第一話 冒険者ギルド
第一話
冒険者ギルド
俺――相沢レンは、王都の大通りを歩きながら小さくため息を吐いた。
召喚された、その日のうちに。
俺はもう、城の外にいた。
追放されたわけじゃない。
放置されたわけでもない。
たぶん最初から――いなかった。
勇者。
剣聖。
属性魔導師。
“当たり”を引いた連中は、今ごろ国の希望として扱われているんだろう。
魔王を倒す英雄。
未来を救う存在。
人類の切り札。
王族や貴族に囲まれ、期待と称賛を浴びながら。
豪華な食事。
専属訓練。
約束された未来。
一方の俺は。
金貨数枚を渡され、
「王都での生活費です」
それだけ言われて終わった。
期待もされていない。
監視すらされない。
いてもいなくても変わらない存在。
それが【斥候】で【ロング】持ちの評価だった。
「……まあ、気楽ではあるか」
強がり半分、本音半分。
俺は石畳の道を歩く。
王都は、想像以上に巨大だった。
真っ白な外壁。
空へ伸びる尖塔。
赤い屋根が並ぶ街並み。
中央通りには露店が並び、焼いた肉の匂いと香辛料の香りが混ざって流れてくる。
「安いよ安いよー!」
「朝採れ果実だ!」
「ポーション補充しとけー!」
人、人、人。
鎧姿の騎士。
ローブの魔導師。
獣耳の亜人。
巨大な荷車を引く商人。
完全に異世界だった。
だが綺麗なだけじゃない。
裏路地へ目を向ければ、壁にもたれて座る浮浪者。
血のついた包帯を巻いた冒険者。
値踏みするような視線を向けてくる男達。
華やかさの裏に、ちゃんと危険がある。
そんな街だった。
そして何よりありがたかったのが――文字が読める事だ。
店の看板。
通りの案内。
商品の値札。
全部普通に読める。
理由はわからない。
だが、これが読めなかったら今頃詰んでいた。
宿も探せない。
依頼も読めない。
金額すらわからない。
俺はポケットの金貨袋を軽く握る。
チャリ、と軽い音。
通貨の価値はわからない。
だが――少なくとも、不自由なく暮らせる量じゃない事だけはわかった。
だから働かなきゃいけない。
異世界だろうが結局それだ。
そうして辿り着いたのが、王都中央区にある巨大な建物。
【冒険者ギルド】
異世界テンプレである。
だが現実に見ると、想像よりだいぶガラが悪い。
武器持ち。
傷だらけの男。
酔っ払い。
怒鳴り声。
完全に“命が安い場所”だった。
「帰りてぇ……」
今さら帰れないけど。
重い扉を押し開ける。
瞬間。
酒と鉄の匂いが鼻を刺した。
広いホールには大量の冒険者。
受付では怒鳴る男。
隅では喧嘩。
笑いながら肉を食ってる大男達。
まるで俺には興味もない。
そんな空気だった。
だが――
それでも、変な圧だけは感じた。
場慣れした冒険者達の空気。
いつでも武器を抜ける緊張感。
笑っていても油断していない視線。
ここは城みたいに守られた場所じゃない。
弱ければ、普通に死ぬ場所なんだろう。
俺は妙な居心地の悪さを感じながら、受付へ向かった。




