第三十三話
「むぐむぐ…、かいとあのさ」
「食べ終わってから喋ろうか、夏音。行儀が悪いよ」
「……ん。食べた。…不快な思いさせてすみませんでした」
「今はまだ良いけど、周りに他の人がいる場合は絶対にしないこと。それと、今度からは気をつけるようにね」
「はい…」
夏音は、怒られて肩を落とした。
そして、怒られないように次からはしないようにしよう、と決意をしたのだった。
海斗から怒られるのは嫌いだからねぇ…。
…ちなみに、海斗以外から怒られたことはない。その役目を果たすべき親はいないし、その代役になってくれる大人は周りにいなかった。
母方の親戚がそこまで親身に接してくれた記憶はないから、それも当然なのかもしれないが。
まぁ…公共の場で平気で場所取りをするとかの行為──周りの迷惑を考えないで行動する奴らから立ち振る舞いを教えられても、絶対に無視をするだろうけど。
そんな、おかしな自信を持つ夏音の内心を知ってか知らずか、とっくに食事を終えていた海斗が「食べないの?」と聞いてきた。
「食べるっ…!」
「……じゃあ、これから説明を再開しようと思うんだけど…食べながら聞いてくれるかな?」
「りょーかい」
フォークで柔らかい温野菜を口に運びながら、夏音は言葉少なく了解の意を示した。
『食べながら』ということは、無理に喋らなくて良いということだ。
「──視察というのは名目上で、実際は観光してもらおうかと思ってるんだ。
…ああ、そんなに気負いしなくて良いよ。いっそのこと観光名所見物だと思って、楽しめばいい」
「……海斗は?」
「僕は行けないよ。外交を円滑に進めるための会議に出なければいけないからね」
「……」
もしかして(方向音痴なのに)異界の地を一人で巡ることになるのか、と心細くなった夏音が無言で見上げる。
「心配しなくて良いよ。付き添いとして、エル・チェンバレンが一緒だからね」
「! エルが?」
彼女がいるなら安心だね!と安堵する夏音。
しかし海斗は肩をすくめて、そうでもないよ、と言葉を続けた。
「彼女がいるから、安全面は保証されているけど…。地図がないから、地理的には安心できないんだよ。彼女はそんなに方向音痴でないと思うんだけど…」
「地図ならあるよ。王宮図書館に」
「…………え?」
さもありなんといった体でそう言う夏音に対して、海斗は珍しく虚を突かれたようで、しばし言葉を失っていた。
その間に、夏音が話す。
「人間に関しての書物は全部で1213冊あったんだけど、その中にたしか地理についての本も何冊かあったよ。…中身は見ていないから何とも言えないけど。今日の午後から図書館行くつもりだったから、確認してこようか?」
「…うん、そうだね。よろしく」
「はーい」
海斗は、まさか人間の世界の地図が存在するとは思っていなかったようだ。
「王宮内には書物はない?」
「…あるにはあるけど…政治に関することくらいしかないな」
「へぇ、そうなんだ(私、政治経済も苦手だったなぁ…)
──…あ! 海斗に質問があったんだった」
「ん? 何かな?」
「海斗もこっちの言葉読めるだろうけど、どうして?」
「……たしかに、言われてみればそうだね。明らかに、日本語でも英語でもないよね」
「なのに読めるっていう不思議。…何でか知らん?」
「残念ながら分からないな…。ごめんね、疑問に答えられなくて」
「いーえ、全然。そうだねぇ、こっちでも色々調べてみる!」
「そうしてくれると嬉しいな」
「他にも調べてほしいことあったら言ってねー。図書館内は綺麗にできた(と思う)から色々探しやすいし、調べ物もできる環境にしておいたから!」
だから海斗は執務に専念してください。あ、でも、体調は崩さないように!




