包囲網
「初めまして、あなたが姉上になられる方ですね。」
掛けられた声の明るさに戸惑うブランカはさっきから固まってばかりであった。
まず、侯爵家の豪華さに硬直。
大歓迎の侯爵夫妻に硬直。
そして、ジオンの弟君の言葉に硬直した。
「わ、私は、あ、姉上になるつもりは・・・。」
ないと言いかけてジオンの顔を見上げると何とも悲しそうな顔をしていた。
「ブランカ。そんな悲しいことを今ここで口に出さないでください。私の胸が張り裂けてしまいます。」
ぎょっとする甘い言葉に硬直。
そんなブランカを見てリオンがふっと笑う。
「兄上の言葉に、トロンとなるのではなく、硬直するご婦人を初めてみました。」
その言葉にジオンも笑う。
「だろ?彼女だけだよ。いちいち固まってくれる面白い人は。」
隣で硬直しているブランカをよそに兄弟は話をしている。
「それが基準ですか?」
「ん?基準の1つかな。見つめて倒れなかった初めての人でもある。貴重だろ?」
「そうですね。でも、悲しませないことを祈りますよ。」
ふっとジオンが笑う。
「お前も母上と同じ事を言うな。」
「もちろん。兄上には幸せになってもらいたいですし、兄上にちゃんと家を継いでもらわないと、ボクの目標が絶たれますから。」
幼いくせに大人びたことを言う弟に苦笑しながら、ようやく硬直が解けたブランカを誘導する。
「ブランカ、気負わないところに行きますか?」
ホッとできる場所があるなら今すぐにでもと彼女は思った。
「ここは?」
「私の私室です。」
座らされた椅子に掛けているとメイドがお茶を運んできた。
メイドはニッコリとブランカに笑うと丁寧にお辞儀をして去っていった。
「あ・・・あの・・・。」
「この部屋に女性を入れたのは初めてです。」
「へっ?」
令嬢らしくない返事に慌てて口を閉じる。
「あ、あの弟君のところへ行かなくていいのですか?」
微妙に彼が間合いを縮めてきているように感じた。
「リオンには合わせましたし、もう少ししたら、貴方のレースのファンになった母上がこれからの貴方にとって大切になる方々を紹介してくれるはずです。それまで、ここでゆっくりしましょう。」
彼と2人きりという状況が何とも落ち着かないブランカ。
「それとも、私と2人きりはイヤですか?」
図星を指されてギョッとする。
少し目線をそらして首を振る。
クスクスと笑うジオン。
どうも彼の雰囲気がふざけているとしかブランカには思えなかった。
「あの・・・やはり、今日はこれでお暇・・・、」
いいかけでノックがされた。
「失礼。」
入室の許可をするとお辞儀をした執事が入ってきた。
「ジオンさま。レディ・ミランダさまがお越しになりました。」
誰だと言う顔をするジオンにブランカが、店で会った令嬢であること、ジオンが招待状を渡していたことを説明した。
「ああ、そうでした。で、そのレディ・・・が?」
「ジオンさま直々に招待を受けたのだと自慢しまくってます。」
砕けた言葉使いにブランカは驚くが、ジオンは全く動じてなかった。
ちらりとブランカを見るジオンは苦笑した。
「さて、ブランカ。将来の貴方を助けるために今日の日を用意した私に、恩を返してくれますか?」
「恩?」
ニッコリと笑うジオンに少々背筋を寒くしたブランカは自分への包囲網が狭まっていることに気付いてなかった。
つづく