ジャンのアンヌの現実(後編)
連投中です。中編からお読みください。
翌日実家へ行くにあたって両親の予定が空いている日を確認すると3日後に来てほしいと返事が返ってきた。
アンヌには悪いがその日は仕事を誰かに交代してもらって欲しいと伝えるとこの前の先輩が二つ返事で了承してくれたそうだ。
実家に行くまでに、珍しく聖女様からお手紙が届いた。
何か困ったことがあったのかと心配して直ぐに手紙を読むと、驚くべきことが書かれていた。私も、今の状況を簡単に説明すると聖女様のお願いにアンヌと相談してよろしくお願いしますと伝えた。
これで、両親も親戚も私たちの事を反対することはできないな。
正直聖女様のお願いは私たちにとっては願ったりかなったりだった。
「ミネルヴァもこれで納得するだろう」
「そうだね。まあ納得しなくてもジャンを渡さないけどね」
最終的には決闘だなと物騒な事を呟いていたけど私は聞いていないふりをした。
貸し馬車で家のエントランス部分まで乗り上げると、レザイ家の家令が出迎えてくれた。
久しぶりに会ったがとても元気そうで良かった。
「ジャン坊ちゃま、アンヌ様お久しぶりでございます。旦那様と奥様がお待ちです。こちらへどうぞ」
この家令はいつも、アンヌの事を様付けで呼んでいた。獣人への偏見がないのだろう。やはり人格者なのだと感心した。
私は、一つ頷くと彼の後をついていった。
その部屋は父上の書斎でも家族で寛ぐ部屋でもなくやや広めの応接室に案内された。
「こちらでございます」と私たちに伝えた後、ノックをしドアを開けた後
「ジャン坊ちゃまとアンヌ様が到着いたしました」と既にソファーセットに座っている両親に伝えた。
母上は私達を見るとニコリと微笑み、父上は一つ頷くと
「そちらに座りなさい」と両親の向かい側のソファーを勧められた。
私はアンヌをエスコートしながらそのソファーに座ると
「そちらの獣人の人にソファーを使わせるのですか?叔父様」
と二三日前に聞いた声の主であるミネルヴァが父上に話しかけていた。
「こら、ミネルヴァレザイ当主になんという口の聞き方をするのだ。すみません。私の教育不足で」
ミネルヴァの隣には父上の弟であるレザイ子爵が座っていた。
「ジャン様、お久しぶりでございます」
レザイ子爵は立ち上がり私に挨拶をする。
「こちらこそ、叔父様もお元気そうでなによりです」
お互い堅く握手をした後改めてアンヌをソファーに座らせ自分も座った。
「今日は、皆に集まってもらったのはだな。ジャンとアンヌさんの事だ」
父上がおもむろに話し始めた。
「ミネルヴァはアンヌさんの職場に度々嫌がらせをしていると小耳にはさんだが」
父上の言葉に叔父が驚く
「なっなんてことを!アンヌ様、申し訳ございません!!」
叔父はミネルヴァと違いすぐにアンヌに謝罪をする。
アンヌは困った表情をしながら
「そうなんです。お店にもお客様にも迷惑をかけてしまって。私個人に対することでしたら受けて立つのですが...。あっでも最終的には仕事終わりに突撃されましたが...。」
アンヌの言葉を聞いて母上が思わず「まぁ...。」と気の抜けた言葉を発した。
ミネルヴァはキッとアンヌを睨むと
「叔父様も叔母様も将来ジャン様のお嫁さんは私になるって言ってたじゃないですか!」
「そうね。確かに言ったこともあるわ。」
「ですよねっ!」
「でも、それは、ジャンもミネルヴァちゃんもお互い良い人がいなければという話だったと思うのだけど」
「私はいませんわっ!」
えっ、何言ってんだコイツ。
「そうよね。見れば分かるわ...。でも、ジャンには素敵な奥さんがいるのよね。だから残念だけどミネルヴァちゃんも素敵な人を見つけてね。」
母上はやんわりとミネルヴァに諦めるように窘めるが
「でも、叔母様まだ二人は正式な結婚はしていないでしょ?どうやらその方はジャン様のレザイを名乗っていませんし。きっと、ジャン様は無理やり...。その、獣人の人は力に物を言わせて...。その...。体を奪われたのかもしれませんもの!」
ミネルヴァは自分で下品な事を言っていると認識しているのか顔を赤くしながら言っていた。彼女の妄想では、私はアンヌに無理やり貞操を奪われたという設定らしい。
一度コイツをたたき切っても良いだろうか...。
じゃないと、隣から殺気に満ちた愛妻の方を怖くて見ることができないっ。
「ミネルヴァ、お前は自分が何を言っているのか理解しているのか?」
叔父様は怒りを通り越して呆れていた。
「父上、少し報告したいことがあるのですが...。」
両親がミネルヴァの勘違いを気にしていない様子だったのでもう一つの本題を伝えることにした。
「どうしたんだい」
そのまま話を聞こうとするがレザイ子爵親子の前で話すのもどうかと思い父上に目配せすると
「ここからは家族の話になるので席を外してくれるかい?」
父上と立場をわきまえている叔父の関係は良好なので叔父はそのまま立ち上がりミネルヴァに声をかける。
「さあ、戻るぞ。お前には話し合わなければいけないことが多すぎる!」
「そんなっ、お父様!私はまだジャン様との事は諦めきれないのです!二人でレザイ子爵家を守っていきたいのです!」
部屋の空気が下がったような気がした。
確かにレザイ子爵家の子どもはミネルヴァ一人しかいないから本来ならば彼女が婿をとり引き続きレザイ子爵を名乗っていくはずだ。
だからミネルヴァの言っていることは間違っていないとおもうのだが
「その事なんだが、私は自分の代でこの子爵を兄上にお返ししようと考えているんだ」
えっ?
レザイ子爵はもう一度ソファーに座りミネルヴァに視線を合わせてゆっくりと話始めた。
「お前がもう少ししっかり学び淑女としても主人としても成長していたらこの子爵を譲ることも考えたが、今の自分を見てみなさい。綺麗に着飾り毎日楽しく友達とお茶会を開く事しかしない。お前に子爵領を守る気概が見えないじゃないか。まさか自分が受け継いだ領をそのまま婿に入ってくれる相手に丸投げするつもりなのか?」
叔父の真剣な言葉にパニックなりながらも
「だから、ジャン様と二人で子爵領を守っていきたくて...。」
「今のミネルヴァはジャン様に魅力的な女性に見えるかい?アンヌ様に嫌がらせをしなければいけないという事はその地点で負けているんじゃないかい?」
自分の娘にそこまで言わなければいけない叔父の気持ちを考えると少し切なくなった。
ミネルヴァは小さな子供みたいにイヤイヤと言いながら私の所に飛び込もうとする私はそのまま避けようかと悩んでいると隣で「チッ」と舌打ちが聞こえた後
ミネルヴァが私の視界から消えた
「えっ?」
思わず声が漏れる。飛び込んできたはずのミネルヴァが自分の座っていたソファーに戻っていた。そしてその後ろには、アンヌが彼女の肩をしっかり押さえている。
「あまり...。私の旦那様にベチャベチャ触ろうとするのやめてくれない?」
「ヒィッ」
どうやら見えないが少し爪を立てているらしい。肌には当たってないがあのドレスはもう着る事はできないだろう。
「失礼しました。」とレザイ子爵に軽く謝ると自分の席に戻った。
「もう、ここで話してもいいんじゃない?」
アンヌも面倒になってきたらしく取り繕うのをやめたみたいだ。
アンヌがいいというのでここで話すことにした。
最後までお読みいただきありがとうございました。




