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怒り

少々ブランカが可哀想な目に合ってます。

苦手な方も居られると思います。

(もう駄目だ。)

ペチコートは破かれた。

素肌を、他人に晒したことのないところに男の手がかかっている。

鳥肌さえ立つほどの男の吐息と手の動きに体が硬直していく。

「ああ、明るいところでするべきだったか。こう暗くては、手触りしか分からんな。」

「目を凝らせば、体の奥の方まで見えるさ。場所を変えるか?」

男の手に力が入り、体が震えた。

「止めてください。」

声を絞り出した。

「声が震えてるぞ?お前は娼婦だろう?おい、こいつ、生娘のフリをしようとしているぞ、確かめろ、生娘であるはずがない。」

酒臭い息でブランカを抱きしめている男が言う。

「承知いたしました。」

嬉しそうな声を出す男。

ブランカはギュっと目を閉じる。


(犯されたとからと言って人間として終わったわけじゃない。)

男の手が自分の力を入れた股を割っていく。

(いつか現れるかもしれない愛する人に初めてを捧げられなかったからと言って、死ぬわけじゃない。)

「力抜け!」

フルフルと頭を振り拒否するブランカは、ギュッと股を閉じる。

足首は押さえれているが膝関節から股を閉じることには成功していた。

「手が入らないなら、指で確かめてやる。」

「やっ!(けれど、その愛する人は、汚れてしまった体を持つ私のことを愛してくれるだろうか。)」

撫でられる手に嫌悪感を覚えながら、目を閉じて泣くものかと唇を噛み締めた。


絶望が心を支配する瞬間、ドンっ、どさりっと言う音が聞こえ、臀部に触れていた手が離れた。

「えっ?」

ふわりと拘束が解け、自由になる体。

ガクンと力を失った体が引力に負けて落ちそうになっていた。

その体を掬い上げるように抱きとめる腕。

ふわりと香るその香りの持ち主に顔を上げた。

「遅くなったね。」

彼の唇がそっと自分の頭に付けられた。

カサカサと場所を動く男達。

一人は腰を擦りながら移動している。

ブランカの視線の先に転がった銅像が落ちていた。

(こんなところに銅像なんかあったかな。)

今の状況を理解できないブランカは現実逃避のように銅像を見つめていた。

「ロンバート子爵?これはどう言うことですか?我が侯爵家の邸内で御夫人に乱暴を働こうとは。」

先程とは違う低い声。

怒りを抑えた声に我に返ったブランカすら身を竦ませた。

「あ・・・いや・・・そ、その・・・。」

まだ足に力が入らない彼女は、自分を抱きとめている体にしがみ付いているのがやっとだった。

「今日は、そもそも弟の誕生パーティで、お誘いしたのは、あなたのお父上だったはずだが?」

「みょ、名代でっ!」

ぎゅっと自分を抱きしめる力が増す。

「だったら、このような所ではなく、会場で自分の名を売ればいいでしょう。彼女を相手に何をしようとしたのです。返答しだいによっては、あなたのお父上に報告して、今後一切の取引を終了させますよ。」

上ずった声で先程までブランカを抱きしめていた男はオロオロと手をバタつかせている。

「そ、その、女が娼婦だと聞いたのです!金持ちの男を引っ掛けるためにパーティに忍び込んだと!!」

ブランカを侮辱する言葉。

しかし、周囲にはそう見えていたのだと彼女は愕然とした。

弟の誕生会とは言え、ここは、クラインハイブ侯爵家だ。

豪華な邸宅と料理、そして着飾った人達。

どうにかして侯爵家と繋がりを持ちたいと思う大人達も自分の息子、娘を連れてやってきている。

弟のリオンでも、もちろん兄のジオンでもいい、彼らに好印象を持ってもらいたいという令嬢と、経済的な理由で彼らと仲良くしたい子息達が沢山きていた。


自分も金のためにここに来た。


その現実にブランカは目を瞑っていたが、彼らとは何ら代わりがないのだ。

ジオンの部屋で自分を侮辱した男も、レディ・ミランダも、そして、この乱暴極まりない男達も自分を蔑んでこの環境がブランカには相応しくないものだと言った。

慣れない社交界会場と雰囲気、ジオンからの誘いとは言え、打算が合ったとは言え、話に乗るべきではなかった。

ブランカは自分が恥ずかしくなった。

こんな下心が他人に見破られないはずはない。

ジオンの腕の中でそっと涙が頬を伝ったが、直ぐに手袋で拭き取った。

「黙れっ!!」

自分のネガティブな思考の渦に飲まれていたブランカの耳にジオンの声が届いた。

怒りを爆発させた声だと思った。

「これ以上彼女を侮辱してみろ。俺はお前等を許さない。ここで手袋を投げつけられたくなかったら、さっさと出て行けっ!」

手袋を投げつける。

それは昔からの決闘を申し込む儀式。

ハッと顔を上げると真上にあるジオンの顔は見えなかったが、ロンバート子爵とその取り巻きは足をもたつかせながらバルコニーから消えていった。

抱きしめられる腕の強さが徐々に弱まっていく。

「ブランカ?」

先程のような怒りはないが、ジオンの声は震えていた。



つづく

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