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第二十三話


下記の彼の口調を大幅に変更しました。

読者の皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、ご理解いただけると嬉しいです。



「……」


 『王宮近衛隊隊長室おうきゅうこのえたいたいちょうしつ』と書かれたプレートが提げられている、木製のドアの前で、エルはたたずんでいた。

 彼女は、しばらく前からずっとここで立っているものの、一向に中に入ろうとはしない。


 ──とはいえ、ずっとこうしているわけにもいかないわけで。


「……失礼します」


 仕方がなしに来ているんだという気持ちを一切隠さず──隠す気が無いのだけれども──エルはドアを開けて中に足を踏み入れつつ、そう発した。



「エル、久しぶりだな!」


 自分エルの姿を認めるが早いか、嬉しげな表情で走り寄ってくる彼。


「ええ、久しぶり」


 それにエルは素っ気なく対応する。


「相変わらずつれないなぁ」


「そんなのいつものことじゃない」


 そうして苦笑をこぼす彼に、いい加減にしろとでも言わんばかりの、呆れた視線を投げかけるエル。

 


「──ていうか。それより、用件は何よ? …じゃれつきたいがためにわざわざ私を呼び出すなんて、そんな馬鹿げた事しないでしょう? ──王宮近衛隊隊長さん」


「…もし、その『馬鹿げた事』を考えていると言ったらどうするんだ?」


「今すぐここで死にたいのなら構わないわよ?」


「……(うわ、容赦ねぇ)」


「そんなことより、肝心の用件は? 私だって暇じゃないのよ」


「はいはい。──じゃあ本題に入るとするか。

 エルが、王女様と親しいって本当か?」


「王女様? …あぁ、カノンのこと?」


「そんなに考えることかよ。しかも呼び捨てってな…」


 ゼノムに驚かれてしまった。それも当然だ。身分云々は別として、今は、城の内外老若男女問わず、新しく即位した王様王女様の話で持ちきりなのだから、そんなに考えなくても普通は王女様という単語でカノンへと結び付く。

 もっとも、エルとしては、普段のカノンの言動から、彼女が王女様であるということを忘れていただけなのだが。


「…友達、だから」


 仮にも上の身分である王女様を呼び捨てにするという暴挙に目をむく彼に、エルは照れたようにそう告げた。

 ──友達。今まで口にしたことのない言葉だ。自分で言った言葉を噛み締める。

 嬉しげなエルに、ゼノムは優しい表情で微笑んだ。


「良かったな」


「…そ、それより! カノンがどうかしたの?」


 温かい目に耐えられなくなったエルが、強引に話を戻す。

 ゼノムも深追いせずに、本題へと入った。


「ん? あぁ。実は…今度、人間との対談があるんだ。

 即位早々、王様は大変だろうけど…まあ、人間と争いを起こさないためにも、早めの方が良いだろうって判断だ。王様もそれに同意していたから、そこは問題ないんだがな」


「たしかに、そろそろ話し合いをしないと大変かもしれないわね。…なにしろ、前王様が退位してから十年以上も経っているのから」


 十年以上も話し合いがされていないのに、人間たちと戦争をせずにすんでいること自体あり得ないのだけれど。


「そういえばそうだな。そうか、もうそんなに経ってんのか。

 ──それで、その対談をするにあたって、護衛をするように仰せつかったんだ。

 そこで、あんまり大人数だと、いざこざの原因にもなりかねないってことで、王宮近衛隊からは、精鋭を約十名ほどを出すようにと言われたんが……。

 近衛隊は野郎ばかりで王女様の話相手は務まらないから、女魔術師も編成に加えたらどうかって案が出てな」


「は? え、カノンも行くというの? 彼女は王女様よ? 人間界に行くのは、魔王様だけで十分な筈じゃ…」


「それが……王様が『ここにきてまだ日が浅い夏音を一人にしておくのは心配だ』と言って。気持ちは分かるから、止めなかったけどな。

 それに周りも同調して、『それなら、ついでに人間界を視察してくればいい』と言い出す奴も出てきて…。

 ──会議はとりあえず収束したんだけど」


「……」


 なんで敵国に行くというのに、そんなに能天気なのか。


「……経緯は分かったわ。たしかにあの魔王様のカノンへの溺愛っぷりからしたら、そう言うのも不思議ではないわね。

 …兄妹二人だけ、というのも心細いだろうし。しかも、ここは異郷の地どころか、彼女たちにとっては異世界……。つくづく、魔界が良い人ばかりで良かったと思うわ」


 人間界の住人たちは、そんな心境を配慮しなそうだから。主に上層部とかが。


「ちなみに、する事といえばお菓子屋巡りとかだな。ぶっちゃけ、視察っていうより観光だ。

 王女様なら、少なくともまだ顔はばれてないはずだから、のんびりと観光できるだろうし。それに、彼女は人間と同じような容姿をしているから、紛れ込むのは容易いだろうからな。

 …王様も、『妹は政治とか策略には向いていない』とはっきり言っていた。おそらく、王様が対談してる間は、彼女は視察という名の観光をすることになるんだろう」


「……護衛や観光に付き合うのは別に構わないけど、カノンは私たちと一緒に馬車に乗って人間界に行くのでしょう? それだと、人間たちに敵だと公言しているようなものよ?」


「馬車は、当然外からは見えないようになっているし、降りるときもその対処はする。もちろん、観光中に護衛となる魔導師にもな。

 もし、対談が延長になって宿泊することになった時は、王様は人間の城に泊まることになってる。王女様は王様と同じ部屋に宿泊してもらうつもりだ。

 ……この時は、王様の関係者として顔が知れてしまうかもしれないから、もしかしたら視察は初日だけになってしまうかもしれないんだけど」


「視察っていうか…やってることは観光だけれどね。

 ちなみに、魔導師は私だけ?」


「ああ。あんまり知らない人ばかりでも精神的につらいだろうから、そこは配慮した」


「分かったわ。…不明な点があったら後々また聞きにくるわね」


「そうしてくれると助かる。

 この話はべつに秘密ってわけじゃないから他の人に話してもらっても構わないが、まだ確定事項ではないからそのつもりでな」


「了解」



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