表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

3 ついに、わたくしは拾う

姫視点

 今日もセレインは、わたくしを引き止めてはくれませんでした。


「……本当に、なんてバカなことをしているのかしら」

 溜め息を吐きながら、一人、森へと続く道をとぼとぼ歩きます。


 何もわたくしだって、好きでこんな愚かな方法を取っているわけではないのです。ですがもし王女自ら求婚などしてしまえば、それは相手にとって大きな圧力となるでしょう。

 ただでさえ、彼にはお父様が失言してしまった過去があります。娘の気持ちをくもうとした親心からだったのでしょうが、あの時は本当にぎょっとしました。

 国王陛下から姫婿に指名されては、例えセレインが嫌だとしても断れないではありませんか!


 幸いにも『そんなことは望んでいない』と言ってすぐに阻止することができましたが、もしあの場に自分がいなかったらと思うとゾッとします。わたくしは、権力で強引にセレインを縛りつけたいわけではないのです。


 落ち込みながら歩いているうちに、わたくしはいつの間にか森の中へと入り込んでいました。やわらかな木漏れ日が差し、遠くからは小鳥の囀りが聞こえてきます。

 いつもと何の変わりもない、穏やかな森の姿がそこにはありました。

 ……つまり、今日も王子は落ちてなんかいないのです。人間界から侵入者がいたならば、森の動物達はもっと騒がしくしているでしょうから。


「ええ、わかっていたわ。誰も落ちているはずがないって」

 聞く人もいないのに、わたくしは事実を確認するように言いました。


 そう、本当はわかっていたのです。わかっていたのに、わたくしはセレインの気を引くために足掻き続けていたのです。周りにもすっかり迷惑をかけてしまいました。もうこんなことは終わりにしなければなりません。


「そうね、帰りましょう。ほら、見渡したって誰も」

 辺りをぐるりと見渡している途中で、ふと、わたくしの視線が止まりました。


「え」

 ……人です。


「嘘」

 そう言って何度か瞬きしてみましたが、やっぱりそうとしか見えません。人です。

 大木の、その根本に。黒っぽいローブを纏った人が落ちています。


「そんな、まさか」

 本当に落ちているなんて!


 正直ものすごく動揺しましたが、このまま放置するわけにもいきません。わたくしは、できるだけ足音をたてないよう慎重に近づいて行きました。


 遠目に見る限り、落ちているのは男性のようでした。彼は木の幹に(もた)れるような姿勢で座っています。ぴくりとも動かないのは、意識が無いからでしょうか。

 フードを深く被っているため顔を確認することはできませんが、美しい銀髪が零れ落ちているのが見えます。


 ああ、彼は王子なのでしょうか!?


 ある程度まで近づいたところで、わたくしは足を止めました。

 王族であるわたくしは、かなりの魔法の使い手です。護衛のいない今のような状況でも、普通の相手であれば遅れを取ることはありません。ですがこんなところに落ちている時点で、この男は普通ではないでしょう。いきなり駆け寄って手を差し伸べるのは危険かもしれません。


 こんなことなら、せめて杖でも持ってくるべきでした。杖があれば、つついて様子を見ることができたのに。


「ああ、でも、つつくなら枝でもいいかしら。こうなったら、枝でつついて様子を」

「……止めて下さい」

「!」

 意識が無いと思っていた男から声を掛けられ、わたくしはピシリと固まりました。

 固まったままでいるうちに、男がゆっくりと顔を上げます。わたくしは目を見開きました。

 世界一美しいのではないかと思うほど、大変に美しい男です。なのにその顔を見たわたくしは、ただただ混乱するばかりでした。

 なぜならば。


「おまえ……おまえ、ここで何をしているのです。セレイン」

 そう。

 そこに落ちていた男は、セレインだったのですから。


「何をしているかですって?」

 セレインは私を見つめたまま、大真面目にこんなことを言いました。


「もちろん、誰か拾ってくれないかと思って落ちていたのですよ」

「……」

 いったいどういうことなのでしょう。

 セレインは私の想いに気づいた上で、無視していたのではないのでしょうか。

 それともまさか、兄様に頼まれて仕方なくここへ来たのでしょうか。


「おまえ、もしかして兄様に何か言われて来たのですか」

「ええ。ですがおそらく、貴女が考えているような意味ではありません。……姫、殿下は私に教えて下さったのです」

「何をです」

「私が姫に振られたのは、私の誤解に違いないと」

 わたくしはびっくりしてしまいました。


「わ、わたくし、おまえを振ったことなどありません!」

「ああ。ではやはり、私の誤解だったのですね」

 ホッとしたようにセレインが微笑みます。それから彼は、座ったままわたくしに向かって手を差し出しました。


「……なんの真似です」

「残念ながら、私は王子ではありません。ですが、もしそれでもいいのなら」

「……」

 まさか……まさか、拾っても良いということでしょうか!?


 わたくしは、なぜか体全体がぷるぷると震えてきました。

 そんな都合の良い話があるでしょうか。ああ、でもセレインは、わたくしが来るの知った上で自ら落ちていたのです。つまりはそういうことなのでしょうか。


「おまえ……おまえ、拾ったら2割はわたくしのものになるのですよ!?  いいのですか」

「貴女が望むのなら、全部差しあげますよ」

 わたくしは頬どころか、顔全体が熱くなりました。


 『王子は森に落ちていない』と以前セレインはいいました。

 でも嘘です。


 だっていま目の前に、わたくしの王子が落ちているのですから。


最後まで読んでいただきありがとうございました!


セレインはいったいどのように先回りして、じんな顔で待機していたのか気になるところです(笑)

少しでも『面白かった』と思って下さった方は、よろしければ下の「いいね」や【☆☆☆☆☆】を押して評価等をいただけると、とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ