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第二十話



 ──王宮図書館の扉の前にて。



「ようやく着いたー! ありがと、エルっ」


 満面の笑みで感謝の意を告げ、『じゃあねー』と手を振る夏音に反して、手を振られたエルは渋面だ。



「……本当に、ひとりで大丈夫なの?」


「うん、大丈夫。

 …でも、帰りは迎えに来てほしいな。まだ、ひとりで帰れる自信がないから」


「それは当然よ。

 一回やそこら往復しただけで道を覚えられるほど、ここまでの道のりは単純じゃないもの」


「…………うん。

 (私の場合、1ヶ月たっても覚えられないと思うんだけど…これは言わない方がいいよね)」


 言ったときの反応が目に見えているもん。


「──っていうか、エル! 早く戻らないと! 仕事始まる時間だよ?」


 微かに聞こえてくる、時計のボーンボーンと鳴る音。その音は、鳩時計というよりかは歴史のある大時計を連想させた。


「(この近くのどこかに、大きな時計でもあるのかな…?)」


 一瞬、王宮にかけられている時計かと思ったが、それにしてはやけに近くに聞こえると感じたので却下。

 それに、王宮で見た時計は、こんなに趣のある音を出すものではなかったはずだ。

 ──あの王宮の掛け時計は、すべてが、どちらかというと繊細な造りで、高級感があふれているものであった。

 ──対してこの音は、芸術というよりもむしろ存在感を感じさせるものであるように思う。


「(? ……まあいいか)

 エールー、遅刻したら怒られるよー…?」


「大丈夫よ、そんなに低い地位ではないもの」


「…それってみんなの上に立つ存在ってことだよね? なら、なおさら遅刻は厳禁だよ!? 上の人が遅刻だなんて、下の者に示しがつかないじゃないか!」


「いや、そんなに厳格に考えなくても…。……ニホン人はきっちりしているのね」


「誉め言葉として受け取っておくよ。

 ……まぁ、たしかに、他の国にもそう言われてたけどさ。『日本の人たちは時間や期限にきっちりしている』『上下関係に厳しい』って。


 ……言っとくけどね、だからって、時間に厳しいのが決して悪いってわけじゃ──…じゃなくて! エル、もう、訓練だか仕事だか、始まってるって!」


「だから、一時間くらい別にどうってことないわよ。

 …それより、カノンが襲われないかが……」


「だから、襲われるって何さ?

 ……まぁ、心配してくれてるってのは伝わるけれどね。心配してくれてありがとう。気にかけてくれるのは嬉しいよ。

 ……私はエルの仕事のほうが心配だけどね!」


「…もし万が一遅れたって、王女カノン絡みなら免除されるわよ。そういう風に王が取りはからってくれているもの」


「は!? 海斗何やってんのー!?

 職権濫用しょっけんらんようだよね、それ!」


「……しょっけん…?」


「…ええっと、職権濫用っていうのは、『職務の執行に仮託しておいて、実は職務に一切関係のないことをしていること』。…日本でこれを犯すと、職権濫用罪に問われるのでご注意をー」


「…ええ、分かったわ。ニホンに行くことは無いと思うけれど」


「うん、たしかにそうだよね…。よしっ、今度日本について色々教えるよ! 日本固有の文化はたくさんあるからね。

 ──……いや、のんきに話してる場合じゃなくて!


 大丈夫だってば、エル。…海斗にも、『いざとなったら遠慮なく呼んで』って言われてるし!」


 あれはお願いとか言うより、半ば命令っていうか、飲まざるをえない条件提示だったのだけれどもね。

 …けど、一度約束したことは守り通すのが筋ってやつですからね。武士道にも通ずるところだよね、この考え方は!


「…けど、美人カノンがひとりで、だなんて…」


「どんだけ信用無いの、私!? 海斗もエルも、心配しすぎなんだってばー!」


 ぷぅっとふくれっ面で抗議をする夏音。


「──…兎にも角にも、大丈夫だから、安心して仕事にお戻りくださいませエルさまー!」


 エルが未だに投げかけてくる、心配げな視線と言葉を遮り、夏音は大きな声でそう叫んだ。

 ついでにエルの両肩を掴み、身体ごと180度くるっとターンさせて、森へと意識を向けさせてみる。


「……じゃあ、またあとで、迎えに来るから」


 森(というよりかは、エルの職場の方角)を向いたエルは、いかにも行きたくなさげに重々しいため息を吐いた。

 ……職場、楽しくないのかな? 魔術について教えてくれてたときは嬉々として語ってくれていたし、魔術師であることが嫌いなわけではないようだけれど。

 


「うん、待ってる」


「帰りは、少なくとも5時前──夕陽が沈むころには迎えに来れると思うわ。

 それまでには、いくらなんでも大方終わってるとはおも…わないけれど、……せめて、その時にすぐに王宮に帰れるように、区切りの良いところまでは終わらせておいて」


「あいあいさーです!」


 ついでに、ビシッと敬礼もつけてみる。 (こちらにも、警察に似た組織である『自警団』とか『門番』とかがいるらしく、そのポーズは案外すんなりと受け入れられた)


 ──っていうか、途中、『大方終わってるとは思うけれど』って言いかけて、昨日の私の未来予想図を思い出して止めたよね。

 懸命な判断だよ。

 …ついでにもう一つ言っておくとね、マジで今日中になんて終わる気がしないので、そのつもりで!

 私の想像している図書館(一般的な日本の図書館の巨大バージョンだけれども)になるまでは、もうしばらくかかりそうです。




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