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ある令嬢の事情

時代考証無視の架空イギリスの昔話。大目に見てください。

アシュットバル男爵家は、古く由緒ある家柄だ。


しかし、まれに見る貧乏貴族と言っていい。


ここの主がお人よしで、貴族としては何ともはや、困っている人がいれば、私財を投げ出し、家財道具を売り飛ばしてしまうからだ。

騙されたと気付くのも遅く、気が付けばその日の食べ物にも困ることがあり、損ばかりしている。

人の良い彼の領民達は、そんな領主夫妻が大好きで、男爵家が食べ物に困っていれば、野菜などの差し入れをしてくれていた。

しかし、互いに支えあっていたにも拘らず、重なっていく借金に領地も気が付けばドンドン減り、いつのまにかタウンハウスと郊外の屋敷だけが自分達の財産となった。


人の良さは彼らを貧乏貴族にしてしまった。

しかも、そのことに暢気で、毎年のように使用人が減っている現状を仕方のないことだとあきらめているところがあった。

そんな貴族としては頼りない両親の元、彼らの一人娘は実にしっかりしていた。

幼い頃から、苦しい家計を支えるために家政婦長にあらゆる家事を教わり、その技術でもって内職をしたり、家計における経費削減を行った。

自分の身なりなど二の次で、使用人たちの給料と、食べていけるだけのお金を彼女が管理しだしてから、男爵も奥方も簡単には騙されなくなった。

「何事もまず、お嬢様に相談する事。」

それがアシュットバル家の家訓となった。


彼女の趣味はレース編みであった。

細々ではあるが彼女の作ったレースは、とても美しく人の心を虜にするものだと口コミで貴族の間で評判になり、知り合いの貴族達からの注文を受けるようになっていた。

しかし、ショールなど大口の注文が来ても、仕上がるまでは時間がかかり、それだけでは、男爵家が抱えた借金を返す事はできなかった。

そこで、男爵家に仕える者たちが最後の手段として、常々考えたこと。

それは、令嬢がお金持ちの相手を探し結婚するという事だった。

もちろん、持参金など持てるわけがないので、どれだけ相手に気に入られるかということが焦点となるわけだ。

この社会においてそれが一番であることは理解している男爵令嬢・ブランカであったが、その手段だけは使いたくないと常日頃から思っていた。

彼女はとても美しい女性だったが、真面目すぎるところがあり、家計に対することで頭が一杯だった。

また、現実主義でありながら、愛し合う両親の姿をみて育った彼女にとって、打算で結婚するということに今ひとつの抵抗があったのも確かである。

使用人たちは口々に言う。

「お嬢様はとても美しく聡明だが、漂う色気がない。誘われていることに本当に気付かない。真に残念だ。」

ドレスにも化粧にも興味がなく、しばしば交際を申し込んできた殿方にあきれ返られることがあった。

レースのことになると夢中でどうにも周囲の事が入らなくなるらしい。

どんなに大切にしますと言ってくれてもお金が絡むと人を見下すモノもいた。

すべては、つれて歩くためだけのお人形が欲しいだけなのだ。

外見だけにつられてやってくる相手などお断りだった。

「けれども、お嬢様。当家の財政を立て直すには、よい殿方を見つける事が手っ取り早いかと思われますよ。」

メイド頭のミセス・ボイトが言った。

メイド頭といっても、アシュットバル家には彼女ともう2人しかメイドはいない。

それは彼女の2人の娘だ。

「そりゃあ、我がアシュットバル男爵家の御令嬢であるブランカ様には、愛する方と結ばれていただきたいですが。」

執事はボイトの夫である。

メイド頭も口々に言うが、兎に角、家が貧乏である事にため息を吐いていた。



つづく

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