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最初に触れる

「大丈夫かしら?」

オロオロとしているのは、ジオンの母。

「分かりません。俺は、彼女を救えなかった。」

何事にも執着せず、飄々としている息子の憔悴しきった姿。

寝台に横たわるブランカを見つめる瞳は、今にも涙を流しそうだった。

「彼女は帰りたいと言った。けど、帰したくないんです。彼女の受けた傷を癒すのは俺でありたい。」

ギュッと彼女の手を握る。

そんな息子の肩に触れる母。

「ジオン、殿下が謝っていたわ・・・自分のせいで彼女を危険に晒したと。」

「謝ってもらっても彼女の受けた傷は消えないっ!」

息子が声を荒げることも珍しいことだった。

「ジオン・・・。」

我に返るジオン。

彼の視線は母から再びブランカへと向う。

「彼女に向けられる一切の悪意を取り除く。そのためになら、俺は悪魔にでもなれる。」

「・・・ジオン・・・どうして、そこまでブランカさんを?」

そう尋ねた母親に彼は顔を向けて言った。

「人を愛するのに理由は要らない。そう教えてくれたのは母上ですよ。」

母は、フッと息を漏らす。

「そうね・・・そうだったわ・・・。」

「身分と言うモノが彼女をここまで傷付けたのなら、俺はいつでも侯爵家の跡取りであることを捨てますから。・・・父上にもそう説明しておいてください。」

決意を秘めた息子の目に母は何も言えなくなって、部屋から出て行った。


本当に何故、彼女に拘るんだろう。

あの店で出会った時に目があっただけ。

それだけなのに、全身がしびれたような感覚に襲われた。

自分に一部の興味もないような眼を見たから?

明らかに身分が上の俺に媚びることなく真っ直ぐな視線を投げてきた珍しい存在だから?

ただ、この人の目に特別な男として映りたい。

そう思った。

だから珍しく自分から声をかけて、側にいることを勝手に誓ってしまって、彼女のポーカーフェイスを壊してみたくて、きっと綺麗で可愛い笑顔だと思ったから、その笑顔を自分だけに向けて欲しくて・・・。

彼女の家の都合につけこんで呼び出しておいて、こんな眼に合わせてしまって・・・。

俺のエゴが彼女を傷つけた。


ジオンは、そっと彼女の手を離し、部屋の外にいるであろう家人に声をかけた。

「グスターヴァス、しばらく二人きりにしてくれ。」

廊下にあった人の気配が消えていく。

彼が出て行くのを確認するとジオンはそっと自分の着ていたものを脱ぎ始めた。

部屋の蝋燭にともる美しい裸体。

生まれたままの姿になった彼はそっと寝台に近付き、ブランカに掛けられた毛布を捲った。

母の用意した淡いラベンダー色の寝着を身に着けた彼女。

柔らかな胸が呼吸で上下している。

ジオンはそっと彼女の胸元のリボンを外す。

「君に最初に触れる男は俺だ。」

次々にボタンを外していくジオンはその滑らかな肌に自分の手と唇を這わしていった。


「貴方・・・グスターヴァス・・・。」

部屋の前には、愛する夫と忠実な家令がいた。

男である二人をブランカの側に近寄らせたくなかったジオンは、母にのみ面会を許した。

「ジオンは、ブランカさんのためになら、爵位も捨てると言ってるわ。」

そっと、夫に身を任せる。

「・・・彼女には立派な後見人が必要だな。」

「ええ・・・。貴族特有の世界から、特に女たちの世界からは、私が守りますわ。ですから、貴方・・・。」

夫婦は、ゆっくりと廊下を歩いていく。

弟の誕生パーティは、この事件のことなど全く表に出ないまま無事終了したが、クラインハイブ侯爵は、ロンバート子爵の子息にどう落とし前をつけてもらおうかと思案していた。

悪魔のような微笑と共に。

「今回の事件を起こした者全てに罪はあがなってもらう。もちろん、殿下にも。」

「今頃震えてますわよ、殿下は。」

夫人が少しだけ気の毒そうな顔を見せた。



つづく

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