隣にいたお姉さんが本物の聖女で、私は偽聖女らしい。神様助けて。
ざわざわしている
「助けて、ママ、パパ、神様……」
自分の声じゃないみたい。
か細く、弱々しい声を吐き出した。
短い人生だったが、ここまで心から願ったことはないだろう。
助けてほしい。ああ、どうか助けてほしい。
私の何が悪かったというのだろうか。
祭り上げられただけかもしれないが、精一杯、聖女として努力したのに……。
たすけて、かみさま。
ぎゅっと誰かに抱きとめられた気がした。
……
早乙女愛歌は普通の女の子だ。
ごく普通の両親のもとに生まれ、高校生として生きてきた。
愛がつく名前は、反抗期真っ只中の今としては、すこし可愛らしすぎて嫌だった。
けれど、両親曰く、二人が歳を重ねてからできた子で、生まれてきたときには、そりゃあもう可愛くて愛しくて奇跡的で、神々が祝福し、天使が歌い出すって騒ぎだったんだから、愛歌になったのよ、とのこと。
そんな親バカな両親の愛の証のような名前だから、文句も言えない。
ちなみに、弟の名前は奇跡である。
そんな普通の少女だったが、ある日、高校へ登校中に足元が光り、気づくと、バリキャリっぽい茶髪OLのお姉さんと一緒に異世界へ呼び出されていた。
「あなたが聖女だ。この国をお救いください」
そう言って、この国の王子様に跪かれ、てんやわんやで一年間、聖女として過ごしてきた。
だが、どうやら私は聖女じゃないらしい。
めちゃくちゃ上層部が揉めている。
今日は、偽聖女となった私の扱いについて、会議が行われている。
「第一王子には、偽聖女アイカを擁した責任を取っていただきたい」
「召喚当時は、真の聖女様は御髪を茶色に染めていらしたのだから、若くして黒髪だった偽聖女アイカを聖女と勘違いしてしまったことを責められる謂れはないだろう」
それもそうか、と納得した雰囲気になっている。
勘違いしたとしても、王子だから罪には問わないという茶番なんだろう。
「偽聖女アイカには、自身を聖女だと公言したことに対する罪がある」
偉そうに宰相が言う。
「自分を聖女だと思うことがどうかしている。真の聖女様と間違えて召喚されたのだから、その偉大さにひれ伏し、自分は聖女ではないことを自ら告白すべきだったのだ」
自分が選んだくせに、王子が言う。
「偽聖女は聖女教育についてもぱっとした成績ではなく、浄化の力は多少ありますが普通より上程度と、真の聖女様よりかなり力も劣ります」
神官長が言う。
「召喚されて『あなたが聖女なのです』って王子様に言われたら信じるでしょ。偉い人なんだから。疑うのが当然って酷くない?
私、頑張ってるけど何もできないし、聖女じゃないんじゃない?って言ったら、まだ力に目覚めてないだけでは?って神官長も宰相様も言ってたよね?
全部、愛歌のせいなの?」
聖女教育は難しかった。
すごく頑張ったけど、頑張ったって、一年で普通の高校生が五か国語をペラペラにはならないし、自分の国と全く違うマナーとかダンスとかを、すっごく完璧にできるようになるかっていったら、できない。
ぱっとした成績でなくても、赤点じゃないんだから褒めてもらいたいくらいだ。
浄化の力も生まれ持ったものらしく、だから間違えたんだと責められたって困る。
選ばれし者としての責務かなと思って頑張ってきたけど、そもそも選ばれてないというのなら関係ないし、家に帰りたい。
「偽物のくせになんという口を利くんだ! お前は偽物なんだから、処刑されてもおかしくないんだぞ!!」
宰相が顔を真っ赤にして怒鳴る。
名前を出されたことが嫌なんだろう。
有耶無耶にしたいのがミエミエだ。
「はい。偽物ですが、自分が偽物だということは昨日知りましたし、それを責められても困ります。この世界に召喚されたことも、聖女であることも間違いなら、私は自分の家に帰りたいです」
愛歌がわざとらしいほど丁寧に、自分は偽物だと告げてやると、真の聖女様となったお姉さんが立ち上がって言った。
「私も、愛歌さんは悪くないと思います。国の上層部に責任があるはずです。全ての責任を彼女に押し付けようとするようでは、どうかと思います。そのような国に私は滞在したくありません」
「私は聖女としてこの国に留まりますので、愛歌さんを家へ返してあげられないでしょうか。私たちの国の法律に則れば、彼女は成人前のため罪に問われず、保護者のもとに返される年齢です」
お姉さんとはほとんど喋ったことはない。
けれど、概ね愛歌がしてほしいと思っていたことを言ってくれたし、好感度が上がりまくった。
愛歌は法律に詳しくないので、お姉さんが言った法律のことはよくわからない。
でも、愛歌を処分したいこの世界の人たちを相手に、同郷の愛歌を守ってくれようとしていることはよくわかった。
「聖女様がそうおっしゃるなら、そのようにすべきでは……」
「聖女様のおっしゃるとおり、勝手に選んだ王子たちに責任がある」
真の聖女様のありがたいお言葉により、その後の会議は大変スムーズに進んだ。
聖女様が愛歌を穏便に帰したいということで、偽物だから処刑、という話はなくなった。
むしろ、愛歌に責任を押し付けようとした王子や宰相は、偽聖女に罪を押し付けていたけれど、そもそも権力者なのに勝手に選んだ責任があるよね? ということで、少しは処罰が下るようだ。
聖女様様である。
これで聖女様が愛歌を嫌っていたりしたら、皆、長いものに巻かれろ精神で、愛歌が全部悪いことになって終わっていたのであろう。
嫌な大人の事情というやつだ。
ともかく、ちゃんと会議が終わりそうでホッとした。
昨日から心配で何も食べられていなかったけれど、なんとか光は見えたように思う。
一息ついて、紅茶を飲んだ。
あれ、喉が痛い。熱い。くらくらする。
この紅茶、なんか入ってる?
むせて紅茶が出たと思ったら、血がいっぱい出てきた。
聖女のお姉さんの悲鳴が聞こえる。
ざわざわしている。
「この女さえいなければ、王子の目的は果たせたんだ。この女が勘違いするような格好で召喚されるから悪いんだ、悪いんだ、悪いんだ……!!」
ざわざわしている。
「助けて、ママ、パパ、神様……」
自分の声じゃないみたい。
か細く、弱々しい声を吐き出した。
短い人生だったが、ここまで心から願ったことはないだろう。
助けてほしい。ああ、どうか助けてほしい。
私の何が悪かったというのだろうか。
祭り上げられただけかもしれないが、精一杯、聖女として努力したのに……。
たぶん、このまま毒で死ぬのだろう。
たすけて、かみさま。
ぎゅっと誰かに抱きとめられた気がした。
すると、痛みが急になくなったので、死んだかと思った。
「神様?」
「愛歌。ご両親が心配していましたから、帰りましょう」
誰かに抱きしめられている。
目を開けると、神々しく美しい方が立っていた。
私の世界の神様である****様がいらっしゃった。
(神聖なお名前のため、書き言葉にして表すことはできない。一般的には神様とお呼びすることが多い。)
****様は自分の世界の住人を大切になさっている神様なので、テレビで見たことはあるが、お話しするのは初めてのことだった。
****様によると、私の両親が警察に捜索願いを届け出た際に、拉致の疑いが持たれた。
調査の結果、E-50以下の世界線に属し、神様の管轄が異なる世界へ拉致された可能性が高いとして、****様の管轄する事件となり、****様が迎えに来てくださったようだ。
両親にも****様にも大感謝だ。
****様は「愛歌は生まれたときに私が祝福を与えた子だったから、E-50まで絞れたら探すのは簡単だったよ」とおっしゃってくださり、私は無事、両親のもとに帰ることができた。
お姉さんには会議の発言でお世話になったため、****様にも、拉致被害者がもう一名いたことは伝えた。
しかし、お姉さんは愛歌とは違うE-250の世界軸の人であったため、****様の管轄ではないそうだ。
お姉さんには、あの嫌な国から解放されてほしい。
けれど、被害者とはいえ、一旦帰ってしまえば、世界間の拉致問題は神様同士の外交の管轄になるので、ただの一般市民である愛歌には、どうにもできないことなのだ。
愛歌は、無事でよかったと泣いて感激する両親に抱きつきながら、お姉さんの幸せを祈るのであった。
ちなみに、愛歌が法律を知らないのは無知だからではありません。
愛歌の世界にも法律はありますが、少年法はありません。
凶悪犯罪者とされた者は神様に頭の中を覗かれて裁かれるので、「未成年だから〜」という考え方がないのです。特に未成年は冤罪がないように神様がよくみてますし…
お姉さんは我々と同じような世界の人なので、少年法があります。
作中では、お姉さんに言い切られて、愛歌は「えっ、そんな法律あったんだ〜」となっていますが…笑
また、愛歌の名付けの神々が〜のところは親バカ比喩表現と見せかけて、実際起こったことなので、彼女は浄化の力を持っています。ただ、愛歌の世界ではそんなに珍しいことではないです。一粒万倍日的な…




