1 姫様は拾いに行く
短期連載、全3話。軽めのラブコメですので、隙間時間にどうぞ。
「わたくし、今から森へ行って王子を拾って来ます」
「え?」
言われたセリフが理解できず、私は目のまえの相手を見返した。
発言の主は、このエルフの国の姫である。美しいと言われるエルフの中でも、さらに『世界中の美という美を集めて創り上げた』と謳われるほど麗しき姫である。
しかしその口から出た発言は、せっかくの美貌を台無しにするほどトンチキだった。
「……何を拾って来るんですって?」
「王子です」
「ちょっと意味がわかりません」
「まあ! なぜわからないのかしら」
姫は呆れたようにそう言った後、なぜか得意気な顔でこう続けた。
「聞いて驚きなさいセレイン。人間界から取り寄せた本に書いてあったのです。なんと、森には王子がコロコロ落ちているのですって!」
「そんな、ドングリじゃないんですから」
いったいどこから何の本を取り寄せたのだ、この姫は。
「とにかくわたくし、今から森へ行って人間の王子を拾ってきます」
「勝手におかしなモノを拾って来るのは止めて下さい。だいたい、人間なんて拾ってどうするんですか」
「わたくしの婿にするのですわ」
「は?」
驚きのあまり、私はうっかりぞんざいに訊き返してしまった。
まさか、本日14回目の見合いが失敗したせいで、自棄にでもなったんだろうかこの姫は。
「あのですね、アウレリア姫」
「止めても無駄です!」
姫は私の話を遮るように、キッとこちらを睨みつけた。
「だってわたくし、結婚相手がちっとも決まらないんですもの。これはもう、拾ってくるしかないのですわ!」
……どこから突っ込んでいいのかわからない。
しかし、私が何と言ったものかと言葉を探しているうちに、姫は侍女を引き連れて人間界へと向かってしまった。
侍女が去り際、まるで原因が私かであるような非難がましい視線を向けて来た。
いや、そんな目で私を見られても困るのだが。
* * * * *
「わたくし、今日こそは森へ行って王子を拾って来ます」
15回目の見合いが失敗した日の昼下がり。私は再び、アウレリア姫からバカな宣言を受けていた。
言うまでもないが、前回の王子拾いは失敗している。当然だ。本当に王子が落ちていたら怖い。
「アウレリア姫。普通、王子は森に落ちていないんですよ」
「いいえ、落ちているはずです。だって人間界から取り寄せた本に書いてあったんですもの」
だから、いったいどこから何の本を取り寄せたのだ。
「心配しなくても大丈夫ですわセレイン。わたくし、今日はちゃんと案内人も用意しましたから」
「案内人?」
姫の発言を怪訝に思い、私は姫の背後に控えていた男に目を向けた。彼はものすごく困った顔で私のことを見返した。
「……姫。その者は木の実を探すのが得意なのであって、王子の落ちている場所はわからないと思いますが」
「まあ、セレイン!」
姫は大仰な声を上げて私を見た。
「だって、ドングリみたいだと言ったのはおまえでしょう。ええ、きっと木の実に混じって王子もコロコロ落ちているに違いないわ」
そんなわけあるか。
「とにかくわたくし、今から森へ行ってきます。王子を拾ったら、2割はわたくしのものよ」
「なんですか2割って」
「落とし物を拾ったら、お礼として2割まで貰えるのですって」
王子のことといい、いったいどこから何の情報を得ているのだ、この姫は。
「姫、2割を生き物に適用するのは止めて下さい。手と足1本ずつ寄越せとでも仰るつもりですか」
「落ちている方がいけないのです」
「だいたい、わが国にそんな法はありませんよ」
「まあ、セレイン! おまえときたら小言ばっかり。そんなでは女性にもてませんよ」
「あのですね、姫」
「止めても無駄です!」
アウレリア姫は私の話を遮るように、キッとこちらを睨みつけた。
「とにかくわたくし、今日こそは王子を拾ってきます。さあ二人とも、行きましょう!」
姫は侍女と案内人を引き連れて、人間界へと向かってしまった。
案内人が去り際、まるで原因が私かであるような非難がましい視線を向けて来た。
いや、そんな目で私を見られても困るのだが。
* * * * *
「わたくし、今日こそは森へ行って王子を拾って来ます」
16回目の見合いが失敗した日の夕暮れ。私はまたもや、アウレリア姫からバカな宣言を受けていた。
言うまでもないが、前回の王子拾いは──以下略。
「失敗が続いてしまったけれど、今日は策があるから大丈夫ですわ」
アウレリア姫は、えへんと胸を張るように私に言った。
「策?」
「わたくしは悟ったのです。手ぶらで行くから失敗続きだったのだと!」
「……姫。まさか侍女に持たせているその肉でおびき寄せるつもりじゃないでしょうね」
「まあ! そのまさかですわ、セレイン」
止めてくれ。
「姫、肉でおびき寄せられる王子なんて碌なものじゃないですよ」
「大丈夫です。碌なものじゃなくても、拾った以上はわたくしが責任を持って面倒を見ますわ」
「そんな、捨て犬じゃないんですから。だいたい王子じゃない違うナニカがおびき寄せられて来たらどうするんですか」
「今回は腕の立つ護衛を連れて行くから、何が出ても平気です! 犬でも熊でも王子でも!」
王子はその並びでいいのか。
「あのですね、姫」
「止めても無駄です!」
アウレリア姫は私の話を遮るように、キッとこちらを睨みつけた。
「とにかくわたくし、今日こそは本当に王子を拾って帰ってきます。さあ皆、行きましょう!」
姫は侍女と案内人と護衛を引き連れて、人間界へと向かってしまった。
護衛が去り際、まるで原因が私かであるような非難がましい視線を向けて来た。
いや、そんな目で私を見られても困るのだが。




