第二十一話
「ゴホッ! …うー、埃が多いなぁ…」
図書館の内部は、やはり長い間使われてなかったのか、扉を開けた瞬間に埃が舞っていた。
昼間だというのに図書館の中があまり明るくないのは、窓が蔦に覆われているために内部に陽の光が届かないからだろう。
「本棚に並べられている本も埃被ってるし、出されっぱなしで棚に戻されてないのとか、開きっぱなしで放置それてるのすらあるし…」
中は、普通の図書館と同じ感じだった。意外。もっとおかしなもの──それこそ、空飛ぶ本とかかと思っていたけれど。
一般的な日本の図書館と比べて、大きさは桁外れだし、歴史を感じさせるのはなおさらそうだけれどもね。
──まあ、分析はさておいて…。
「Let's 王宮図書館大改革!!」
その一、『まずは図書館内を探検してみよう!』
「これは、昼間じゃないとできないからねぇー…」
海斗から聞いたところによると、どうやら電気がないらしいので。
…いや、語弊があるかな。
正確にいうと、魔術師の方々が発電をしてくれているらしく(魔術師ってなんでもありなのか…?)、電気には困っていないらしいけれど、ここ──王宮図書館には、電球やシャンデリアはおろか、電気が通ってすらいない。
原因は、そんなものいらないから。
──いや、たしかにさ、魔術師なら火とか灯せるだろうし、書物を読むのには何一つ不便ないと思うよ?
でもさ、一般の人たちはそんなの……って思うでしょう? いや、できるんだよね、それが。
魔界の住人なら、子供であろうと生活に必要最低限の魔術くらいは習うらしい。
──例えば、火系統の魔術なら、釜戸の薪に火をつけることができるくらい。自然系統のものなら、食べれる植物とか薬草の育ちを良くしたり、成長を早めるくらい。
魔力の保有量によって多少の違いはあるものの、最低でもこのラインは五歳の子供でもできるらしい。というか、習わされるらしい。
あ、魔術には得意不得意はあるらしいけれど、得手不得手はないらしいよ。
どういうことかって言うと……えっと、本人の気質とか好みによって、好きな魔術の系統は違うらしい。あとは、生まれた家系のしている仕事によっても差がある。
…けれども、『絶対に使えないという魔術の系統はない』と。魔力保有量によって、どのくらいの規模の魔術が放てるかは異なるけれどね。
それでも、魔力を持っていれば、さっき言った必要最低限の魔術は誰でも使えるんだってさ。
……いや、正直いうと私さ、複雑すぎてよく分かんないんだよね、魔術師とかこの世界について。
さっき述べたのはエルから道すがらに教えてもらったことだけど、自分でまとめたらこうなった! エルはもっと説明がうまかったような…?
…でも、まぁ、そこは追々その場面に遭遇したら理解できるだろうってことで! 細かいことは気にしないー!
「あ! できれば内部の見取り図でも書こうかな……っと。これ借りよう!」
キョロキョロと辺りを見回していると、メモ帳と鉛筆を発見した。すぐさまそれらを手にとって、内部を歩き回ることにする。
「……にしても、この紙、和紙っぽい手触りだなー。 …なんか和む。さすが日本の和の心。素晴らしい日本の伝統を受け継いでる人たち尊敬するよ…──あ、ここは自習室かな」
さらさらっと日本語で書き留めておく。…魔界の言葉知らないからねー。
「──ここは本ばっかりだから、書架っと。 …にしても、私の働いていた図書館よりたくさんの本があるー!」
テンションあがる。本の虫には堪らないよね、この空間!
「──っと、こんなことしてる場合じゃなかった。
ええっと、つーぎーは…っと。あ、ここも自習室だ。さっきよりは小さいけど」
ここ、自習室がやたらと多いね。
多分だけれど、魔術師が主に使うって言ってたし、魔導書をここで読んだりするのに使えるようにだろうな。
「魔界の図書館初体験ー!」
やっぱり、どこか日本の図書館とは纏ってる空気が違うというか…。比較対象が日本の図書館しかないから、なんとも言えないのだけれども。
「(こんなことなら、他の国の図書館にも足を運んでみるべきだったなー……)」
日本語以外が満足に出来ない私が行っても、置いてある本が読めないから意味がないんだけれども。
「……どうせなら、畳の部屋を作りたいなー」
全部、床は大理石なんだもん。これじゃあ冬は冷えるよ。冷え症の私には大敵だよ。特に女性の冷え症が多いって聞いた事があるし、魔術師のお嬢さま方にはつらそうだなー。
いくら火の魔術が使えるとはいえ、冬に大理石はきついものがあると思うよ。床暖房がついているわけでもなし。
それに、畳ってどこか和むし。日本人だからかも知れないけれどさ。あ、それに、畳なら寝っ転がれるし、リラックス効果もあるはず!
…寝っ転がりながらの読書はみっともないって意見もありそうだけれど、こういう風に読書離れしてる人たちには、まず親しみをもってもらうことから始めないとだよね! さっきの自習室みたいなのは厳格そうだし、気軽に利用が出来ない雰囲気だと感じる人がいるかも知れないし。
それにほら! 日本でも、畳とは限らないけれど、子供たちが寝っ転がったり遊んだりできるスペースが設けられている図書館だって少なくないし。…さすがに、おもちゃはいらないだろうけれどね、ここには。
──まずは利用してもらうことから始めなければ!
「本があるのに使われないのはもったいないし。 …もったいないおばけが出るぞー」
ここは魔界だから、似た類のがいてもおかしくはないけれど。
「畳はどの部屋が良いかな? 畳の下が石だと、通気性が悪くて畳が腐っちゃいそうだけど、かといって、そうじゃない空間は無さそうだし…。
あ! いっそのこと、簀の子でも敷いて、その上に畳を乗っけるか…? あー、でも、それだと人数制限とか体重制限かけないといけなくなりそう」
そーいや、根本的に、こっちの世界に畳があるとは思えないんだけれど、そこはどうしようか。
うーん、畳の作り方の本なんて読んだことないし…。(読んだとしても全部覚えているわけではないけれど)
「(海斗に聞いてみれば分かるかな…?)」
日本生まれ日本育ちだからって、日本の文化を全て知っているわけではないし、理解しているとも限らないけれども。
「っていうか、畳ってなにで出来てるのかな? …いぐさだっけ?」
あ、畳があれば、柔道とか茶道とか生け花とか出来そうだね。
柔道は教えられないけれど、華道なら体験したことあるし、茶道は高校の時に茶道部に入っていたから教えるくらいはできるはず! …道具がないから、実質は何もできないけれども。
「──お、丸い部屋発見っ」
他の部屋みたいに四角くない。えっと、形的にはかまくらの中みたいな感じかな。そして、入って正面に見えるものは、
「暖炉だぁー!」
側には火掻き棒のようなものまであった。もちろん、埃被ってるけど。
暖炉の中を覗いてみると、何かが燃やされた後の灰が入っていた。なんの燃えかすだか気になり、火掻き棒でつんつんと突っついてみる。すると、灰は案外柔らかくて、なんの抵抗もなく埋もれていった。
「(灰やわらかー。そんでもって、火掻き棒軽いな)」
地球では、火掻き棒って鉄じゃなかったっけ? さすが魔界。熱伝導しにくく、なおかつ鉄より軽い物質で火掻き棒を作るなんて、やるな!
──ボーン、ボーン…
「うん?」
また、あの時計の音が聞こえてきた。数はきっちり十。
「……十時ってことかな?」
おやつの時間じゃないか! お団子もしくはケーキが食べたい気分だなー、なんて。別になければないで構わないけれど。
「大福があったくらいだし、お団子もありそうだけれど」
ケーキで作れるのなんて、シフォンケーキとパウンドケーキと一般的なケーキの生地くらいだよ。モンブランとかタルトとかアップルパイとかガトーショコラとか…難しいのは不可。無理、できないです。
「とりあえず、この部屋で最後、かな…?」
もう一回見回ってみたけれど、どこも地図に記したところばかりだった。ってことは…
「──これで図書館の見取り図、完成です!」




