第二十九話
翌朝。
手で計ってみたところ熱も下がっていた。念のために鏡を見てみたら、顔色も良くなっていた。
昨日のおかしなテンションはなりを潜め、寝過ぎて体がだるいのと夕食を食べずに寝ていたからお腹が空いているってこと以外は、体調も良好だ。
それを確認してから、朝食にありつくべく支度を始めようと動き出す。
「(昨日、お粥でもいいから食べとくんだったなぁ…。あぁ、お腹すいたー)」
そんなことを思いつつ、目の前の鏡を見ながら簡単に髪を梳く。
本格的なセットはあとで使用人さんがしてくれるから、今は必要最低限で。
それから、ベッドを適当に整えて(後で使用人さんがきちんとしてくれるけど)、部屋にある洗面所で顔を洗って頭を覚醒させる。
それから、素朴そうなドレスを一着選ぶ。
あ、今日のドレスは、全体的には落ち着いた感じの色合いのやつ。
上にいくにつれてべっこう飴色が薄くなって、最後はベージュみたいな色になるグラデーション。
衣装部屋の奥にある、無駄に煌びやかなドレスは、国を挙げて盛大に祝う式典で着用するためのものらしい。
ぶっちゃけ国費の無駄だと思う、と、ここに入った初日に海斗に訴えたら、どうやらこれらの何割かは前王妃とかその前の代の王妃のやつらしい。
大きさが合わないだとか、そういう理由がある以外は引き継がれる物だとか。
ってことは、母や祖母、曾祖母とかのものもあるわけか。
少ないながら、お母さんの形見は地球にもあるけど、これはこれで、思い的な意味で重みがある気がする。
今度、母が気に入っていたドレスがどれだか聞いてみよう。
「はい、かんせー!」
どうにか一人で着れた。頑張った。
ビシッと両手を上げてそう宣言した(いわゆる器械体操の着地ポーズ)夏音は、そのままの体制で少しの間固まり、それからきょとんとした表情で時計を確認した。
時刻は七時半。
普段なら、とっくに朝食を食べている時間だ。
けれども今日は、誰も起こしに来ない。
「んー……?」
どうしたのだろうかと首を傾げる夏音。
「…あぁ、昨日倒れたからかな?」
思い当たる節が無くもない。
うーん、そんなに重症じゃないんだけどな。
でも、昨日迎えに来てくれたエルが異様に心配してたなぁ。
魔界にはウイルスがいないかな?
そうだとしたら風邪なんてかかるわけないから、熱でさえも未知の症状ってことになるのか…。
「(あれ? でも、海斗はこれが知恵熱で心配いらないって知ってるんだから、こんな手厚い保護しなくても…)」
私はか弱いお姫様か。
「……あー…」
そういやぁ、過保護だったっけ。
海斗は、甘えとか我が儘は許さないけど、病気や怪我となると途端にけっこう心配性になるんだよなぁ…。
私はそんなに脆くないっての。
「(むしろ海斗の方が心配なんだけどね、私としては)」
ここに来てから、彼はほとんど休みらしい休みをとっていないように思う。
それが王の役目だと言われればそれまでなんだけどさ…。
でも、受験勉強を入れたとしても、今まであんなに目まぐるしく活動したことなんてなかっただろうし、あまつさえ、ここにくる前は退院間近だったとはいえ入院していたのだ。
体力が衰えていないかも心配だし、そもそもこの環境に適応出来ているのか…。
表面上はなんて事無いように振る舞ってるけど、無理をしているのかもしれない…──
「(とはいえ、休めって言ったって素直に休息を取ってくれるとは思えないしなぁ)」
結局どうすれば良いのだろうかと考えを巡らせていた夏音は、小さく唸ってベッドに倒れ込んだ。
「……むぅ」
そうして寝ころびながら、やっぱり私は考えるのが苦手だ、と再確認した夏音だった。




