魔法とリン 前編
リュシアン王子と別れるときにリンはもう一度王子の手を握り、体内に呪いが残っていないか確認した。リュシアン王子も体調や記憶に不備などはないと言ったのでこの件は本当に終了したとリンは思った。
フアナはリュシアンと共に王族専用の隠し通路で王宮外に出ることとなった。ここ数日の話を父親である公爵(すごい偉い人っぽい)に話をするらしい。リンの事も相談するらしい。
ただ、リンが王宮からでるには色々と段取りが必要らしく大人しくこの客室で待機していて欲しいとフアナに言われた。あって間もないのにリンの本質を見抜かれていた。
恥ずかしい。
リンは、二人を見送った後そのまま客室でお風呂に入りフカフカのベッドでゆっくり休むことができた。
翌日、ミミが幸せそうな顔でリンに挨拶に来たため、どうしたのぉ〜?と声を掛けてみると
「昨日、手をつないで屋台を回りました。」
と嬉しそうに報告してくれた。うむ。幸せそうで何よりだ。
午後から王太子とリュシアン王子が面会したいとの連絡を受けていたらしくリンは一つ返事で了承した。きっと昨日の話の続きだと思われた。
「さて、リン様お暇でしたら散策にでも行かれますか?」
とのミミから声かけに
「えっ、ここから出るの禁止かと思ていたよ」と答えると
「王宮の外はダメですが中は大丈夫ですよ。さすがに王族のプライベートスペースはダメですけどね〜。でも、聖女様なら許可されそうな勢いはありますが...。」
とミミは乾いた笑いと共に王宮ジョークを言ってくれた。
ジョークにしておいて欲しい。トホホ。
ミミと二人で小粋なトークをしながら王宮を探検していると突然ミミがリンの袖を引っ張った。
「リン様!あちらが騎士団の演習場となっています!」
少し興奮気味に説明し始めた。
「時々、外部の方を呼んで公開演習をしているのですよ。その時はフリーの町娘や未婚の貴族所女性達であふれかえります。今日は公開日ではないので騎士関連の方々しか見学していませんね!」
「そっか〜。でも私あまり騎士とか興味ないんだよね~」
ジャンに対する嫌がらせを思い出したリンはこいつらとは関わりたくないわと思いながら次の場所へ移動しようとする。
その後をおいかけるミミだが少し足取りが重かった。
「ん〜。どうしたの?ミミちゃん」
ミミが何かを言いあぐねていると
「あっ、ミミちゃんじゃん!どうしたの演習見に来たの?」
練習着と軽装備の皮の胸当てを付けた背の高い男性がミミに声をかけた。
「あっ、ステファンさん、こんにちは。いつもクレマンがお世話になってます!」
とお辞儀をしながら挨拶をした。
リンは振り返りそんな二人の会話を聞いていたが
ステファンはリンを見ると一瞬固まった
「ミミちゃん、もしかしてその方は...。」
「はい、聖女リン様です。一緒にお散歩をしていました。」
ミミがそう答え終わると、ステファンはリンの前に跪いて
「ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。私は第三騎士団所属のステファン・オランドと申します。聖女様にあらせられましては...。」
「あ~!大丈夫です。丁寧なご挨拶ありがとうございます。どうぞお立ちください」
リンはすかさずステファンに礼をといた。
その状況をミミは目を丸くして眺めていた。
「ミミちゃん、聖女様は本来気安く話しかけてはいけない存在なんだよ」とステファンは優しくミミに説明した。
「え~。そんな、聖女様今まで申し訳ございません」
ミミもお辞儀ではなくカーテシーで対応すると
「ミミちゃん、もうそういうのは大丈夫だって!初めてあった時言ったでしょ。でも、人目のあるところではやっぱりきちんとしないといけないのかもしれないね」
三人で会話していると
「お〜い!ステフ先輩演習始まりますよ!えっミミ、どうしたの?昨日は楽しかったね。また遊ぼうね~」
その男性はいつものメンバーしか目が入っていなかった。ミミとステファンはオロオロしながらリンに視線を送ると
「どうしたんですか?ステフ先輩借りてきた子猫...。って聖女様!」
その男性も慌てて跪いて挨拶をしようとしたので
「ミミちゃん!止めて!」
「はい!リン様!クレマン、聖女様は正式なご挨拶を必要としていません!リン様この人が私の婚約者のクレマンです!」
ミミがクレマンを紹介してくれる。
「はい、私がミミともうすぐ結婚予定のクレマンです。ミミがいつもお世話になっています!」
「ちょっと!クレマン!」
二人のやりとりを見ていたリンも楽しくなったので
「ハイハイ。幸せそうな二人に『祝福』を~」
と言いながら両手を広げると、二人の頭の上に白い花びらがひらひらと舞った後、溶けるように消えた。
「あっ」
「「えっ」」
リンは軽いノリのつもりで行ったのだが、見事にミミとクレマンを祝福してしまった。
ステファンは顔色を悪くしながら
「私は何も見ていません...。見てませんからね!」
と言って先に演習場に戻ってしまった。
ミミとクレマンは感動しながらも
「リン様、これって報告とか...。」
「ミミちゃん、しないで。私の自由が奪われちゃう。」
「ソウデスヨネー。クレマンも言っちゃだめだよ」
ミミがクレマンに念を押すと
「分かりました。聖女様の自由を守るため、絶対口外いたしません」
とリンを見て一つ頷いた後、サミーも演習場へ戻っていった。
リンとミミの2人はしばらく沈黙した後
「せっかくだし、演習場に寄ってみよっか」
「はい、迫力がありますのでぜひご覧ください」
と現実逃避するようにトボトボと演習場へ向かった。
王宮内に併設されている演習場はどの角度からも見学しやすいように観客席が外側に向かうほど高くなっている仕組みだった。
せっかくなら近くで見てみましょうよとミミのおすすめポイント、クレマンがよく見える場所へ連れていかれた。
クレマンが所属する第三騎士団は主に外回りの警備が中心になるらしい。
時々地方都市への遠征もあるらしい。
「その時は、もう寂しくて寂しくて。あちらで他の女性と楽しく過ごしていたらどうしようって悩んでいた時期もありました。」
「そうだよね~。すぐに連絡取れる手段とかなさそうだもんね」
リンは自分の世界の便利さを改めて実感しながらミミの恋愛相談を聞いていた。
「リン様は、私の気持ち理解してくれますか!」
ミミは嬉しそうに話を続ける。
「クレマンは私の婚約者ですから、これ以上心配しなくてもいずれ結婚し一緒に暮らすのだから少しは我慢しないといけないって両親から言われたりするんです。」
「そうだよね~。魔物がいない世界といっても事件や事故がないって訳じゃないから心配する気持ちも分かるし、不安になるのも分かるよ」
リンはミミを励ましながらクレマン達以外の練習風景を見ていた。
「ん?何?あの端っこで細々と訓練している人たちは?」
リンが見た方向には、一方的に騎士たちのサンドバックになっている集団がいた。
ミミはリンの表情を伺うように
「あっ、あの方たちは魔法騎士ですね。魔法が使えることは非常に貴重ですので。基本的に魔法騎士になるように義務付けられてます」
「え~。でもいかにも体動かすの苦手そうな方もいらっしゃるような...。」
リンはそのうちの一人が特にあたりが酷そうに見えた。
「そうですね...。魔法が使えるという条件でほぼ魔法騎士になれますので、どうしても騎士たちに目を付けられてしまうんです。あっ、今ターゲットになっている方は、平民出身の人と獣人の方...。みたいですね。」
「やり返せないの?」
リンは心配そうに二人を見ていると。
「そうですね...。どうしてやり返さないのかまでは考えたことはありませんでした。この状況が普通だと思ってしまって。ああいう姿ばかりを見せてしまっているので魔法騎士は本当に必要なのか?という議論が王宮内に広がりつつあるんですよ」
「どうして、騎士って名称をつけるんだろうね。もう、魔法特化でいいと思うんだけど」
「聖女様、彼らもああみえて騎士学校を卒業しています。しかも騎士達よりも学費を免除されています故、簡単に辞することができないんですよ」
リンとミミが話していると後ろから声がかかった。
「あっ、騎士団長様」
ミミは慌ててカーテシーをした。リンは「初めまして〜」とだけ言った。
「ご挨拶が遅れました。私は騎士団長のオジエと申します。聖女様には...。」
「オジエ団長、楽になさってください。大丈夫ですよ」
とリンが言うと「ありがとうございます。失礼します」
と言いながらオジエはリンの隣に座った。
「やはり、聖女様からみても魔法騎士は不憫に思いますか」
「不憫っていうか、憂さ晴らしをしているように見えますよ」
「そうですか...。本来なら私が注意しなければいけないのですが、私がここにいても彼らの状況はほぼ変わらないんですよね。」
「もしかして、オジエ団長さんも難しい立場なんですか?」
リンが団長の方を見ると、苦笑いをしながら
「魔法騎士は普通の騎士と違って結果が表に出ずらいんですよね。だから、周囲の評価も低いそれに伴って」
「ただ飯ぐらい〜とか呼ばれているんですか?情けないですね...。」
リンが溜息をつきながら魔法騎士の人数を数えた。
「それにしても魔法騎士って少なくないですか?10人いますか?」
「そうですね、ちょうど10人です。他の魔法騎士は学費を返納して辞めています。」
「辞められないのは、資金力のない平民か獣人ですか...。」
リンは、痛めつけられて立ちあがれない魔法騎士達を見つめながら
「じゃあ、彼らを私が貰いますね。」
「「えっ?」」
「だっていらない子達なんでしょ? 分かりました。私がきちんともらってあげますから」
リンはオジエ団長を見るとニヤリと笑った。
最後までお読みいただきありがとうございました。