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ペンションの怪異

新しい理系オカルト研究所が幕を開ける。

イノは同じ大学の先輩であるトウマを連れて、曰く付きのペンションにやってきた。

入ったらどうなるのか。

情報がまるでない。しかし、入って出られないという話は一致する。

イノの相方は不在だ。しかし、強力な仲間が来てくれた。同じ大学の先輩トウマだ。

心強い。


トウマは車を出してくれた。しかも先日買った四駆だ。いきなり出番が来るとはトウマもウキウキだ。


新しい車と仲間を引き連れ、今宵も検証タイム

スタートだ。


今宵、2人が向かっているのはとあるペンション。


だが、いつもの2人ではない。


「トウマさん、今回は急なお願いでごめんなさい」


「でも、すごいじゃない?相方の研究が世界に認められたんだから」


実は相方が研究している内容が、ノーベル賞に関わる研究として認められたのだ。


更に深い研究をするため、アメリカの大学で1年ほど留学することになった。


それにより、イノが1人になると聞いてトウマがチカラを貸してくれたのだ。


「ところでイノさん。今から行くペンションの怪異って噂、ほんとかね?」


「それよりもトウマさん、これ新車やないの?」


「そうなんだよ。しかも最初に乗ったのがイノさんなんだぜ!」


「あはは……大丈夫?」


「それはいいとして、怪異の内容。情報集まった?」


トウマは運転しながらイノに聞いた。


イノはしばらく考えている。


「なかなか難しい。ただ、入ったら出られないって口々に言ってる……見えてきたで」


薄暗い林道の先を見ると、ペンションがひっそりと佇んでいた。


2人はゴクリと息をのんだ。



「これで営業中って言うから驚きだよな」


「雰囲気ありますね」


廃ペンションのような外見。


外観とは裏腹に、内装は綺麗にリフォームされているとレビューには書かれていた。




一泊二日素泊まり3,000円。


「安すぎるには理由があるわけだ」


トウマは車をゆっくり停め、エンジンを切った。


辺りはやけに静かで、風の音すら遠慮しているように思えた。


「……ほんとにここで合ってんのか?」


「ナビはここや言うてるし」


イノは軽く笑ったが、その声は少し不安げだ。


駐車場に車を停めて、2人はペンションの前に立つ。


生暖かい風が2人を包んだ。


近くで見ると、外壁の青色は変色して色あせている。


古いとは何か違う、何とも言えない違和感。


玄関のドアには「営業中」の札。


コン、コンとノックして扉に手をかけた。



「開けるよ」


ギィィ


室内は薄暗く、これでも電気は点いているようだ。



「……こんにちは」


返事は無い。


昼間だと言うのに時間の感覚が狂ってしまうほどに中は薄暗く静まりかえっていた。


人の気配はない。


見渡すと室内は確かに綺麗だ。


床も壁も新品のようで、外観とのギャップが逆に不気味さを増していた。



「いらっしゃいませ」


突然、受付の方から声がした。


二人はびくっと肩を揺らす。


いつの間にか女性が立っていた。



年齢がよく分からない、無表情な顔。


「ご宿泊ですね。お1人様1泊3,000円になります」


「……あ、はい」


トウマが財布を取り出しながら、小声でイノに言う。


「なぁ? あの人いつからいた?」


「さっきまでおらんかったな」


女性は無言で鍵を差し出した。


「203、204の鍵になります。夜は外出はお控えください」


『え? なんで―』


『迷われても責任は取りませんので』


それだけ言って、女性は奥へ消えていった。


二人は顔を見合わせる。


「……迷うって、何にや」


「さぁ。でもまぁ、それを確かめに来たんだし」


2人は二階に上がっていく。


エレベーターは無い。


やはり、人の気配はない。


館内通路図が貼ってある。


部屋は1階に2部屋。2階に4部屋。


浴室は1階で、コインランドリーが1台あるようだ。


2人の部屋は向かい合う形で並んでいた。


廊下を歩くたび、ギシ……ギシ……と音が鳴る。



部屋を前にトウマはイノに好きな部屋を先に選んでもらっている。


「ほな、204で」


203はトウマ、204はイノが泊まることになった。


普通の和室だ。


トウマも

イノの部屋に一緒に入ってきた。


布団も綺麗に畳まれている。


「綺麗な部屋だな。部屋によって違いが無いか先に見せてもら……」


トウマが言い終わる前にそれは聞こえた。


ドン……ミシ……


上の階から音?


「……ここ、二階やな?」


「……三階はないはずだが」


再び、


ドン……ミシ……ドン……ミシミシ……


まるで誰かが歩いているような音。


『聞こえてます?』


『聞こえてる。明らかに人が歩いている』


2人は天井付近を見ている。


「たぶん、この辺りで足音がしたんだけど……」


トウマが指を指した時 "コンコン" とイノの部屋の扉をノックする音がした。



二人は凍りつく。


「……誰……ですか?」


トウマが震えた声で聞く。


返事はない。


ただ、もう一度


コン、コン


イノがゆっくりとドアに近づく。


「開けるで……」


ドアノブに手をかける。


ゆっくりとドアノブを回す。


ガチャ






扉を開けると先ほどの受付の女性が立っていた。


2人は胸を撫で下ろす。


「確認でございます……お食事はなさらなくて良かったでしょうか?」


「はい。食事は来る途中で買って来ました」


「分かりました。もし、外出される場合は受付にある外出帳に時間とお名前をお書きください』


「何かご不明な点はございますか」


「あの……他に宿泊されてる人はいますか?」


「本日はお二人だけでございます」


「ここは屋根裏部屋はあったりしますか?」


女性は少し眉をひそめた。


「ございません。何か?」


「いや、上から物音がしたもので……」


「自然に囲まれておりますので、動物かも知れませんが気になるようでしたら変更されても構いませんが」


「あ、大丈夫です」


「何かございましたら内線をお使いください。

では失礼します」


それだけ言うと、女性は暗闇に消えていった。


「向かいの部屋に行ってみるか。見える景色も少しは違うかも知れない」


トウマが泊まる部屋を開ける。


ドアを開けたままトウマは動けずにいた。



先ほどの部屋とほぼ違いは無い。


ただ一つ違うのは、部屋の中央に


“もう一人のトウマ”が立っていた。


「うわぁ!」


向こう側でトウマの驚く声が聞こえる。


「トウマさん?」


イノの声でトウマは我にかえった。


それは等身大の鏡に写る自分だった。


「鏡かよ!あー、びっくりした。

イノさんの部屋には無かったよな」


「こっちには無いな。部屋を広く見せる手段だとしても、さすがにちょっと悪趣味やな」


トウマは苦笑いしながら鏡に近づいた。


「なんだよ、本気で自分が立ってるかと思ったわ」


鏡の前で手を振る。


当然、鏡の中のトウマも同じように手を振った。


しかし


イノが眉をひそめる。


「……今、ちょっと遅れへんかったか?」


「え?まじ?」


二人はもう一度鏡を見る。


トウマが右手を上げる。


鏡の中のトウマも右手を上げる。


問題ない。


「気のせいか」


そう言った瞬間だった。


鏡の中のトウマが――笑った。


現実のトウマは笑っていない。


「っ!」


二人は同時に後ろへ飛び退く。


だが次の瞬間、鏡の中の姿は普通に戻っていた。


「……見たよね?」


「俺も見た」


部屋の空気が急激に重くなる。



「一旦落ち着こう」


「せやな」


「とりあえず食事と風呂を済ませちゃうか」



食事を済ませて2人は浴室へ向かう。


貸切状態とはまさにこの事。


先ほどの恐怖も忘れ、ゆっくり風呂に浸かる。


「イノさん、今夜のLIVEだけど……あれ、やるの?」


「やるよ。カメラ6台によるリスナー参加型LIVE」


これは前々からリケオカで準備していたLIVE配信だった。


6台の切り替えカメラで、リスナーが自分で見たいカメラをタップして見られるLIVEだ。


1階で何かあれば、それを見ているリスナーが教えてくれる、検証に特化した配信スタイルだった。


サトが不在で出来ないでいたが、今回はトウマが来てくれ実現に至った。


「これ、面白いシステムだよなぁ。俺も同時配信するよ。見てる目も多くなるしね」


もちろんペンション側にも承諾を得ている。


他に宿泊客が居ないことが絶対条件であった。


「危なくほんとに貸切にしないといけなかったわ」


「22時から配信するってXで言っちゃうよー」


「えーよー」


新しい試みに心が踊る。


配信待機していたリスナーが続々と集まってくる。


各検証場所にカメラを設置する2人。


まもなく配信が始まろうとしていた。


このLIVE配信のやり方は、事前にみんなには説明していた。


もう各カメラにリスナー達が散らばっている。


「理系さんとこのリスナーも初めてなはずなのに、何だか手慣れてんなぁ」


確かに一回の説明で、それぞれに均等に配置しているのには驚く。


そして22時を迎え、2人の配信が始まった。



LIVE配信中


「こんばんはー、レンタル肝試しについていくトウマでーす」


トウマが手を振る。


「こんばんは」


イノも軽く会釈した。


コメント欄が一気に流れる。


「待ってました!」


「トウマさん助っ人回!」


「鏡の部屋やばそう」


「まだ何も起きてないからな」


トウマが笑う。


「起きていないわけではないけどな」


イノは苦笑している。


イノは今回の検証ルールを改めて説明する。


「各カメラを見てる人は、気付いたことがあったらコメントしてください。ただし推測じゃなくて見えたことだけでお願いします」


「あと、異変があっても慌てずにお願いします」


コメント欄には了解の文字が並んだ。


カメラ1は玄関


カメラ2は受付ロビー


カメラ3は一階廊下


カメラ4は二階廊下


カメラ5は204


カメラ6は203号室の鏡。


それぞれにリスナーが散っている。


「なんか管制室みたいやな」


真ん中の大きな画面にイノとトウマが映っている。


その左右に3画面ずつ計6つの小さい小窓が見える。


イノが笑う。

その時だった。


コメントが一つ流れる。


「カメラ5、音が聞こえました」


みんなが急に静まりかえる。


ドン‼️


マイクが音を拾った。


配信にもはっきり乗った。


コメント欄が少しざわつく。


・聞こえた


・上ですね


・二階より上から聞こえました


イノは天井を見上げる。


「三階無いんやけどな」


冗談っぽく言ったが、少し声が硬かった。


その直後。

カメラ4のリスナーからコメントが流れる。


・今、廊下の奥に何か見えました


・人影みたいな


続けて別のコメント。


・私も見ました


・女性に見えました


・髪が長かった気がします。受付の人かも


・すぐ消えました


トウマがモニターを拡大する。


だが映像には何も映っていない。


「どこだろ?」


・画面右奥です


・そう、柱の辺り


・一瞬でした


誰も騒いでいない。


淡々と報告だけが続く。


しかし見えているものが微妙に違う。


イノは腕を組んだ。


「これ後で録画確認やな」


その時、203号室のコメントが流れた。


・鏡、少し曇りました


・今は戻ってます


・誰か通ったように見えました


トウマとイノは同時に黙る。


鏡の部屋だけは、二人とも既に体験している。


冗談では済まない。


「ちょっと見に行くか」


「せやな」


二人は立ち上がった。


コメント欄では……


・鏡、カメラ監視続けます


・廊下も見てます


・何かあったら報告します


心強いコメントが流れている。


トウマが鏡を見ながら報告する。


「みんな、見えますかー」


・見えるー!


・見えます


鏡に映るトウマを見て、皆が反応している。


「実はここに着いたとき、すでに異変は起きていたんだ。鏡に写っている自分が別の動きをしました」


トウマの報告にリスナー達は驚きを隠せないでいた。


・ヽ(;゜;Д;゜;; )ギャァァァ


・怖すぎて滅!


・ドリフやん


みんなの反応が面白い。


配信を始めて1時間が経過した。


この参加型LIVEに皆がだいぶ慣れてきて、リスナー同士の連携が上手く出来ている。


1時間置きに所々で定期報告が入る。


・カメラ4、異常無し


・カメラ5、鏡に変化なしです


こんな感じ。


そろそろ2時間が経過する。



・カメラ1、異常発生!


・玄関扉が開きました!




みんなが一瞬固まる。


・人?こんな時間に?


・荷物持ってます


・スーツケースあります。外国の人かな


・チェックインっぽいです


トウマとイノが反応する。


「え?」


「マジかー?」


ロビーへカメラが切り替わる。



確かに人がいる。



・ロビーにも映りました


・人ですね


・受付の前です


・階段上がっていきます


・二階廊下通過です


ミシ……ミシ……と確かに足音が聞こえる。


定点カメラを気にもとめずに歩いていく。


・205号室にチェックインするみたいです


トウマが残念そうに呟く。


「宿泊客が来たなら配信終了しなきゃダメか」


イノも頷く。


「ルールやからなぁ」


リスナー達もこれからというタイミングに残念さを隠せないでいた。


イノがリスナー達に伝える。


「みんな、ごめん」


イノは配信カメラに向かって話す。


「貸し切りにしていないうちらの確認不足や。これ以上はプライバシーの侵害になりかねないので、配信をストップします。また明日、みんなが指摘した場所の確認もかねて報告します」


トウマも自身のチャンネルで報告をしている。


「ほな、カメラの片付けしてくるわ。またね」



配信終了後。



二人はカメラの回収を始める。


玄関、ロビー、一階廊下。順番に回収していく。


するとトウマが言う。


「そういや205の人、静かだな」


「外国人っぽかったし寝たんちゃう?」


そんな会話をしながら二階へ戻る。


その時。


ドン‼️


二人は足を止める。


また上からだった。


配信中と同じ音。


「まだ鳴るんか」


「宿泊客やろ」


そう言って廊下を見る。


その先は突き当たり。


トウマが立ち止まった。


「……なぁ」


「ん?」


「205号室ってどこ?」



二人は顔を見合わすと、館内図まで走って行った。


雰囲気の怪しさに緊急で携帯カメラを回す。


1階に2部屋。2階に4部屋。


浴室は1階で、コインランドリーが1台ある。


案内図にそう書いてある。


「実際に見に行ってみよう」


宿泊客の場合を考えてLIVEは出来ないが、編集して翌朝に結果を報告出来るようにしようか」


「せやな」


お互いが先ほどの流れを説明し、気づいた点をカメラにおさめている。


1階には2部屋しかない。


2階にはやはり4部屋しか無かった。


205号室なんて存在してない。


「は?」


「いや待て待て待て」


「でもさっき」


「みんな見てたやん」


二人は慌てて二階へ戻る。


しかし誰もいない。


スーツケースを引く音もない。


人の気配もない。


その時にリスナーからも続々とDMが届いていた。


・あの人階段を上がった後、廊下の途中で消えてます


・足音だけは聞こえてました


・そもそも205号室なんて無いのでは?


リスナー達も気づいたようだ。


そして、トウマが思い出す。


「……3階からの足音」


イノも気付く。


「存在しない階に上がったんか」



恐る恐る2人は天井を見上げた。


ドン……


ミシ……


ドン……


ミシ……


明らかに真上から音が聞こえる。


誰かが歩いている。



翌朝。


受付に確認しに行く。


わかってはいたが、想定どおりの答えが返ってきた。


「昨夜のお客様はお二人だけでございます」



「205号室はありますか?」


受付は不思議そうに首を傾げる。


「当館に205号室はございませんが」



そこでチェックアウトの時間になってしまった。



「理系さん的にもこのままでは終われないよな?」


トウマはニヤニヤしながら聞いている。


「そうやなぁ。さすがに連泊することは出来ないから再度来るしかないな」


「今夜みんなにもこの結末を伝える配信をしますかね」


「お邪魔しましたー」



車に乗り込む二人。



ペンションが少しずつ遠ざかる。


トウマがスマホを見ながら言った。


「イノさん、DMまた来てるぞ」


「なんて?」


「宿泊客が消えた瞬間の録画を見返してた人からだ」


イノが苦笑する。


「熱心やなぁ」


「それがさ」


トウマの顔から笑みが消えた。


「最初から人なんて映ってないらしい」


イノが黙る。


「はい?」


トウマはスマホを差し出した。


そこには停止した映像。


二階の廊下。


誰もいない。


しかしコメント欄だけが流れている。


・今、通りました


・スーツケース持ってます


・205に向かってます


「この人には何が見えてるんやろな」


イノはそう呟きながらゆっくりバックミラーを見る。


遠ざかるペンション。


2階の窓に誰か立っている気がしたが……


次の瞬間には見えなくなっていた。


「また来るか?」


「次は貸し切りで」


「そうしよう」







最後まで読んで頂きありがとうございました。

色々あるのは心霊も人間も同じこと。

そんなの気にしちゃ時間がもったいない。

大人の時間を楽しむ。

そんなコンセプトを軸に作りました。

始めて読まれた方は不明な点だらけだと思うけど、まずは読んでくれて感謝してます。

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