第十四話
「───エル!!
私、王宮図書館付き図書補になる!」
聞き間違いかと、一瞬自分の耳を疑った。
『王宮図書館付き図書補』という、何だか分からないものに、カノンはなりたいらしい。
……結局、カノンから一生懸命に説明をしてもらっても、その職業の意義が分からなかった。むしろ、余計に分からなくなるという悪循環だった。
『王宮図書館付き図書補』──そんなものは、生きるために必要ない職業であると、心の底から思った。
そんな事をするくらいなら、街の清掃をしている人たちの方が、まだましだと思う。
ここ最近は侵略とかは無いけれど…緊急事態が起こったときに早く駆けつけるために、走りやすいように街の清掃をしていてくれると助かるものだし……。
──というより、どうしてカノンは魔術師ではなく図書補という仕事を選んだのだろうか?
カノンを危険に晒したくないから声に出しては言わないが、カノンには魔術師の才能があると思う。
…カノンは、実際にはまだ魔術を使っていないから、これはあくまで勘であるけれども…たぶん間違ってはいない。家系的にもそれは間違いないのだから。
前にカノンのいた場所──チキュウのニホンという国は、戦争が無かったのだろうか。
そうでなければ、そんな職業ができるはずがない。生まれるはずがないのだ。
───カノンから聞いたことから推測するに、治安や命の安全が確保されてこその平和な職業が『図書補』というものであるから。
前も言ったが、魔術師になるということは、命の危険が常に伴うということだ。 魔術を使うだけでそれは死と隣り合わせだということを意味する。
一方で、魔術師は、それだというだけで皆から祝福を受ける。なぜなら、魔術師はエリートであるというのが世間の常識だから。(私自身は職業の違いはどうでも良いと思うのだけれど、それはあくまで個人の感想という観念にとどまる)
───カノンに、魔術師になってほしくはない。
けれども、カノンが魔術師以外になるのは難しいだろうと思う。
理由は、カノンがお姫様だから。
一般的に、お姫様は働かない。王宮にいれば悠々自適だし、働かなくてもお金は湯水のごとくあるだろう。
それに、仮にお姫様が働きたいと言っても、働ける職業も限られている。
庶民的な職業──農民になりたいと言おうものなら、王族を初めとする全ての貴族から反対されるし…そもそも、お姫様という高貴な身分の方に農業を教えられる農民なんていないだろう。恐れ多くて。
──結局、消去法でいくと、王族がなれるのは、王様とかの当然の職業か、最低でも大臣くらいだ。
本当は魔術師もなれないのだけれど、様々な譲歩(交渉とも言う)の結果、カノンはようやく許可された。……もちろんこのことはカノンには秘密にしろと言われているから、本人には言わないけれど。
おそらく、カノンも現魔王も、こちらにきてまだ日が浅いということで、これくらいは大目に見てもらえるんだろうと思う。
…常識はずれのことをするなら今だとは思うけど……──
あぁ、もう…カノンが常識はずれすぎて、自分が言っていることがよく分からなくなってきたわ…。
***
───黙り込んで、内心、絶賛混乱中のエル。
夏音は、もちろんそんなことはつゆ知らず、『王宮図書館付き図書補』となる気満々…見るからにご機嫌な様子で、これからの計画に心を躍らせていた。
──さて。まずは、図書館の掃除から始めようっと!
本棚にはたきをかけてから床を箒で掃いて、本が傷んでいたらなるべく補償して……。
──あ、魔導書ってどんなものなのかな?
想像では、分厚くて年季の入った本だと思うなー。あとは、巻物とか。 魔術があるのなら、本を開いたら喋ったりして! あー、でも、私的には喋らないで欲しいな。活字の方が覚えやすいから。
「…エルー」
「? 何?」
「魔導書って、どんなものなの?」
「……は? どうしたのよ急に…」
「図書館の清掃プランを脳内で作ってて、ふと疑問に思ったので質問してみた」
「なるほどね。 けど、そう言われても、どう説明すれば良いのか分からないわ。
…ニホンではどんなものだったの?」
「うーん…
──紙っていう、薄くてペラペラしたものに、文字が印刷されていて、それが何枚も重なって閉じられているもの…かな。
大きさはいろいろあって、片手に収まるものから抱えないと持てないようなものまで。
一概に本と言っても、ページ数や大きさ、使われている素材とかによって重さや価格は異なるよ。
小さいものは文庫本って言って、お手頃サイズ。少し大きめのものは単行本と呼ばれているんだよ。
文庫本は単行本より少し遅れて発売されるけれど、単行本よりはいくらか安いから、みんなそっちを買っているね。
私は、気に入った本は単行本も文庫本も揃えてたよ。まぁ自己満足だけどね。
あと、漫画も図書館に数種類あったなー。
私から言わせて貰えば、自分の想像を働かせて読みたいなら、漫画より小説のほうがおすすめ。
でも、臨場感を味わいたいなら、やっぱり漫画だと思うよ。
…あ、漫画っていうのは、日本の素晴らしい文化の一つで───」
「も、もういいわよ…」
「え。 あ、そう?」
「……その調子だと、説明が終わるまでいつまでかかるか分かったものじゃないわ」
「ざっと、あと一時間は語り尽くせるけど…」
「却下。 なんでそんなに長いのよ…」
「…この際だから、本の素晴らしさを知って貰おうかと思って?」
「何で疑問系…?」
「え、なんとなく」
私の説明は、ぐったりした表情のエルによって中断された。
…そんなに長かったかな?




