出来すぎ従兄弟
「殿下、貴方はバカですか。」
ジオンと同じく従兄弟でもある親友は大きなため息と共に尊き立場にあたる人に向かって口を開いた。
「ジオンを怒らせた・・・嫌われたかもしれない。」
普段は威厳のある態度で指導力もある皇太子。
彼らが生まれた時は、兄弟が居なかったこともあり、本当の弟が出来たように嬉しく、甲斐甲斐しいほどに二つの貴族の家を行ったりきたりしていた殿下は、従兄弟達が成長するに従って、彼らが自立心旺盛な性格をしているのを知った。
自分を指導している高名な大学の教授に彼らも習うと良いと提案すれば、二人とも親元を離れて寄宿学校に入ると言う。
何一つ頼ってはくれないくせに、二人は仲の良い双子のようで、一人ぽっちになってしまったような淋しさを殿下が感じたのは14歳の頃だ。
あまりの落ち込みように女王陛下までもが心配し、呆れた。
「年下のライモンとジオンに構ってもらえないからといって、落ち込んでどうするのですっ!彼らが放っておけないほどの人になってやるとは思わないのですかっ情けない。」
女王ではなく、母としての言葉に殿下は酷くショックを受けたが、負けず嫌いなところもあったお蔭で彼は指導者として、あらゆる勉学に励み、成長していった。
成長し自立していく殿下を従兄弟達も頼もしく思い、2年後には交流が盛んになった。
お互いに成長しあった彼らであるが、ライモンとジオンでは少々性格が違っていた。
ライモンは、勉強などしなくても大丈夫でありながら、常に何かを得ようと努力している青年に。そして、ジオンは遊び呆けていてもやる時はやる青年になっていた。
勉強に身を入れすぎてあまり遊んでくれないライモンと違い、ジオンは殿下にとって息抜きをさせてくれる存在だった。
誰もがジオンの見た目に惹かれやってくる。
そのおこぼれをもらい、楽しんできたの者もいた。
自分も決してそうではないとは言えないが。
ジオンは優しいが冷たい男だ。
興味がなくなれば一気に冷める。
しかし、彼に惹かれる令嬢にはその事が分からない。
それを分からせるのが自分の役目でもあった。
今回のアシュットバル男爵の令嬢のことも暫くなりを顰めていたジオンの悪い癖が出ただけだと思っていた。
「ジオンの本気と嘘が見抜けないなんて・・・将来、貴方の下で働くのが嫌になりますね。」
ライモンのため息交じりの言葉に殿下はギクッとする。
「す、すまない。」
その彼が項垂れて心底反省している顔を見せている。
「ジオンに嫌われただけならいいですけど、クラインハイブ家が貴方に協力をしなくなったらどうするんですか?」
再びギクリと皇太子の体が硬直する。
顔色は真っ青だ。
「女王陛下には誓った忠誠を貴方には誓わないかもしれない。俺としても愚かな王に仕えるのには躊躇しますが。」
歯に衣着せぬものいいに皇太子は益々焦る。
「あそこは、ジオン命な家族ですからね。ジオンの幸せのためならこのイギリスを離れていきますよ。」
立ち上がる皇太子。
「そ、それは困るっ!第一、母上・・・いや女王陛下に何と言ったらいいか。」
「アシュッドバルの令嬢を結果的に危ない所に追いやってしまった罪を償いたいと?」
「も、もちろん!!ジオンの信用を取り戻せるなら!!ライモン、手を貸してくれ。」
尊き人が臣下でもある自分に簡単に頭を下げることにプラチナブロンドの彼はため息と吐いた。
「殿下・・・貴方は将来この英国を導いていく王になるお方だ。もう少し成長して下されねば困ります。」
「・・・分かっている。」
何かと優秀な従兄弟を次期後継者にと目論む輩も貴族社会にはいると言う。
しかし、二人はあくまでも殿下の臣下として存在したいのだと公言しているし、二人の親達も息子を王にしたいとは考えていないことを常日頃から口にしている。
「だったら、早く婚約者殿と結婚し、陛下を安心させてください。」
殿下がウッと言葉を詰まらせた。
彼の婚約者、ブレナン伯爵令嬢はとても性格のよい娘だがお転婆だと評判で少々男勝りなところもある。今は花嫁修業と称してシルヴァリー公爵家に身を寄せているのだ。
二人はお互いに惹かれあっているが如何せん天邪鬼なところがあり、会えばケンカを繰り返している。
「あ、あれが承諾するまい。修行が終えてないと先日も返事が来た。」
しゅんと項垂れる殿下にライモンは再びがっくりと頭を垂れそうになった。
「貴方がそんなだから、彼女も煮え切らないんです。とっとと嫁に来い、迎えに来たとでも言って、家に来たらいいでしょうに・・・。」
「・・・あ、・・・ううっ。」
「しっかりしてください。ホントにもう・・・。ジオンの件は私も何とかしますから、これ以上彼女を待たせないように。これ以上、我が家の調度品を犠牲にしたくなんですから。」
彼女に悪気はないのだが、少々・・・ドジっ子なのである。
「彼女をと望んだのは貴方だ。陛下を説得した時の強気は何処にいったんです・・・。」
殿下は暫くの間年下の従兄弟に説教をされた。
つづく