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第二十八話


「うぅー…」


 上質なベッドに横たわり、低く唸っているのは一人の美少女だった。

 片腕を額の上に乗っけ、もう一方の腕を無造作にシーツの上に投げ出した彼女は、時折ごろんと体の向きをかえる以外で自発的に動く気配はなかった。


「……」


 不意に、それまでずっと閉じていた瞼が微かにひらく。

 腕をどかしていないから視界は暗いままなのだが、それでも彼女の視線は扉へと向かっていた。


 ──その視線が扉へと向かうとほぼ同時に、視線の先の扉が開いた。


 そこから入ってきたのは、一人の男性。

 彼は、部屋に入ったと同時にベッドへと視線を向け、驚きに目を見開いた。


「夏音、どうしたの?」


 横たわる妹へと歩み寄りつつ、そう問う。


「……あたまいたい」


 海斗の顔を見るために腕をどけてから返答を返した夏音。

 その答えに、海斗は首を傾げた。


「風邪…ではないよね?」

「……。いっぱい考えたからね、きょう」


 どう答えようかと逡巡しゅんじゅんした夏音は、やや間をあけてからそう答えた。


「ああ、なるほどね…」


 要するに、知恵熱か。


 風邪でないと分かって、ほっとしたように肩の力を抜いた兄を、夏音は複雑そうな瞳で見上げた。


「(……なんせ、エルが迎えに来るまで罠のことずっと考えてたからねー)」



 自分でもこれは知恵熱だと思っているし、それを、あんな短い言葉から読み取った兄はすごいと思う。

 ……思うけどさ。

 そんなに普段頭を使ってないと思われてるのかと思うと、複雑だよ…。


 それとなく知らせようと意図的にぼかした回答だったが、それでも彼には十分な答えとなるらしい。

 海斗の頭の回転力が欲しい、と心の中で呟いた夏音は、恨めしげに彼を見つめた。


 双子なのに、こんなにも違う。

 記憶力、頭の回転速度、運動神経、学校の成績、協調性、皆を引っ張っていくカリスマ性──数え上げたらキリがないけれど、ほとんど彼の方が上。

 それを妬む気持ちはないし、どちらかと言えば、そんな海斗が身近な存在で良かったと思う、安心する気持ちの方が強い。



 ──小さい頃に、彼に訊ねたことがある。

 どうして、双子なのにこんなにも違うのかと。


 …そのころは、親戚の子供たちから精神的な総攻撃を食らっていて(ほとんどが海斗の気を引けないことによる八つ当たりだった)、まともに思考整理ができる状況ではなかった。

 まぁ、そんな言い訳はさておき。


 ──そう聞いた私に、幼い兄は困ったように微笑んだ。

 結局、答えは貰えずじまいだった。…あんな泣きそうな顔されたら、引き下がるしかないよ、うん。


 ちなみに、それから自分で考えて、導き出した答えは「補い合えばいい」だった。

 …双子だとしても、二人は別の人間なのだから、違うのは当たり前だ。

 ぶっちゃけ、私はほとんどが平均以下だけど、速読術と本に関しての記憶力には自信がある。

 (ここまで必死に考えて、頭痛がしてきた私は、難しく考えるのを放棄した)


 その結果。

 それだけ極めよう、そうしよう!と決意することとなった。

 いささか短絡的な考え方だとは思うが、後悔はしていない。

 もう、こうなったら開き直りしかないのだ。劣等感を抱いて生きていくのは嫌だし、兄と比べて卑屈になっていくのも、なんだか負けた気がするから却下。



「(…ともかく、けっかオーライで!)」


 ──色々考えるのが面倒になった夏音は、自分でも何を言いたいのか分からない思考を中断させた。

 

「(そもそもこれ、思考整理してるんじゃなく、混乱させてるの間違いじゃないかと…)」


 それに、何でこんなにシリアスムードになったのかが謎なのですが。

 思考力鈍ってんのかな?


「…うぇーい」

「………急にどうしたの? 夏音」


 傍らで看病してくれていた海斗が、急に脈絡のない言葉を発した私を本気で心配したのは、ここだけの秘密だ。




「…夏音、本当に大丈夫? 医者を呼ぼうか?」

「いえ、本当に大丈夫ですっ (てか、魔界って医者居んの?)」



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