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第13話 THE・修羅場




永遠は、決して手に入らない。

終わりは、世界に約束された事象だ。

誰もが不滅を願うが、これから何億年経ったとしても、人間の手に入らないものの筆頭は、やはり永遠だろう。


そうであるならば――


「…………」

「…………」

「…………」


この部屋が鋭利な殺意で充たされるのも、至極当然のことなのかもしれない。


テーブルを挟んで俺の目の前には二人の女性。濡れ羽色の長い黒髪と、絹のような銀髪の彼女たちは秀麗な面差しを冷たく研ぎ澄まし、路傍の石ころを見下ろすように俺を睨みつける。間近に迫った手の施しようのない未来図に、不安感が胸を潰し、心臓は血液の代わりに胆汁を送り出す。


ざわり。


膨らみきった風船にも似た、張り詰めた空気に、遂に破綻の一瞬が訪れた。



「「いつ、どこで、だれと?」」



俺は刀傷沙汰を回避するために必死こいてアタマを巡らせた。

ちなみに雪花には俺の嘘は通じない。どんな些細な嘘でも確実に見抜かれる。本人曰く「双子ですから」との事だが、果たしてそれが理由なるのか分からん。

まあともかくバレる、嘘は、一瞬で。強調の倒置法。


「「……………………」」


目の前の二人は口に髪を一房くわえていて、まるで爬虫類のような冷たい眼差しで俺の回答を待っている。


ここで選択を誤ると石塊を抱いて3日間正座させられる、あるいは毎日の食事にちょっとずつ洗剤を盛られて日に日に弱っていくというありがたい鞭撻を頂戴する羽目にもなりかねん。

例えはアレだが、過去の薬物中毒のトラウマが頭をよぎった。


そうして俺は一つの答えを絞り出した。これは賭だ。


「……正直に言うと俺、桂木雪弥は童貞だし、キスすらしたことない」


決して嘘ではない。あくまで〝桂木雪弥〟としては、だが。


「……と、本人は言っておりますが、雪花さん?」

「……どうやら嘘ではないらしいですね」


ククク。数多の修羅場を乗り越えてきた俺にかかればどうということはない。トンチをきかせたら一休もド派手なリーゼントに整えちまうぜ。


「というかさ、そもそもなんで俺が詰問されなきゃいけないんだ? 別に俺が誰と寝ようとキスしようが自由じゃん。それでお前らに迷惑かけることでもあんの?」

「「……っ!?」」


二人はぎくりと肩を振るわせる。


「俺にカミングアウトさせたからにはお前らも同様に答える義務があるだろ。で、どうなんだ?」

「な、ないよ! キスどころか男の人と付き合ったことすらないし!」

「そんな前のめりに強調して言うことでもないだろ。で、雪花は……って別に答えなくてもいいや」

「……それってどういう意味ですか」

「だってお前、俺がいないと全く外出ないし、他の男と会話するときも俺の後ろに隠れようとするじゃん」

「…………」

「不毛な会話だったな。ま、ともかくだ、世界の桂木雪弥くんはいつだってピュアピュアってことよ」

「「それはダウト(です)」」


オチがついたところでなんとか嵐は収まった。

せっかくの料理が冷めちまう、ということで俺たちは改めて夕飯にありつく。





「「ごちそうさまでした」」


馳走を味蕾の上でしっかりと堪能した俺と近衛は行儀よく手を合わせて言った。主に感謝はしないが、雪花に対してはやぶさかではない。


「お粗末様でした。あとは私が片付けておきますので、お二人はリビングでゆっくりしててください」

「俺も手伝おうか?」

「何度も言ってますが、兄さんは台所へは立ち入り禁止です。おとなしくテレビでも見ててください」

「……わかった」


にべもなく俺は台所から追い出された。

確かに過去、洗い物を一人で任されたときに色々とやらかしてしまったのは事実だが、俺の繊細すぎる指先に大雑把な皿どもがついていけないだけで、決してそっち方面の才能に恵まれなかったということではない。


「あ、なら私が手伝うよ!」

「せっかくの申し出ですが、御客人の手を煩わせるわけには……」

「ううん。これだけもてなされて何もしないと勇二さんに怒られちゃうような気がして。だからちょっとだけでも、ね?」

「……わかりました。では、空いたお皿を流し台まで持ってきてもらえますか?」

「うん、まかせて!」


近衛の申し出はあっさりと通された。

俺とはえらく扱いが違うような気もしたが、まあ仕方あるまい。誰に仕込まれたかは言うまでもないが、コイツの交渉術の老獪さは俺が身をもって知っている。


体よくのけ者にされた俺は、どっとソファに座り込み台所の様子を伺うと、二人が仲睦ましげに談笑していることに驚いた。雪花は極度の人見知りで、滅多に笑顔を見せることなんてないし、それが初対面の相手なら尚更だ。コミュ力お化けのエリカですら雪花と完全に打ち解けるまで3年を要したというのに……。


「――で、コーヒーを振る舞ってもらったんだけど、それがマズイのなんの」

「ふふっ、私も経験があるのですごくわかります」

「本人は自信ありげだから反応に困るのよねぇ」

「そこ、陰口は本人のいないところでやってくれ。俺、そういうところデリケートだから」


台所へ向けクレームを入れると、べーっと舌を出して俺を挑発する二人。

やれやれ、女三人寄ればかしましいとはよく言うが、別に二人でも変わんねえじゃん。と、エリカがいた頃と変わり映えのない光景に、俺の腹腔から溜息が押し出される。


「ところで二人とも日本に帰ってきたってことはこっちの学校に通うんだよね?」

「はい」

「どこの高校か聞いてもいい?」

「私も兄さんも、この春から聖応学園に通う予定です」

「……え? そ、それって本当に……?」


近衛は目を丸くして驚いている。

どうやら本当に陽子さんは自分の娘に何も知らせていなかったようだ。


「ちなみに結衣さんは――」

「わ、私も聖応学園だよっ! じゃ、これからは雪弥くんたちと一緒の学園に通えるんだね!?」


近衛は洗い物をする雪花を強引に振り向かせてガクガクと肩を振るわせる。


「ゆ、結衣さん……そんなに揺らしては……お皿が……」

「あっ、ごめんね!? うれしくって、つい……」

「……それは、私と一緒だからですか? それとも……」


そういって雪花は俺の方角に視線を向けてきたのでばっと目を逸らす。

やめてよ、こっちは聞こえないフリしてんだから。


「や、やだなぁ……雪花さんと通えるからに決まってるじゃない」

「でも、ついさっき()()()()()()、と」


主題は誰の目から見ても明らかだった。


「うっ……そ、それは……えーっと……」


今度は近衛が助け船を求めてこちらに視線を向けてくる。

俺はテレビを点け、当然のように無視を決め込む。


自分一人で沈めや。

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