第十話
──暖かな日だまりの下の、お茶会をするために置かれたテラスにて。
2人の種類の異なる美少女たちが、そこの一角に座っている。
1人は色白で黒髪黒眼の、美しい少女。
もう1人は、毛先だけがふわりとカールした金髪に、澄んだ蒼眼を持つ可愛い少女。
手元には、見るからに高級そうなティーカップと、おいしそうなクッキーのようなお菓子が置かれていた。
「──で、どうする? 今すぐにでも魔術を練習する? それとも、魔力をどのくらい有しているか調べる?」
嬉々として質問を投げかける少女と、それを戸惑いつつも受け止め、的確な答えを返す女の子。
「有する魔力量を調べる方法なんて、基本的にはないわ。 …あるにはあるけれど、それは命懸けの方法だから」
「命懸け…!?」
「ええ。 方法としては、魔力が無くなるまで魔術を使い続ければ良いのよ。
とは言っても……本当の『魔力』が尽きると、自動的に『生命力が魔力へと変換される』から、魔力を使い果たすということは死を意味しているけれどね。
生命力が魔力に変わっても、何も症状が出ないから気付けないのよ。
実際、私自身も、どこから生命力が魔力に変換されているか分からないわ。
死んでから初めて、どのくらいの生命力が魔力へと変換されていたのかが分かるのよ。
早く死ぬ人はその変換量が多かったということだし、逆の人は、人生において、ほとんど生命力を変換しなかったということなの。
──例えば、王宮魔術師は日常的に魔術を使うから早死の人が多いけれど──一方で、街で店を営んでいるとか、いわゆる普通の人は長生きする傾向にあるわ」
「つまり、長生きしたければ魔術なんて使うなってこと…?」
「ええ、そういうことね。
…けれど、やはり王宮魔術師というのは華のある職業だから、そういう危険があってもなりたい人たちは後を絶たないわ」
少女──エルがそう答えると、夏音は不意に首を傾げ、
「質問ー! 逆に、魔力を生命力に置き換えることはできないの?」
と聞いた。
その質問にもエルは淀みなく答える。
「それは今現在確認されていないから、一般論では無理だと言われているわね」
「そうなんだ……。 そういえば、エルー」
「えっ……? な、なによ…?」
夏音はエルを不思議そうに見て、一言。
「…何でそんなに挙動不審なの? 名前呼んだだけじゃんー…」
「あ、あなたね…ついさっきまで陛下のことで言い争っていたのは誰よ!?」
夏音の、先ほどまでの、敵対したことを忘れているかのような振る舞いに、エルは思わず声をあげた。
それに、夏音は少しだけきょとんとし、やがて笑顔を浮かべた。
「あー、あれね…。
あの時は、エルに海斗を奪われるのかと思ってあせったけど、よーく頭冷やしたらさ、海斗の態度はそんな感じじゃなかったから。
それに、エルは私の予想に反して、真面目ですごい人だったから、尊敬しようかと思って」
「…それ、誉めているの?貶しているの?」
「どちらでもないよ。 ただ真実を言っただけ」
「…………そう…」
いまいち釈然としない様子のエルだったが、どこか嬉しそうな夏音を見ているうちに自分の中で整理が付いたのか、溜息を一つ吐いただけで頷いた。
***
「──楽しそうですね」
「そのようだね。 …良かった」
その2人の様子を、王宮の一室から微笑ましげに見る二つの人影。
その人影の正体の1人は、素人目にも高級そうな生地で作られた貴族服を身にまとい、その上には表が漆黒、裏が暗めの鮮やかな赤色をしたマントを羽織った少年──海斗。
その傍で同じくテラスを見下ろしているのは、黒い燕尾服のようなものを着た、黒髪でつり目気味の茶瞳の男性──齢21歳という異例の若さでこの国の宰相となった、ギアス=イエリックだった。
「…いささか強引でしたけれど」
「これが一番手っ取り早くて、失敗するリスクが少なかったからね」
宰相は、何を、とは言わなかったが、海斗には伝わったようで、目線は夏音たちへと向けたままにそう答えた。
その瞳は愛しげに細められている。
「──夏音は、」
「はい」
「友達をつくるのが苦手なんだよ」
「……はい?」
そこで、海斗の視線は夏音から外され、言葉が一旦とぎれたことに怪訝そうな顔をしているギアスへと向けられる。
「軽く人間不信だからね。
幼いころから可愛かったから…大人たちからはちやほやされ続けて、過剰な期待をかけられて。
同学年の女子たちからは、男子にやたらとモテるために疎まれて、苛められることもあってね…。
それで、自分から話しかけるのが苦手になっていったんだよ。
高校からは、人間関係にあまり深入りしないことで、傷つくことを凌いでいたみたいだけどね」
「お言葉ですが…その割には、第Ⅰ王宮魔術師《エル=チェンバレン》とは話せていたご様子でしたが?」
海斗は、その質問でようやく体ごとギアスへと向かせ、
「エルも、夏音と種類は違うけれど、周りから敬遠されるタイプだからね。 お互いに、同じ様な境遇だって分かるんじゃないかな?
僕は、2人の歩み寄るきっかけを作ったに過ぎないよ」
「…優秀な策士ですね、陛下は」
宰相の、尊敬したような、呆れたような視線を受けた陛下は、何も言わずにただ苦笑を浮かべた。
そして、未だ楽しげに話し続ける彼女たちに再び視線をやると、執務へと戻るためにマントを翻した。
第三話と第四話の間で話が繋がっていないとの有り難き指摘をいただきました。
第四話からずらしましたので、見ていただけると嬉しいです。
(第三話→第三話のまま
ここに(新)第四話を挟みました。
(旧)第四話→(新)第五話 です。
説明分かりにくくてすみません)




