見上げたら、月はなかった
物語はふと思いついたときに形を成します。
基本的に年齢問わず楽しめるものを綴っていますが、言葉の輪郭が曖昧になることもあるかもしれません。
それもまた、一つの味として受け取っていただければ幸いです。
―なんだ?何か頭の中で引っかかる。なぜだ、俺はあの女と初対面のはずだ。
俺の名前は連。建築物に関するライターをやっている。
ある日、俺はいつものように依頼を受けた。
内容は「新月の日に女の霊が出る」といういわくつきの家について書いてほしいとのことだ。
「...俺は心霊スポットの紹介じゃないっつうの。」
あまり乗り気じゃなかったが、仕事なので引き受けることにした。
その日の夜、ちょうど新月だったので、取材することにした。
まずは周囲に聞き込みだ。
「あそこは昔は交差点で女子高生が交通事故で死んだそうよ。」
なるほど、あのくだらん噂の根本はそこからか。このこと書けば報酬も増えそうだ。
そうと決まれば、中に入って写真撮って帰るか。
俺はあまり期待せずに入った。だが、このあと、目にも疑うような光景が待ち受けていた。
「...さあてっと、中は普通だな。まあ、事故物件なんて噂がたてば誰も来ないよな。」
手に持ったカメラで良さそうな写真を次々に撮っていると...
―ガタッ
何かが落ちる音がした。
「なんだ?ちょっと行ってみるか。ガタも撮影しねえと。」
すぐ近くの廊下を曲がった瞬間、―
長い髪の女が立っていた。しかも寒気がする。それに近くの家具をすり抜けてこっちに向かってくるではないか!
「うわっ、やめろ。こっち来んな!」
このときなぜか脳裏に何かがよぎった。
「なんだ?何か忘れているような...もっと昔の大事なこと...」
そのあと、激しい頭痛が俺を襲った。
「ぐあーーーーー!なんだよこれ...はっ。」
そして思い出した。小さいころ、「自分の犯した最大の罪」に―
―あれは俺がまだ中学生のころ
「ちょっと!連!また、スマホばかり見て!目を悪くするよ!」
母は当時スマホ依存症の俺に対してすごく厳しかった。そして、部屋のドアが開き、
「別にいいじゃん。いっぱい調べてるんだよね。勉強もすごいし、自慢の弟だぞ、連は。」
そう言ってきたのは、俺の姉、由実だ。こうやって俺の味方をする。これがいつものにちじょうだった。
ある日、俺はいつものように帰り道で姉と合流して、スマホをいじりながら帰っていた。その間の会話は覚えていない。ただ歩いていた。
すると、姉が「危ない!」と言って俺を突き飛ばした。
―それが姉の最期の言葉だった。
由実の葬式で俺はスマホをいじらなかった。どうやら、姉は歩きスマホで信号無視した俺をかばって死んだらしい。このとき、俺は
「俺のせいじゃない。俺が殺したんじゃない。」
そう自分に言い聞かせて、記憶を姉との思い出ごと封印して忘れていた。
そうだ。あの女は俺の姉さんだ。
俺は目にいっぱい涙を浮かべて由実に話した
「姉さん、あのときはごめんね。俺、あれからスマホ依存症治したんだ。」
すると、由実は俺を抱き寄せて
「もういいんだよ。私のことは忘れて連は自分の道を歩んで...」
そう言ってどこか温かい光を出しながら消えていった。
翌日、俺は依頼の記事を書いていた。
俺は無言で涙を流して、記事の最後にこう書いた。
「この家は普通の家で、霊の噂は嘘であった。」と。
デスクには俺と姉さんの写真が立てかけていた。