。そして、ポンポンと軽めに頭を撫でた。

 それをされた夏音は下げていた眉尻を幽かに上げ、少しの間口を閉じていたが、その後にほとんど息継ぎなしで言葉を発し始めた。


「…明日、何か欲しいものあったら買ってくるよ? 食べ物でも飲み物でも、或いは小物でも洋服でも筆記用具でもお菓子でも……何でも良いんだよ? 何かない?」



 あ、ちなみに、こういうときのお金は海斗から事前に貰ってある。

 この数日間の『王宮図書館図書補』として働いた分のお給料という名目で。

 お給料はたった数日分だけだというのに、それでも十分に遊びを楽しめる金額だった。

 …これを封筒に入れられたままで受け取ったとき、王族贔屓や職権乱用ではないかと海斗に詰め寄るくらいには。

 そんなことを海斗がするわけないとは分かっていたけれど、それでも確認せずにはいられなかったのだった。


 案の定、そうではなかったから良かったけど。

 海斗の説明によれば、これは、普通なら常勤十人は必要な王宮図書館を、たった一人であそこまで(エルから報告を受けたらしい。いつの間に…)綺麗にできたということで、あとの九人分(図書員ではなく図書補で換算)の給料も含まれているらしかった。

 さすがに多すぎたから、半分は返したけど。

 ……いやー。私としては一人分の給料で良かったから、そう主張したんだけどねぇ。その旨を伝えたら、海斗が「正当な金額を受け取るべきだよ」って言ってきて。

 …久しぶりにちょっとした口論になりましたよ、えぇ。

 結局、双方の妥協案ということで、口論を見かねたエルからそう提案されまして。


 これじゃあ埒明かないし、いつまでたってもご飯にありつけないし、私たち二人を夕食だと呼びに来たエルは用件を伝えられなくて待ちぼうけを食らうし、双子の兄妹喧嘩に巻き込まれたエルは被害を被りそうになるし───その他諸々の理由により、お互いに、エル発案の妥協案を渋々ながら了承したのでした。



「夏音、僕のことは気にしなくて良いからね。夏音が楽しんできてくれれば、それで良いよ」

「…今更だけど、海斗は、私にすごく甘いよ。自覚ある?」

「そうかな? 兄妹の仲がいいのは良いことだよ」

「次元が違う! っていうか、海斗こそ息抜きが必要だよ。私に執務ができれば、半分肩代わりするのに…っ! ……ただ、やたらとスローテンポだろうから、そこんとこはよろしくお願いしますけど」

「そんなの気にしなくて良いって。だから、僕は、夏音が嬉しそうならそれで良いよ?」

「……じゃあ休息を取ってください。そうすれば私は嬉しいからね!?」


 ──『喧嘩するほど仲がいい』。

 この兄妹喧嘩を遠巻きに見ていた魔界の人たちは、微笑ましげに二人を見ているのでした。




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