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第十五話



 王宮を出て、少し歩いたところにそれはあった。


 荘厳な雰囲気が漂う建物。黒を基調としているようで、白は装飾においてのみ使用されていた。


 その建物の扉は、金属の枠で覆われていて、恐らく木造建築だろうと思われる。

 モノトーンのそれ(・・)は、王宮の敷地内にあるものであるのに、王宮とはひどくかけ離れた風貌をしていた。



 黒と白から成るその建物は、よく言えば質素な、悪く言えば一目であまり手入れがされていないと分かるほどに、さびれたものだった。

 窓ガラス──薔薇などの様々な花が描かれたステンドガラス──の中には、ツタが達しているものもあった。



「ここが王宮図書館…?」


「そうよ」


「…本当に手入れされてないね。

 本どころか、図書館自体も放って置かれてる感じ」


「使用人たちは、王宮の清掃だけで精いっぱいだもの」


「あー…分かる。

 あそこ、無駄に広いからねぇ」


「そう無駄でもないのよ?


 あの王宮の会議室は、国の政治とかを取り決めるときに使われるのだけれど…その際は一般の人でも傍聴できるようにあれだけ広くないといけないし。

 魔界では、情報は秘匿せずに公開するっていうのが普通だからね。


 あと、一見無駄に見える多数の客室とかは、他国の要人を招いたりするのにも使われるし。


 それに、非常事態には、国民みんなの避難場所となるわ。

 結界が張ってあるから、魔物や災害──大洪水や大火事の被害に遭う心配もないし」


 …うん、入れそうだよ、国民みんなが。だって、あの大きさですもん。

…国民が、一体何万人いるのか分からないけれど。


「──よし、じゃあまずは、この図書館の清掃から始めますか!」


「……何でそんなに嬉しそうなのよ…」


 そりゃあ、何でって…


「魔界にもきちんとした図書館があるっていうことと、再び図書を扱う仕事──図書補になれたことによって、いま、私はハイテンションなのです」


「…あぁ、なるほどね。

 ──それにしても、ひとりでやる気なの?」


 納得、という風に頷いたエルは、ちらりと一瞬だけ図書館に視線を移して、そう問うた。


「? うん、もちろんだよ?」


「……。 頼るっていう考えはないの?」


 呆れた視線をよこすエル。

 夏音は、どうしてそんな視線を受けるのか分からなかったが、それを表に出すことなく、つつがなく返答を返した。


「うん。 だって、エルは魔術師の仕事があるだろうし」


「言っておくけれど、今日は休みなのよ? どちらかというと、公欠っていう感じだけれども」


「え、でも、明日はさすがにご出勤でしょう?」


「それはそうだけど。

 今から始めれば日が暮れるまでには終わるでしょう?

 中の本だって、そんなに乱雑に置かれているわけではないし。ほとんど棚に戻されているはずよ」


「……終わらないと思うよ。この蔦どうにかしてからもまだまだする事あるもん。


 具体例をあげるとすれば──中はすすとかほこが溜まっているだろうから…天井を煤払いをして、はたきで棚を綺麗にして、その間に本の修理できるものはやって、本もなるべくきれいにして、最後にほうきで床を掃いてから雑巾かモップで拭いて、できればワックスかけて──あぁ、このステンドガラスもきれいに拭いた方がいいよね。きっと、元が美しいから、太陽の光を反射したらきれいだろうね。

 ──ってことは、その邪魔になってる、図書館の周りの雑草を刈り取ることも必要になってくるよね。きっと、少しの長さを残して刈り取れば、さっぱりすると思うんだけれどね。丸坊主だとさすがに寂しい感じがするし。そうだね、妥当なのは、よく芝生であるような長さかな。もっとも、これは芝生ではなくて、雑草だからなんとも言えないけれど、一応試しに刈ってみてから……エル?」


 そこまで流暢に喋っていた夏音が、唐突に、エルの顔を心配げに覗き込んだ。


「話、長かった? 大丈夫?」


 一応、自覚はあるからね。


「……することがたくさんあるのね」

「うん。

 ──けどさ、これでも必要最低限だからね? その名も、『図書館を気持ちよく使って貰おう作戦 その一・掃除』だよ」


 …あ、ネーミングセンスが壊滅的なのは自分でも分かっているから、あえてのスルーで!



「──もしかして、毎日ここに通うつもりなの?」


「あー…どうだろ?

 まあ、少なくとも、作戦が全て完遂されるまでは、毎日通い続けるつもりだよ。

 …でもさ、一つ問題があるんだよね」


「問題?」


「うん。

 …通いたいのは山々なんだけどさ、途中の道のりが複雑すぎて、迷子に成りかねない。そしたら、着くまでに何日かかるか分かったもんじゃないよ」


 周りは木だの背の高い草だのに囲まれているし…まるで迷路だったよ、と訴えると、エルは納得した表情になり、それから苦笑を浮かべ、端的に説明を施してくれた。


「そうしておけば、敵の侵入をある程度防げるし、時間稼ぎにもなるのよ。

 軽く説明を加えると───ほら、あそこに見えるのが正門。

 あの正門から入ってきて、一番初めに目に付くのがここ、王宮図書館なの。ちょうど、森の木々が王宮を隠していて、王宮が見えないような造りになっているのよ。

 それで、敵が図書館こちらに来るでしょう? そうして、この建物が王宮ではないと気付く。慌てて王宮へと急ぐけれども、この森は魔族しか通り抜けられないから、ここで立ち往生するしかない…ってわけ」


「なるほど。

 …この森には魔術でもかかっているの?」


「ええ、阻害系──無系統の魔術がね。

 魔術が使えない者は、決して通り抜けることが出来ないようになっているのよ。

 入ったら最後、絶対に、二度と出ることは出来ない。目的地に行こうとしても、いつの間にか森の真ん中──というか、真ん中にある湖に戻っているらしいわ」


 …入った後の設定が怖すぎるのですが。

 誰だよ、そんな鬼畜な魔術かけたやつ。せめて森の入り口に戻るように設定してやれよ。溺れるわ。


「…じゃあさ、魔族なら誰でも通れるの?」


「あー…通れるって言ったら通れるけれど…」


 珍しく歯切れが悪いエル。どうしたというのだろう?


「……道を覚えていないと、王宮にはたどり着けないと思うわよ。ただ『魔族なら通れる』ってだけで、道が分かるわけではないのだから」


「……そんな不親切な。

 道覚えていない子が1人で入ったら、一生出られないってことじゃないか」


「その点は大丈夫よ。魔族がこの森に迷い込んでいるかどうかは、王族なら分かるもの」


 王族、と聞いて、思わず自分の影を見下ろした。

 …ご期待のところ大変恐縮なのですが、そんな能力、私には備わっていないと思います。

 それとも、何かのアンテナのごとく、いざとなったら、センサーに反応するのでしょうか…?




設定もりだくさんです。



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