表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

見上げたら、月はなかった

作者: 神楽柘榴

物語はふと思いついたときに形を成します。

基本的に年齢問わず楽しめるものを綴っていますが、言葉の輪郭が曖昧になることもあるかもしれません。

それもまた、一つの味として受け取っていただければ幸いです。

  ―なんだ?何か頭の中で引っかかる。なぜだ、俺はあの女と初対面のはずだ。


 俺の名前は(れん)。建築物に関するライターをやっている。

ある日、俺はいつものように依頼を受けた。

内容は「新月の日に女の霊が出る」といういわくつきの家について書いてほしいとのことだ。

「...俺は心霊スポットの紹介じゃないっつうの。」

あまり乗り気じゃなかったが、仕事なので引き受けることにした。


 その日の夜、ちょうど新月だったので、取材することにした。

まずは周囲に聞き込みだ。

「あそこは昔は交差点で女子高生が交通事故で死んだそうよ。」

なるほど、あのくだらん噂の根本はそこからか。このこと書けば報酬も増えそうだ。

そうと決まれば、中に入って写真撮って帰るか。

俺はあまり期待せずに入った。だが、このあと、目にも疑うような光景が待ち受けていた。


 「...さあてっと、中は普通だな。まあ、事故物件なんて噂がたてば誰も来ないよな。」

手に持ったカメラで良さそうな写真を次々に撮っていると...

―ガタッ

何かが落ちる音がした。

「なんだ?ちょっと行ってみるか。ガタも撮影しねえと。」

すぐ近くの廊下を曲がった瞬間、―

長い髪の女が立っていた。しかも寒気がする。それに近くの家具をすり抜けてこっちに向かってくるではないか!

「うわっ、やめろ。こっち来んな!」

このときなぜか脳裏に何かがよぎった。

「なんだ?何か忘れているような...もっと昔の大事なこと...」

そのあと、激しい頭痛が俺を襲った。

「ぐあーーーーー!なんだよこれ...はっ。」

そして思い出した。小さいころ、「自分の犯した最大の罪」に―


―あれは俺がまだ中学生のころ

「ちょっと!連!また、スマホばかり見て!目を悪くするよ!」

母は当時スマホ依存症の俺に対してすごく厳しかった。そして、部屋のドアが開き、

「別にいいじゃん。いっぱい調べてるんだよね。勉強もすごいし、自慢の弟だぞ、連は。」

そう言ってきたのは、俺の姉、由実(ゆみ)だ。こうやって俺の味方をする。これがいつものにちじょうだった。

ある日、俺はいつものように帰り道で姉と合流して、スマホをいじりながら帰っていた。その間の会話は覚えていない。ただ歩いていた。

すると、姉が「危ない!」と言って俺を突き飛ばした。

―それが姉の最期の言葉だった。

由実の葬式で俺はスマホをいじらなかった。どうやら、姉は歩きスマホで信号無視した俺をかばって死んだらしい。このとき、俺は

「俺のせいじゃない。俺が殺したんじゃない。」

そう自分に言い聞かせて、記憶を姉との思い出ごと封印して忘れていた。

そうだ。あの女は俺の姉さんだ。


 俺は目にいっぱい涙を浮かべて由実に話した

「姉さん、あのときはごめんね。俺、あれからスマホ依存症治したんだ。」

すると、由実は俺を抱き寄せて

「もういいんだよ。私のことは忘れて連は自分の道を歩んで...」

そう言ってどこか温かい光を出しながら消えていった。


 翌日、俺は依頼の記事を書いていた。

俺は無言で涙を流して、記事の最後にこう書いた。

「この家は普通の家で、霊の噂は嘘であった。」と。

デスクには俺と姉さんの写真が立てかけていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ