第2話:君の隣に、私はいるよ
「覚えてたんだ……」
放課後の廊下、夕日が差し込む窓辺で、湊はぎこちない声を出した。
凛は、まっすぐに湊の目を見つめて言う。
「当たり前でしょ。あの約束、ずっと忘れなかったよ」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
湊は思い出す。
あの海辺の公園。
小さな手を握られて、「また一緒に学校行こうね」って、笑っていた凛の横顔。
「……でも、なんで今になって戻ってきたの?」
「色々あったけど、両親の仕事が終わって、こっちに戻ってこれたの。……でも、本当の理由は」
凛は一歩、湊に近づいた。
「湊に会いたかったからだよ」
ドクン、と胸が跳ねた。
こんなにストレートな言葉を投げかけられたのは、初めてだった。
「……そっか。ありがとう」
湊は、それだけ言うのが精一杯だった。
◆ ◆ ◆
翌朝、湊が教室に入ると、すでに成瀬悠真と陽葵、そして何人かのクラスメイトが集まっていた。
「湊ー! ちょっとちょっと!」
陽葵が手を振って呼んでいる。
「お前さ、昨日、凛ちゃんと何話してたの?」
「え、別に……」
「怪しいな~。再会した瞬間に目が合ってたし。実は前から知り合いとか?」
「まあ、ちょっとだけね」
曖昧に笑って返す湊。
凛はまだ登校してきていなかった。
「へぇ~! でもいいな、あんな可愛い子と……再会イベントとか反則だよね!」
隣にいた藤村奏汰がニヤニヤしながら言った。
「ま、俺は陽葵ちゃん派だけど?」
「は、はあっ!? な、なに言ってるの、もう!」
そんなやり取りに苦笑していると、教室のドアが開いた。
「……おはよう」
凛が教室に入ってきた。少しだけ視線が交差する。
湊は気づく。凛の手には、かつて自分がプレゼントしたしおりが挟まれた文庫本があった。
――ああ、たしかにあの時の「約束」は、ちゃんと二人をつないでいたんだ。
その瞬間、湊の中で何かが変わり始めていた。
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