第四十三話
「腰が痛いー…」
ずっと中腰で作業をしていたからかな、と呟きながら、とほとぼと隣を歩く夏音に、エルは肩をすくめた。
落ち込んでいる原因はさっき聞いた。なんでも、魔力の暴走らしい。
「…でも、魔術が使えて良かったじゃない。…言っておくけど、私だって初めての魔術は詠唱が必要よ?」
「……慰めてくれてありがとう、エル」
恐らく、今の夏音には何を言っても意味がないだろう。それほどに沈んで、落ち込んでしまっている。
慰めるのが得意ではないと自負するエルは、やや困ったような表情で隣に並んで歩くだけだ。
「…まさか、力の制御ができないだなんて」
しょげる夏音は、またため息を一つ吐いた。
──あの突風は、魔術のせいだった。
エルが迎えに来たときに、念のためにその持論を確認すると、あっさりと肯定された。
魔術が使える、と嬉しくなった夏音は、先ほどの魔術を披露したのだった。
……制御を満足に出来ていないのも忘れて。
その結果、やはり暴風が発生した。
慌てて消去したから大事には至らなかったものの、エルから『根本的に、魔術の制御が出来ていない』と言われてしまったのだった。
「(……ああ、私は魔術師に向いていないのかもしれない)」
この疑問は口には出さない。
もし肯定されてしまったらどうなるか、自分でもよく分かっているからだった。
「(海斗を少しくらい助けてあげたかったんだけどなぁ…)」
「………あの、カノン?」
エルは、どんよりとした夏音へと遠慮がちに声をかけた。
「……あぁ、うん。なに?」
その声に反応した夏音は、顔を上げてエルを見つめた。
エルは少しの間逡巡していたが、ややあってから口を開いた。
「気休めにしかならないかもしれないんだけど…」
「うん」
「魔術の制御ができないのは魔力量が多いからなのよ」
「……うん? え、そうなの?」
驚いた夏音は、思わずエルに詰め寄った。
「えぇ、そうよ」
エルの様子から、嘘を付いている訳ではないと判断した夏音は、恐る恐る訊ねた。
「……あのさ、エルもこういうことあった?」
「小さい頃はね。…こちらに来て、ちゃんとした指導を受けるようになってからはないけれど……っ?」
途中で言葉が途切れるエル。
その原因は、喋っている途中で抱きついてきた夏音だ。
「ほんと、エルに相談して良かった!」
「……そう?」
「うんうん! じゃなかったら今頃鬱になってた」
夏音は、心底嬉しげにそう返事を返す。断じて嘘は言っていないよ、うん。
ご機嫌な夏音に(原因がよく分からず)困惑していたエルだが、それらの言葉を聞いて少しは納得したようだった。
「だからありがとうねー」
「…どういたしまして、で良いの…?」
「うん」
自信なさげにエルは夏音に問うた。
その質問に夏音は小さく頷くと、ふと何かを思い出したようにエルから離れた。
「エールー、もうすぐご飯の時間だよ」
正確な時間は把握していないけど、おそらくもうすぐだろう。
このお腹の減り具合からしたら、ね。




